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第12話
放課後のコミュニティ部のミーティングには教頭も居た。
誰かの前で発言をするというだけでも緊張するのに殆ど会話をしたことがない教頭の姿に臆してしまい、倉本に紹介され発言を促されても綾太はすぐに反応が出来なかった。
「矢敷くん、どうしました?」
「あ、ごめん。今、すぐ、えっと……」
クリアファイルに入れて来た企画書を取り出して前に歩き出すとホワイトボードが目に入る。
スチール製の表面は新品みたいに磨かれ、それを見ながら歩いていると白い中に自分が吸い込まれてしまうようで放心してしまう。
「矢敷くん?」
「あ……ほんとごめん。緊張してて」
倉本に呼ばれて再度謝り本音を漏らす。すると周りからクスッと笑い声が上がった。馬鹿にした笑い声というよりも共感に似たそれに何故だか安心感が湧き上がる。
「僕も初めはそうでした。気持ちは分かりますよ。でも大丈夫。コミュニティ部で発言したいということは地域のため、誰かのために何かをしたいという強い気持ちがあるということです。それを僕らは決して否定しない。どうか安心して、矢敷くんの話を聞かせてください」
誰かのため――。
倉本に言われて思い出すのは岳の姿だ。岳が商店街に活気が欲しいと言っていた。
その願いを叶えたい。自分が何のためにここに立っているのか、本来の目的を思い出すと脳内に掛かっていた靄が晴れていく。
「簡単だけど企画書ってやつを作って来たので見てやってください」
束になった企画書のコピーを教頭始め倉本や部員らに配って回ると綾太は再び皆の前に立つ。
「俺、あ……僕は三年一組の矢敷綾太です。僕の父は日ノ入り前商店街で青果店を営んでいます。皆さんも一度くらいはアーケードを通ったことがあるかもしれませんが、どんな店があるのか詳しくは知らないんじゃないでしょうか。今の日ノ入り前商店街は父の店のように昔ながらの変わらない店がある一方で魅力ある新しい店舗も増えています。だけど平日はあまり人が居ません。土日も、微妙です。それは皆が商店街のことを知らないからだと思います。もっと地域の人に知って欲しい、知れば必ず利用したくなるはずだから。そして人が人を呼ぶような活気溢れる商店街になって欲しいと思っています。実は僕は幼い一時期を商店街で過ごして高校二年の終わりにまた戻ったのですが、当時の僕を覚えてくれていた人もそうじゃない人も皆が温かく迎えてくれました。だから恩返しがしたいんです。そこで僕が協力出来ることってなんだろうと考えた時、学生である強みを活かしてはどうかと思い付きました。でも僕一人ではどう動けば良いのか分かりません。そこでコミュニティ部の皆さんの協力を得られないかとこの場をお借りしました」
綾太は一息吐くとホワイトボードに文字を書いていく。
「商店街で文化祭、ですか?」
ホワイトボードに書かれた文字を倉本が読み上げる。
「はい。企画書にもある通り、商店街で文化祭を開催出来たら我々高校と地域の皆さん、商店街、このどれもと繋がりを深めることが出来るんじゃないかと思いました。空き店舗も目立つので、そこを借りて例年催されているお化け屋敷や部活動の展示物も出来るのではないかと。もしかしたら部員の皆さんの中でも知っている人が居るかもしれないですが、既にこういった取り組みをしている学校が複数あります。ネットから引っ張ってきたものですが資料として企画書に付けています」
一通り話し終えると黙っていた教頭が真っ直ぐ手を挙げるのが視界に入り、緊張がぶり返す。
「矢敷くんはこの企画を今年実行したいのかな?」
「はい、出来れば。僕としては学生最後の文化祭になるので、そうなれば良いなと思っています」
「そうか……残念だけれど今年の開催は諦めた方が良い。文化祭まであと数ヶ月、学校だけで完結出来るものならまだ間に合うかもしれないけど、商店街という外部が関係するものとなれば時間的に厳しい。今年度のスケジュールを組み直すことに生徒会も首を縦に振らないだろう。それに無理に実行して中途半端な出来になるのは企画者の君も良しとしないはずだ」
最もな意見だった。
校内で行われるイベントでさえ準備期間というものが設定されている。そこまでは企画書に盛り込んでおらず、学校の許可とコミュニティ部の協力があれば今年実現出来るだろうと思い込んでいた。
教頭の言う通り、外部が絡むとなれば時間以外にも綾太の考えの及ばない予算だって掛かるだろう。
綾太は口を噤んだが周りの部員からは「すごく良い企画だと思う」という励ましや「モデルケースとなる学校に問い合わせてどんな日程を組んでいるか聞いてみれば更に参考になりそう」という提案の声が上がる。教頭はどの発言にも柔和な表情を向けて、それから「倉本くんはどう思う?」と部長を指名する。
「僕は……矢敷くんが大事な人たちのために、地域のために、学校のために、このような企画を持って来てくれたことに猛烈に感動しています。僕らコミュニティ部はこれまで、自然保護、環境保全、清掃、リサイクルなどボランティア活動が主でした。地域のイベント活動の手伝いはあれど、イベントを企画する側に立ったことはない。僕らの学校が商店街と地域の人々の橋渡し的存在となれる、なんて素敵な企画なのでしょう! 矢敷くん、本当にありがとう! 例え今年実現出来なくともこの企画は後輩たちへ引き継いで行かなくては!」
語尾に向かい熱量が増していく倉本に対し、綾太は愛想笑いしか返せなかった。
今年は無理、でも来年以降への希望は託せた。これを良しとするべきか、綾太は今すぐの判断が下せない。しかしその全てを見越したように教頭が再度倉本に問う。
「今年の開催は無理、でもこの素晴らしい企画をあとに引き継いでいきたい。では倉本くん、君は後輩たちのためになにが出来ると考える?」
「はい! 教頭! 来年または再来年以降に商店街で文化祭を実現させるためのプレイベントを行うのはどうかと考えます! 我が校は生徒会から承諾を得られれば活動費を支出して貰える制度がありますので、まずは矢敷くんの作ってきてくれたこの企画書を持ってプレイベントの予算を出して貰えるかどうか掛け合ってきます!」
嬉しそうに立ち上がった倉本は教頭に向かい熱弁を振るう。
「なるほど。プレイベントを行うことで文化祭実現が可能かどうかも確かめられますね」
「はい! まずは小規模でも良いので我々も関わるイベントを商店街で行い、実績を作ってから再度『商店街で文化祭』を生徒会に掛け合います。そして後輩たちにこの活動を引き継いで貰います!」
興奮してずれた眼鏡を直しながら「ねっ、やりましょう! 矢敷くん! これならすぐにでも実現出来ますよ!」と倉本が笑顔を見せる。
「今回は文化祭という形ではないけど、商店街の皆さんにも地域の皆さんにも十分に貢献出来るはずです!」
倉本の言葉に綾太の表情もみるみる内に明るくなっていく。
「あ、ありがとう、協力よろしくお願いします」
綾太は教頭に頭を下げたのちに部員全体、そして倉本にも何度もお辞儀をして見せた。
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