52 / 62

お別れ②

志乃が学園を去る一日前、蓮斗は彼の住まう寮へと向かった。今日は日曜日で、自由に動くことができるためこの日を選んだ。  緊張はしている。けれど、それよりも強く感じているのは悲しみだ。  扉をノックすると、中から声が聞こえてきた。扉が開き、顔を出した志乃は、蓮斗の顔を見ると大袈裟に眉を寄せる。それに苦笑いを零しつつ「中に入れてよ」と頼む。 「入れば」  投げやりな了承。それに頷き返し、蓮斗は部屋へと足を踏み入れた。  初めて入った志乃の部屋には数個のダンボール以外にはなにもなかく、それが寂しさを醸し出している。本当に学園を去ってしまうのだと自覚させられた。 「なんの用?僕のこと笑いにでも来たわけ?」 「そんなことしないよ。ただ、話したくて」 「なにを話すことがあるわけ?君は勝った。僕は負けた。それがすべてだろう」  違う。蓮斗は今回のことを勝ち負けなどで片付ける気などない。嫌なことも苦しいことも沢山あった。自分がイジメられている理由すらわからず、痛みに耐える日々は辛かったし、カンニング事件のときは誰にも信じてもらえないと不貞腐れもした。  けれど、その期間が蓮斗を成長させ強くしてくれたのも事実。  許せないこともある。忘れられないことも沢山だ。それでも、恨みを持ったり、志乃を見下すことはしたくない。する気もなかった。 「僕はあんたにされたことを許せないと思う」 「……そう」 「でも、いつか許せる日が来るんだとも思ってるよ」  アリステラがルキナのことを許したように、蓮斗もいつの日か志乃のことを許せるのだろう。それは来年かもしれないし、何十年も先かもしれない。もしかしたら来世なのかも……。  それでも、いつか時間がなにもかもを解決してくれる。 「意味分かんない……それに、僕がしたことが間違っていたとしても、後悔なんてしてないから」 「うん。それでいいよ。それでこそ志乃だ」 「……気持ち悪いやつ」  睨まれるけれど平気だ。蓮斗は志乃からずっと逃げていた。逃げることが平穏に繋がると信じていたからだ。けど、逃げ回った今は問題にきちんと向き合うことが一番大事なのだと理解している。 「マダムトーリーが言ってたんだ。過ちを犯したとしても、繰り返さなければいいのです。そうしていればいつか皆忘れてくれますってさ」 「トーリーって、トーリー・ウィスパーのこと?あの堅物女がそんなことを言うなんてね。でも、そうだね……僕に社交界のことを教えてくれたのも彼女だった。本当にウザかったよ。どれだけ嫌だと言っても指導をやめてくれなくてさ。まあ、そのおかげで助かったこともあったけど」  まさかルキナもマダムトーリーから学んでいるとは思っておらず驚いてしまう。そういえば、貴族のことを彼とこうやって話すのも初めてだ。 「もっとこうやって話していれば、なにかが変わったのかな」 「……そんなの嫌だよ。だって僕は蓮斗のことが嫌いだから」 「僕は嫌いじゃないよ」  

ともだちにシェアしよう!