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眠れない夜
「あー、疲れた」
大きく息を吐きながら布団に腰を下ろす。久しぶりにマンションの寝室の天井を見上げていると、やっぱりこれは夢なのか……と感じる。
つい先程まで目の前にいて「美味しい」と自分が作った唐揚げを食べていた青年二人が、超人気俳優であり、自分の推しということが未だに不思議でならないのだ。事実は小説より奇なり、とはよく言ったものだ。
推しが自分の目の前にいる。そして今日は宗次郎に抱き締められた。有耶無耶になってしまったけど、大河と多分キスもしている……二人との出来事を思い出すだけで、頬がカァッと熱くなった。
──推しとキス……。
改めて考えると、布団の上を転げ回ってしまうほど恥ずかしい。なんとか冷静さを取り戻そうと深呼吸を繰り返した。
もう寝てしまおうと電気を切って布団に潜りこむ。明日は金曜日だけど開校記念日で休校だから、少しだけ朝寝坊をしようと決めていた。二人も明日は本当に久しぶりのオフらしいから、ゆっくり体を休めさせてあげたかったのだ。
「あー、眠れない」
いくら目を閉じても眠れそうになんてない。久しぶりに大河と宗次郎に会えた嬉しさは想像以上で……なかなか体の火照りが収まってくれない。あんな大舞台を見事千秋楽まで勤め上げた二人を見るだけで胸が熱くなる。「よくやったね!」そう頭を撫でてやりたい衝動を必死に堪えていたのだ。
「駄目だ! 眠れない」
こんな時はアルコールに頼ろうと、買ってきておいたビールを取りにキッチンへ向かう。物音をたてないようにと静かに歩いていると、リビングにボンヤリと明かりがついていた。まだ誰かが起きているのだろうか? そっと覗き込んでみれば大河がソファーに座っていた。
何をするのでもなく、タワーマンションから眺望できる景色を呆然と眺めている。一面ガラス張りのリビングから見ることのできる夜景は、言葉を失うほど綺麗だ。夏目がこの光景を初めて見たときは、思わず歓声を上げてしまうほど感動したのだから。
でも、そんな夜景よりも寂しそうに窓の外を眺めている大河の方が、よほど綺麗に夏目の目には映った。あんなに子供みたいに自由気ままな大河が、今はとても儚げに見える。
どうしたのだろう……夏目はそっと大河が座っているソファーの隣に腰を下ろした。
「どうしたんですか? もしかして眠れない?」
「あ、夏目か……びっくりした」
突然現れた夏目にびっくりしたのか、大河が目を丸くしている。その慌てようが可笑しくて思わず口角が上がってしまった。
「夏目は? 眠れないの?」
「あー、うん。ちょっと……」
未成年相手に寝酒を持ちに来た、と言い出せず思わず言葉を濁らせてしまう。そんな夏目を不思議そうに見つめたあと、大河が夏目の肩に寄りかかってきた。少しだけびっくりしたが、まだ拗ねたような顔をしているから好きにさせてやる。
本当に甘えん坊だな、と大きく息を吐いた。
「観客の拍手の音が耳から離れないし、スポットライトがずっと当たっている気がして、目を閉じても落ち着かないんだ」
「え?」
「千秋楽のあと、いつもこうなる。興奮しているだけかもしれないけど……どうしていいかわかんなくなって、しんどい……」
スリスリと夏目の肩に頬ずりをする大河は子供のようだ。
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