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【第3話 迷子のパトロール】先生だから 

「あー、面倒くさいな」  夏目は大きな溜息をつく。今日は週に一回、金曜日に実施されているパトロールの日。パトロールといっても生徒が非行に走らないよう、夜間のゲームセンターやファミレスを巡回して歩くのだ。月に一回の当番制になっており、今日は夏目がその当番の日だ。  最近の高校生はバイトをしているからお金もあるし、SNSも盛んだから道を踏み外すリスクが昔より高いのかもしれない。マッチングアプリやパパ活……そういった魔の手から生徒を守ることも大切な仕事なのだ。同じく当番になっている教師たちと、手分けしてぐるりと街中を巡回する。 「あー、夏目ちゃんだ! パトロール乙!」 「もう夜遅いから早く帰りなさい」 「はーい。また来週ね」 「はいはい。また来週」  ゲームセンターにたまっていた男子生徒に声をかければ、素直に従ってくれる。見た目はもう大人だし反抗期だってあるけど、高校生はまだまだ子供だ。可愛いなと感じる。自分に向かって無邪気に手を振る生徒を微笑ましく見送った。  面倒だと言いつつも、夏目はこの仕事が嫌いではなかった。  授業中に居眠りをしていた生徒が、補習を重ねて赤点を免れたとき。進路に悩んでいた生徒が、ようやく自分の進みたい道を見つけたとき。教師になってよかったと思える瞬間は、確かに存在する。  生徒たちからは頼りないと思われているかもしれない。それでも、彼らが道を踏み外しそうになったときには、きちんと止められる大人でありたいと思っていた。 「俺だって、一応先生なんだからな」  誰に聞かせるでもなく呟き、夏目はジャケットの襟元を正した。  早く帰って推しの出演番組を見たい。その気持ちは変わらないが、今だけは教師としての役目を果たさなければならない。  まさかこの後、自分が何よりも大切にしている二人を相手に、教師らしく振る舞わなくてはならなくなるとは夢にも思っていなかった。  ゲームセンターやファミレスが並ぶ賑やかな通りから数本奥の道に入ると、雰囲気が一変する。  そこはラブホテルや明らかに怪しい店が軒を連ねており、大人の世界といった感じだ。夏目が一人で歩いていると見知らぬ女性が近付いてきたり、外国人に声をかけられる。その度に断るのだが本当にキリがない。  だから、夏目はこの路地は苦手なのだ。 「さっさと済ませて帰ろう」  歩みを速めた瞬間、若者の集団を見つける。開けた広場になっているそこには、若い男女が集まり飲酒をしているようだ。「関わりたくない」と心の中でそう思うが、一応自分の勤めている高校の生徒がいないか遠目で確認をする。 「あれ……」  次の瞬間、夏目は思わず息を呑む。その集団の中心に夏目が良く知る人物がいたのだ。「勘違いか?」そう思い目を凝らすとやはり間違いないようだ。大体、あんなイケメンたちを見間違うはずなんてないではないか。 「大河と宗次郎がどうしてここに……」  一瞬だけ、見なかったことにしようかと思った。  彼らにはマネージャーもいるし、芸能事務所にも所属している。夏目が口を挟まなくても、きっと大人たちが何とかするだろう。  そもそも自分は、二人の芸能活動には何の関係もない。ただ学校が同じというだけの教師だ。  余計なことをして嫌われたくないという気持ちも、僅かながら存在していた。  けれど、宗次郎の肩に若い女性がしなだれかかる姿を見た瞬間、胸がざわついた。  女性に嫉妬したわけではない──。と信じたい。  宗次郎はまだ高校生だ。この場にいる誰かが写真を撮って、面白半分にSNSへ投稿したらどうなるだろう。  飲酒しているように見える写真が一枚流出しただけで、仕事を失う可能性だってある。  大河も同じだ。  男たちに囲まれている大河は、煩わしそうな表情を浮かべながらも、その場から立ち去ろうとはしない。  その手首を一人の男が掴んだ。 「……触るなよ」  反射的に低い声が漏れる。  舞台の上で輝く大河と宗次郎を、ずっと見ていたい。  二人の出演する舞台を楽しみにしているのは、夏目だけではない。数えきれないほどのファンが、彼らに会える日を楽しみにしているのだ。  ここで何かが起これば、その全てが失われてしまう。 (怖い……)  できることなら逃げ出したい。  それでも、見捨てるという選択肢だけは選べなかった。 「僕が行かなきゃ……」    

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