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おやすみのキス
それから夕食まで三人で勉強した。二人は真剣に取り組んでおり夏目は感心してしまう。ようやく教師らしいことをしてあげられたと充足感に包まれた。
今日の夕食は大河がずっと食べたいと言っていたハンバーグ。いつも通りペロリと平らげてくれた。
全ての家事を終えて明日の朝食と、お弁当の下ごしらえまでして、深夜になり布団に倒れ込んだ。
「疲れたな……」
ポツリと呟くが、嫌な疲れではなく寧ろ満足感に包まれていた。推しをこんなふうに支えてあげられることが嬉しくて仕方がない。二人のマネージャーになったかのような錯覚さえ覚えた。
「あ、そうだ、ぬいぐるみ」
クローゼットの中からモトヤガのぬいぐるみを取り出す。自分のアパートにいるときは、いつもベッドの上に座っていたから、暗いクローゼットの中にずっとしまっておくことは心苦しい。かといって、ぬいぐるみを持っていることを推しに知られたくはなかった。
「でも今日は一緒に寝よう」
二つのぬいぐるみを大事に抱えて布団に包まる。きっと高価な布団なのだろう……温かくて心地いい。
いつも寝る前に見ていたモトヤガのお気に入りの動画をスマホで鑑賞する。これでようやく夏目の一日が終わるのだ。スマホの画面の中では、大河と宗次郎が笑っている。その笑顔に「明日も頑張ろう」といつも元気をもらっていた。
「やっぱりモトヤガは可愛いな……」
動画を見ているうちに段々瞼が重くなってくる。眠りにつくと同時に、二人の声がだんだん遠退いていった。
「……先生?」
「ん、んんッ……」
「ねぇ、先生……」
誰かが寝室に入ってきて、すぐ近くに寄ってきた気配を感じる。静かな声で「先生」と呼ばれたけど、眠すぎて目を開けることすらできない。
(誰か、来た……?)
夏目は微睡みながら頭の片隅で思う。
「先生、可愛い」
大きくて筋張った手が、夏目の癖毛をそっと撫でる。その手つきが優しくて無意識にその手を掴んだ。温かい……夏目はその手に頬ずりをした。
「可愛い」
髪を撫でていた指先が頬を通り、そっと唇の輪郭をなぞる。それから、額に温かくて柔らかいものがフワリと触れた。
(これは誰だろう。大河? それとも宗次郎……?)
夏目には声の主が誰だかわからなかったけど、その人物は夏目がもう一度眠りにつくまで、優しく頭を撫で続けてくれたのだった。
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