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番外編④(輝視点)
アリステラと過ごした城下町で、シリルは彼との別れを決意した。
いつか遠く明るい未来まで羽ばたいていくはずのアリステラのことを、身勝手な感情で振り回すことなど、できないと考えたからだ。手を繋ぎ、人通りの多い大通りを進みながら、シリルはひたすらこのことをどうやって伝えたらいいのかと頭を悩ませる。
「アリステラはもうすぐデビュタントだね」
「うん!ついに僕も成人するんだ。すごくめでたい日だから、シリルにパートナーを務めて欲しいんだけど駄目かな?」
「……すまない。パートナーは引き受けられないんだ」
「え……でも……」
表情を陰らせたアリステラを見ていると、シリルも心苦しい。本当はパートナーを務めてあげたい。パートナーの特権ともいえるファーストダンスを、誰にも譲りたくなどなかった。
けれど、アリステラへの気持ちを断ち切ると決めた今、引き受けるわけにはいかない。
「その代わり、一緒にダンスを踊ろう。どうかな?」
「パートナーじゃないとファーストダンスは踊れないよ……」
「それなら二番目でどうかな」
「……っ、わかったよ。我儘は言わない」
アリステラは良くも悪くも公爵令息だ。身分では上であるシリルに逆らうことなどしない。それが返って、お互いの距離を遠ざけてしまう。
泣き出しそうな顔で頬を膨らませているアリステラのことを、今すぐにでも抱きしめてあげたかった。
してあげたいことや、贈りたい言葉はいくらでも浮かんでくる。それなのに、シリルはなに一つアリステラに伝えられない。渡すこともできない。
人通りの少ない道まで来たとき、シリルはアリステラに止まってほしいとお願いした。
「どうしたの?」
「……少しだけ抱きしめてもいいかな」
「え……」
了承を得る前に思い切りアリステラを胸の中に抱き込む。背に腕を回し、強く、きつく、力を込めた。
──アリステラのことを愛している。
守ると決めた大切な人だったはずだ。
けれどこの先、きっと自分はアリステラを傷つけてしまう。何度も泣かせてしまうだろう。そのことを思うとシリルは、やり場のない悲しみや歯痒さに押しつぶされてしまいそうだ。
ただ一言……その一言を伝えることがどうしてこんなにも難しいのだろう。
幼い頃は、無邪気に手を取り合い野原を駆け回っては、笑いあっていたはずなのに。今はもうそんなことすら難しい。
「どうしたの?今日のシリルは少し変だ」
「ごめん……」
「デビュタントのことならもういいってば。兄様に頼むからさ」
そのことに対しての謝罪ではない。けれど、本当のことなど到底言えなかった。だから、シリルはもう一度だけ「本当にごめんね」とありったけの思いを乗せて、謝罪の言葉を口に出す。
「変なシリル。これから先、何回だってパーティーはあるんだから。そのときにパートナーを務めてくれるなら許してあげるよ」
そんな未来は来ないだろうということを、シリルはわかっている。
「そうだね」
だから、曖昧な返事で言葉を濁す。
アリステラはそれを了承と受け取ったのか、嬉しそうに花のような笑みを見せてくれた。
──その数ヶ月後、アリステラのデビュタントの日にシリルはルキナと出会うことになる。
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