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選べないよ
「夏目、俺が主役に選ばれたよ」
「大河、が……?」
「そう。でも僕も選ばれました」
「宗次郎も? どういうこと?」
「僕と大河の二人で主役を務めることになりました。いわゆるダブル主演です、夏目」
「ダブル主演……」
宗次郎の言葉がきちんと耳に入ってきてくれない。
夏目の心臓が少しずつ高鳴り始める。どんどん鼓動が速くなって息も苦しくて……。目の前が涙で歪んだから、思わず奥歯をグッと噛み締めた。
「主役に選ばれなかった方が夏目から身を引くって二人で決めていたけど、結局、僕と大河の二人が主役に抜擢されてしまいました。でもこれでは、勝負がつかない。だからと言って、僕は絶対に身を引くつもりなんてありません」
静まり返った劇場内に宗次郎の少しだけ震えた声が響く。
どうしてなんだろう……。あんなにスポットライトが降り注ぐ壇上にいるのに、大河と宗次郎は泣きそうな顔をしている。不安そうに顔を歪める二人を、夏目は今すぐにでも抱き締めてやりたかった。
「俺は、夏目が宗次郎を好きだとしても、この思いは絶対に変わらない。なぁ覚えてる? この劇場で俺たちは初めて出会ったんだ。夏目はちょうどその辺の席にいて、キラキラと瞳を輝かせながら俺たちを見つめてくれていた。その日から夏目は俺たちを見守っていてくれたけど、僕も夏目を見つめてた……」
「大河……」
「告白をするならこの劇場だって決めてたんだ。なぁ、夏目」
そういうと大河と宗次郎はその場に膝まづく。それは二人が花鳥風月としてお披露目されたときのシチュエーションにとても似ていた。
「夏目が好きだ。俺と付き合ってくれ。宗次郎じゃなくて俺を選んで? なぁ夏目」
綺麗な瞳がユラユラ揺れて、その瞳に映し出されたスポットライトも揺れている。
──なんて綺麗なんだろう。
心の奥が熱く震える。大河と出会ってからもう何度もこんな感情を抱いてきた。
「僕だって夏目が好きです。いいや、愛してます。だからどうか僕を選んでください」
怖いくらい真剣な表情で自分を見つめる宗次郎に、夏目の心は締め付けられる。普段あんなに冷静な男に、こんなにも情熱的に迫られてしまえば、「NO」なんて言えるはずがない。
──宗次郎、僕だって君のことが……。
いつも遠くから見つめることしかできなかった推しに出会って、同居して……抱き締められてキスをして、こんな告白をされる日が来るなんて思いもしなかった。
予想外の出来事の連続に、今だってこれは夢なんじゃないかって疑ってしまう。まるで、童話に出てくるお姫様になったようで……夏目は夢心地だった。
「選べないです。どっちが好きかなんて……」
「夏目……」
大河の不安そうな声が静かな劇場に響き渡る。その声が少しだけ震えていて夏目の胸が痛んだ。
「僕は大河も宗次郎も好きだ。だからどちらかなんて選べない」
夏目の瞳から涙が溢れ出し頬を伝う。しかし、夏目には大河と宗次郎を天秤にかけることなんてできなかった。
「こんな中途半端な僕が二人の傍にいていいわけがない。だからこんな関係も今日で終わりにします。これからは昔に戻って、一人のファンとしてモトヤガを応援していくから」
涙でグシャグシャになりながらも、夏目は懸命に笑顔を作る。
(ありがとう、大河と宗次郎。こんな僕を見つけてくれて。そして好きになってくれて……)
涙は止まることなどなく、次から次へと溢れ出した。
──でもこれで終わりだ。
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