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【第8話 寂しそうな君】推しのいない部屋
あの日以来、大河と宗次郎は家にも帰らなくなってしまった。時々送られてくるメールと、宿泊先のホテルからされている動画の生配信でしか二人の姿を見ることができない。
二人が帰ってこないマンションにいても仕方がないので、夏目は自分のアパートに戻ることにした。住み慣れたアパートは二人が住むタワーマンションと違い小さくて古めかしい。エレベーターだってついていない。重たい足取りで階段を登りドアを開ける。
久しぶりに帰ってきた自分の家は生ぬるい空気に包まれて、シーンと静まり返っていた。
「ただいま」
小さな声で呟きリビングに向かう。狭い廊下の先にはリビングがあって、そこにはたくさんのモトヤガが自分の帰りを待ってくれていた。
可愛らしいぬいぐるみにポスター。ペンライトだってあるし、アクリルスタンドもある。どれも夏目にしてみたら宝物だし、見ているだけで元気が湧いてくる。夏目の部屋にいる二人はキラキラとした笑顔で溢れていた。
「大河、宗次郎、元気にしてるかな?」
壁に貼ってあるポスターにそっと触れる。
夏目は不思議でならない。モトヤガはこうやっていつも遠くから見ていることしかできなかった。でも今は違う。ポスターからは二人の温もりは伝わってこないけど、今の夏目は二人の体温や香りを知っているのだ。
あのモトヤガが手の届くところにいる……夢のように感じるけど、夢なんかじゃない。
ベッドに倒れ込んでスマホの電源を入れる。つい先程から開始されている生配信が気になって仕方がなかった。
「あ、大河と宗次郎だ……」
画面の中にはいつものように元気に笑っている二人がいる。コメント欄を見れば『モトヤガ可愛い』『推しが尊い』『大好き』といった熱いメッセージが目で追うことができないほどの速さで流れていく。惜しみない投げ銭に、止むことのないコメント。どれだけ彼らがファンに愛されているのかが伝わってきた。
そして、少し前までは自分もこのコメントを送るファンの一人だった。読まれることなんてないとわかっていたけど、毎日毎日飽きることなく送り続けた。いつか、自分の存在を知ってもらえたら……そんな淡い期待があったのかもしれない。
「大河も宗次郎もすごく疲れた顔をしている」
以前だったら絶対気付かなかったけど、今の夏目にはわかってしまった。ご飯はきちんと食べているだろうか? ちゃんと寝る時間はあるのだろうか? どんどん心配になってきてしまう。それと同時に、疲れた顔など一切見せず無邪気に笑う二人を見ているうちに胸が熱くなった。
「プロって凄い……」
夏目はぬいぐるみを抱き締めて、そっと顔を埋めた。
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