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*第17話
「あの人いつもああなの?」
岳が洋臣を追い払って、ついでに店仕舞いと鍵を締めてから綾太は怒気を含んだ声で尋ねた。
犯罪紛いな行いをする洋臣は勿論、能天気に彼を許す岳に腹が立っていた。
「洋臣? いや、ヘタレだから口ばっかで行動してくる事なかったんだけどな。綾太とばっか遊んでるのがやだったんかな」
「だとしたら俺の存在が原因すね。焚き付けたみたいですんません。けど、俺が居なかったらどうするつもりだったんですか」
投げやりに謝っても岳は全く気にしていないという表情をしている。
「綾太が居なかったら? 別にどうもしない」
「どうもしないって……やられてたかもでしょ」
「やられねーよ。殴ってやろうと思ってたとこにお前が来たから」
岳と話していると綾太が助けに入らずとも何とでも出来る大人なのだと思い知らされて自分勝手に怒りを覚えているのが虚しくなる。
それでも、求められていなくても、体は動いた。岳を助けなければと思ったし、何よりも岳に触れて欲しくなかった。
自分以外の人間が触れて、あんな声を出す岳を見たくなかった。
「飯でも行く?」
岳の方から誘ってくれて、いつもなら迷ったりしないのに綾太は店先で突っ立ったまま返事が出来ないでいる。
考えたくないのに、先程の光景が脳内にこびり付いて離れてくれない。
「綾太?」
指先にちょんと岳の指が触れる。
瞬間、岳に触れられた場所から血液が沸騰して全身に回るみたいな感覚がした。次に指先が痺れてくる。
心臓は早鐘を打ち、急な昂りに体が驚いている。感情の持ち主のはずの綾太もどうして良いのか分からずに狼狽えつつ言葉を選ぶ。
「きょ、は、やめときます。また、今度」
岳の返事は聞かなかった。足が青果店の方へ向いて独りでに歩き出す。
早く、早く、一人にならなければ。
岳から離れなければ、自分も洋臣のようになりそうだった。
青果店に帰り着くとシャッターを開けて中に入る。囁き声で「ただいま」と発するが薄暗闇の店内からは何の返答もない。
裕司は居ないようだった。銭湯に行っているのか飲みに出ているのか、とにかく青果店の中には自分一人であると分かる。
綾太は階段前で靴を脱ぐと上へと駆け上がり、やはり二階にも裕司の気配がない事を確認すると布団に包まった。
閉鎖空間で初めて自分の息遣いが五月蠅いと気付いてそれを紛らわそうと目を瞑る。
しかしそうすると岳の姿が思い出されて、これでは逆効果だと急いで瞼を開けた。
暫く深呼吸を繰り返すが昂った神経は一向に鎮まる気配はなく、寧ろ一呼吸ごとに下半身が張ってきて制服のズボンが窮屈に感じ出す。
こういう時は吐き出してしまった方が早く楽になれることを知っている。仕方なくベルトを緩め、ズボンのボタンを外しチャックを下ろすとボクサーパンツもずらして勃起した自身を手で握る。
「……ん」
乱暴に上下させると更に呼吸が乱れる。小さく漏れた自分の声が耳に障る。この声が岳のものならどんなに良いかと無意識に思えばお節介な脳内が先程の彼の声色を再生し出す。
綾太は軽く首を振り思考を追い払おうとする。岳を汚すわけにはいかなくて、けれど上向きに自身を慰める手も止められずに綾太は息を強く吐く。
射精感が上がってきて、だけど頭の中でチラつく岳の姿が消えてくれない。
何か別のことを考えようとすればする程に綾太の中での岳が色付いて、ついには銭湯に行った際に見た平たい尻まで思い出してしまう。
「ふ、っ、ぅ、岳さ、っ」
とうとう岳の名を呟いてしまった。
彼のことを思い浮かべて自慰行為に耽っていると認めたようなもので、そのまま亀頭を強く扱き上げたら恥ずかしいほどに早く吐精してしまった。
鼓動が激しく胸が上下に振れる。空いた手で受け止めた白濁の液は綾太の脈の動きに従い手の平で揺れる。
頭が真っ白になるような快楽が波のように引いていくと背徳感だけが残って、綾太は布団を跳ね退けのそりと起き上がる。ティッシュを多めに引き抜いて瞬きも忘れて手の平を拭う。こんなふうに悔恨の念もティッシュに包んで捨て去れたらいいのに。
昂ぶりは落ち着いたが体は熱いまま。欲をもってして自分の想いに気付かされる。
岳のことが好きだ。
恋とはもっと穢れなく美しいものかと思っていたが、ティッシュの中身を確かめるとそうでもないことが分かって、己の欲深さに呆れた。
興奮の息とは違う種類の溜息を吐いて、吐き切った先から空気を吸い込むと胸の奥がキュッと締まる。
「そっか……俺……岳さんのこと……」
自覚と自慰行為が同時だった為に様々な感情が綯い交ぜになりながらも、確信したことだけを口に出すと胸の内が柔らかく解けて甘酸っぱいものが拡がる。
綾太は生まれて初めての感覚を上手くやり過ごすことが出来ず、堪らずに、うう、と唸って寝転がった。
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