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先生として推しを守る
しばらくの間息を殺して様子を窺っていると、宗次郎の周りには女の子の輪ができており、楽しそうに話をしている。時々宗次郎が女の子を抱き寄せれば、耳をつんざくような歓声があがっていた。
そして大河の周りには、なぜか男の群れができている。しかしその周囲に漂う雰囲気が異様で、夏目は思わず眉を顰めた。大河を取り囲んでいる男の目は明らかに欲を含んでおり、舐めるように彼を見つめている。それはまるで、大河のことを品定めしているようだ。そんな獣のような男に囲まれていても、大河はいつも通り飄々としていた。
「なんだよ、あれ……」
ゾクッと背中に虫唾が走り寒気がする。それなのに一気に頭に血が上っていくのを感じた。「ふざけんなよ」グッと奥歯を噛み締め、震える足を叱咤し、大河と宗次郎に向かって歩き出す。取り巻きの若者たちに殴りかかられたらどうしよう、なんていう考えは頭からすっかり抜け落ちてしまっていた。
──こんなところをスクープされたら、この子たちの役者人生が終わってしまう。
夏目は無我夢中で歩を進めて若者を掻き分ける。「なんだよ、こいつ⁉」「痛いなぁ!」口々に文句を言う奴等を跳ね除けて、大河と宗次郎の前に進み出た。
全身は燃えるほど熱いのに指先が異常に冷たい。興奮と緊張のせいか呼吸が浅くなってしまい息苦しい。いくら足を踏ん張っても体がカタカタと震えた。
推しの未来と、オタクの希望は僕が守る。その一心だった。
「八神君、本宮君、こんな時間まで何をやっているんだ! 帰るぞ」
夏目が声を張り上げれば若者たちの視線が一気に自分へと向けられた。情けないことに体は震え、声も上擦ってしまっている。それでもここで引き下がるわけにはいかないのだ。
「言うことを聞いてくれないのならば、君たちが飲酒をしていることを警察に通報する。さぁ、どうする? 八神君、本宮君」
覚悟を持って二人と向き合えば、周りから「超ウザい、なんだよこいつ」と野次が飛び始めた。
(頼む、このまま素直に言うことを聞いてくれ! お願いだ!)
夏目がギュッと目を閉じて覚悟を決めた瞬間、グイッと力強く腕を引かれる。そのあまりの力強さに倒れそうになってしまった。「一体なんだ?」と恐る恐る目を開くと、そこには呆れた顔をした大河がいた。
「あんた何やってんの? マジでみんなからボコられるよ? ほら、行くからちゃんと歩いて」
「へ?」
「へ? じゃなくて、言うこと聞いて帰るって言ってんの。警察沙汰はさすがに勘弁。ほら行こう」
「あ、ちょっと……」
ぶっきらぼうにそう吐き捨てると、大河は夏目を抱えるように歩き出す。
「みんなごめん。またね」
背後からすまなそうに謝罪する宗次郎の声が聞こえた。
◇◆◇◆
「あー、怖かったぁ」
少し離れた公園に連れてこられた夏目はその場に座り込む。全身が一気に脱力し、腰が抜けてしまった。近くにあったベンチに倒れ込むように座り込む。
「大丈夫ですか? 何か飲み物を買ってきますね」
「そんな、大丈夫ですから」
「気を遣わないでください。ちょっとだけ待っていてくださいね」
宗次郎が夏目の近くにしゃがみ込んで様子を窺い、「大河、夏目先生を頼む」と言い残し行ってしまった。
「なぁ、本当に大丈夫か?」
「あ、はい……だい、じょうぶです……」
「あんたさ、あいつら全員敵に回したら死んでたかもよ?」
「ははッ、そうですね……」
渇いた笑いが口をつく。大河と宗次郎にまで心配をかけてしまった自分が情けない。それと同時に少しずつ落ち着きを取り戻してきた夏目は、ようやく自分がしでかしたことの重大さに気付いた。
(僕は一体何を……)
サーッという音をたてて全身から血の気が引いていくのを感じる。再び体がガタガタ震え出した。
「あのまま放っておいても大丈夫だったよ。問題が起きても、どうせマネージャーが全部揉み消してくれたから。マネージャーだってもう慣れっこだろうよ」
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