28 / 43

千秋楽を終えて

「暑い……あぁ、ここは涼しい。生き返る」  日差しが照り付ける教室があまりにも暑くて、逃げるように職員室へと駆け込む。強い西日に肌がジリジリと焼けていく感覚。今日都内は初の三十度を記録している。エアコンの効いた職員室の中はまるで天国のようで、ホッと息をついた。  大河と宗次郎が転校してきてから二カ月が経とうとしている。転校早々舞台が始まってしまったから、まともに通学もできていない状況ではあるけど、校内に二人の姿が見当たらないのは寂しい。  季節は春から初夏に移り変わり、もうそろそろ暑い夏がやってくる。 「あ、八神と本宮だ」 「本当だ! 今日が千秋楽か……よく頑張りましたね」 「全くですよ。大変だったろうに」  職員室にいる教師たちが、テレビを見ながら雑談している。夏目もテレビに視線を移せば、大河と宗次郎が映し出されていた。報道番組で今回の舞台の特集が組まれているのだが、夏目がずっと楽しみにしていた番組だった。  あぁ、録画するのを忘れてた……推しが出演する番組を録画し損ねてしまったなんて、ファン失格だ。夏目はガックリと肩を落とす。  テレビにはカーテンコールで舞台上に上がり、割れんばかりの喝采の中、客席に向かい手を振る大河と宗次郎の姿があった。 (あぁ、これだ……)  画面越しではあるもののその姿を見た瞬間、全身にゾクゾクッと鳥肌がたつ。夏目の瞳孔は開かれ、大河と宗次郎に釘付けになってしまった。  舞台の上でキラキラと輝く二人。演出家や大勢の俳優が舞台上にいるのに、一瞬で二人がどこにいるのかがわかってしまう。なぜなら、彼等が纏っているオーラは他の人たちとは違うのだ。今まで何度もこの光景を目にしてきたのに、この胸の高鳴りは変わることなんてない。 「やっぱり、僕の推したちは最高だ」  抱えていたファイルをギュッと抱き締める。 「よく頑張ったね」  夏目は目頭が熱くなるのを感じながら、心の中で拍手を送った。  そんな感動に浸っていたとき、スマホが着信を知らせる。「こんな時間に誰だろう」とスマホを取り出し画面を確認すると、大河からのメールだった。 『帰ってきたのに夏目がいないー!』  その文面を見て思わず目を見開いてしまう。今テレビに映し出されている八神大河は、クールという言葉がよく似合う王子様のような佇まいだ。微笑むけれど宗次郎のように愛想はよくない。クールビューティー……大河の容姿を表現するときによく使われている言葉だった。 『夏目がいない! 早く帰ってきてよ! ってか最近ここに戻ってないだろう!』  スマホの向こう側で子供みたいに駄々を捏ねる大河の姿が目に浮かぶようだ。クールビューティーが聞いて呆れてしまう。 『もうすぐ帰ります。少しだけ待っていてください』 手短に返信をしてから、残りの仕事を終わらせてしまおうと大きく伸びをした。  マンションに帰る前に行きつけのスーパーに立ち寄る。今日帰ってくるということは事前に連絡があったから知ってはいた。だから昨日は久しぶりに二人のマンションに戻り、軽く掃除をしておいたのだ。しかし、帰宅時間が予想していたよりも大分早かった。きっと今頃、大河が頬を膨らませて拗ねていることだろう。 「大河、唐揚げで機嫌直してくれるかな」  少しだけ不安になりながらマンションのエレベーターに飛び乗った。  

ともだちにシェアしよう!