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【第2話 推しとの遭遇】ついに推しとの遭遇
二人が転校してきて数日が経った。
あれ以来学校全体がザワザワしていて落ち着かない。校長先生から教師たちに何度も注意喚起があったし、職員会議の議題にもあがった。それでも、年頃である高校生を宥めることは難しい。
何より夏目はわかるのだ。あの二人を見て落ち着くことなんてできない生徒たちの気持ちが……。なぜなら、自分だって生徒に交じって騒ぎたいくらいなのだから。
生徒の間で密かに回る隠し撮り写真が欲しいと思うし、彼らの担任の教師が羨ましくて仕方がない。夏目は芸能コースの授業を担当することがないから、彼らが転校してきた初日に体育館の壇上で挨拶をした時以来、その姿を校内で見かけることはなかった。
全く姿を見ることがないから、実際に登校しているのかもわからない。
「手の届くところまで推しが近付いてきてくれたのに……」
小さく溜息をつく。
所詮大スターと凡人の距離なんて、そう簡単に埋まらないのだと痛感した。
しかし、運命の歯車が大きく回り出す。いつも遠くから眺めていたモトヤガとついに会話をするチャンスが巡ってきたのだ。
しかし、それはあまりにも突然すぎて、心の準備なんて全くできていなかったものだから、夏目にとっては苦い経験となってしまった。
放課後の廊下は、部活動へ向かう生徒たちで賑わっていた。
夏目は図書室へ向かいながら、小さく溜息をつく。
(結局、今日も見かけなかったな……)
大河と宗次郎が転校して来て数日。
同じ学校にいるというのに、芸能コースは授業時間も移動時間も普通コースとほとんど重ならない。校舎のどこかですれ違っているのかもしれないが、夏目は一度も二人の姿を見ることができなかった。
(まぁ、それが普通だよな)
推しは画面の向こうや舞台の上で輝いている存在。近くにいること自体が奇跡なのだ。
それなのに、どこか期待してしまう自分がいる。
(もしかしたら今日こそ見かけられるかも)
そんな淡い期待を抱いてしまう度、自分に苦笑いするしかなかった。
「はぁ……」
夏目が大きく息を吐いた、その時だった。
「あの先生、僕、図書委員になったんですけど……。先生が図書委員の担当ですか?」
「……は?」
この生徒は一体誰に話しかけているのだろうか。夏目は生徒を二度見してからキョロキョロと辺りを見渡した。
「いや、貴方が夏目先生ですよね? あれ? 夏目って名字? それとも名前?」
「あ、は、はひ……な、なんとでも好きに呼んでください……」
「よかった。僕、最近転校してきた宮本宗次郎です。よろしくお願いします」
「ど、どうも……」
テレビで何百回も聞いた声だった。
舞台で響く凛とした声。
ラジオで冗談を言ってファンを笑わせる声。
それが今、自分だけに向けられている。
(夢じゃないよな……)
思わず自分の頬を指先でつねってみる。
ちゃんと痛い──。ということは現実だ。
現実で宗次郎が自分の名前を呼び、会話をしている。
(無理だ……)
心臓が限界だった。
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