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夏目が好き
「夏目、俺のプロフィール欄見たことある? 好きな食べ物は『シュークリーム』になってんの。でも本当に俺が好きなのは『梅干し』なんだ。しわしわの梅干しをご飯の上に乗っけて食べるのがめちゃくちゃ好き。あと趣味は『バスケット』になってる。確かに小、中ってバスケットやっていたけど別に好きでやっていたわけじゃない。これもバスケットをしている子はかっこいいっていう母親の趣味だし……」
「ふふっ。八神君は梅干しが好きなんですね。意外だなぁ」
「そう。マネージャーが梅干しとシュークリームは似てるからって。でも梅干しが好きな俺はファンから求められてないんだよ。ファンの人からたくさんシュークリームを差し入れしてもらうんだけど、俺が本当に欲しいものをくれる人なんていない……。時々それが寂しくなる」
「それは寂しいですね。梅干しだって美味しいのに……」
「うん」
ギュッと自分にしがみついてくる大河をそっと抱き締める。泣いている子供をあやすかのように優しく頭を撫でてやった。
「でも、夏目の前では素の自分でいられるんだ」
「え?」
「夏目の前では本当の自分を曝け出せる。こうやって我儘言って甘えても許してくれるし、幻滅したりしない。俺の全部を受け入れてくれる。だから、すげぇ楽……」
目を細めながらスリスリと体を擦り寄せてくる姿が、今度は大きな犬にも見えてくる。「可愛い」そう素直にそう感じる夏目がいた。
「だから夏目が好き」
「はっ?」
「俺は夏目が好き……」
その言葉を聞いた瞬間、夏目の心臓がバクンと飛び跳ねる。大河はあまりにも自然に「好き」と言ったけど、それは一体どういう意味なのだろうか? 教師としての自分が好きなのか? 友人として? それとも恋愛として……頭が混乱して動悸がしてきた。
「初めて夏目が俺たちのマンションに来た夜、ワンナイトの相手を探していたって言ったけど、あんなん嘘だよ」
「え? 嘘ってどういうことですか?」
「宗次郎はさ、よく週刊誌とかで熱愛のスクープを報じられているけど、あれは女のほうがしつこく宗次郎のことを誘ってくるんだよ。それで世間体のために仕方なく飯に付き合っているだけ。あいつはワンナイトとかで遊ぶような奴じゃない。恋愛に関しても真面目なんだ。ただ、女ったらしっていうイメージが宗次郎には似合うから否定も肯定もしないだけ。あいつだって本宮宗次郎を演じているんだよ」
「そっか……」
「それは俺も同じだよ。俺なんて超恋愛に奥手の童貞だし」
「……童貞……?」
「そう。だから、この前夏目としたキスが初めてだったし」
「お、覚えてるんですか?」
「当たり前じゃん。俺がしたくてしたんだから」
体が一瞬で熱を持ちカァ―ッと火照り出す。心臓がやかましいくらいに鳴り響き、頭が真っ白になってしまった。
(大河があのキスを覚えていた。しかも、推しのファーストキスを僕が奪ってしまったんだ。推しのファーストキスを……)
そう思えば、罪悪感と嬉しさが一気に津波のように押し寄せてくる。奥手な夏目は恋愛の経験が少ない。だからこんな時にはどうしたらいいのかがわからず、頭が混乱してきてしまった。
「ねぇ、もう一回キスしてもいい?」
「ちょ、ちょっと、それはまずいです!」
「なんで?」
「だから前にも言ったと思うけど、僕は教師で君は生徒です。それに大人が未成年に手を出したら犯罪になって、僕は逮捕されちゃうんですよ!」
「同意の元なんだから別にいいだろう?」
「絶対に駄目! 僕は同意なんてしてません! そんなことをするなら離れてください!」
両腕を突っぱねて大河から逃げ出そうと試みるが、力で敵う相手ではない。頬を両手で包まれ顔を上げさせられてしまった夏目は、首を振り最後の抵抗を試みる。それでも簡単に解放などしてもらえなかった。
「夏目が好き」
「…………⁉」
ギュッと目を瞑ればフワリと唇と唇が重なる。チュッと軽く吸われてから、様子を窺うように顔を覗き込まれる。涙で滲む視線の先には、物悲しげに微笑む大河がいた。
「大好き」
もう一度唇を奪われて優しく啄まれる。
「あ、はぁ……駄目だって……」
「なにそれ、エッロ」
甘い吐息を吐きながら懇願すれば、今度は悪戯っ子のように笑う。その笑顔が眩し過ぎて目の前がクラクラした。
(僕の推しはやっぱりかっこいい……)
思考が少しずつ遠退いて、大河とのキスに翻弄されてしまった。
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