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第18話
各部活動のイベント参加可否も出揃い、学校側の出店内容も決まった五月。
イベント企画が走り出すとコミュニティ部は集客・準備等チームごとに動き、週一のミーティングで各チームの進捗を報告し合うようになった。
綾太は部員ではないが、今回のイベントには企画で参加しており今は運営リーダーの倉本の補佐をして、イベント会場となる「商店街側との連絡役」という立場にある。
「イベント日が決まったことで学校の公式SNSで告知を始めました。我が校の生徒らの間でもかなりの盛り上がりを見せ、今は他校の方まで拡散されています。それとチラシの件ですがこちらは各部活動に参加を募った際の物を使い――」
集客チームが丁寧な説明をしているのを耳にしながら綾太は手元の紙に目を落とす。
今回のイベントに参加する商店街の店舗名がずらっと並んでおり、横にはどのような催し物をするのかが書かれている。
綾太は商店街側との連絡役という立場ではあるものの、それは殆ど名ばかりで実際には会場係と呼ばれるチームが動いている。
つまり商店街の各店舗とのやり取りはこの会場係がこなしており、綾太は何店舗がイベント参加するかまでは把握していたが、どの店がどんな催し物をするのかまでの情報は得ていなかった。
順不同の店名を上からなぞるように見ていくと「林さん宴」と木場の店である「Rino」それに岳の店の「Clair」だけが出店内容欄が空白だった。
他の店舗は当日限定で割引や限定セットまたはメニューなどイベントらしい内容が並んでいる。
もしかしたらまだ決まっていないのだろうか。
ミーティング後に会場係のリーダーを呼び止めて三店舗について聞いてみたが、各店舗の業種ごとにどのような出店内容が向いているかのアドバイスはしており、まだ最初の聞き取りの段階なので決め兼ねているのではとあまり気にしていないようだった。
林さん宴は中華料理店だ。飲食店はイベント向きで出店内容は特別メニューだとか限定十食だとかで限られてくるだろう。
それなのに最初の聞き取りとはいえ出店内容が出ていないのは疑問だった。
木場は美容院だし、イベントに参加するのは構わなくても出展内容を打ち出し難いのかもしれない。
岳に関しては――直接聞いてみよう。
漸く商店街側とのパイプ役として仕事をする時が来たと綾太は張り切ってミーティング後の多目的教室をあとにした。
「ファッションショー?」
「そう」
学校帰りにコーヒーショップで自分の店の果物を使ったスムージーを差し入れにClairに寄ると早速出店内容が空欄だった理由を尋ねた。
岳は空欄が何かの間違えだったのではないかと疑ってしまうほどするっと「ファッションショーする予定」と答えをくれた。
「そろそろレディース物も扱いたいなぁって思っててさ。ちょうど良い機会だからこのイベントでファッションショーしてレディース物初お披露目兼受注会しようかなって。でもまだ友達の連絡待ちなんだよなぁ」
友人のデザイナーから衣装が借りられるかの確認中なのだという。そういうわけでまだ出展内容を提出出来なかったと知ると綾太はなるほどと相槌を打つ。
「あ、じゃあ木場さんは?」
「木場ぁ?」
「木場さんも空欄だったんですよ。なにすんのか決まってないのかな」
「木場は俺の手伝いするから俺が決まらなきゃなんも書けねぇんじゃねぇの」
「ああ、ヘアメイクってことですか」
「そうそう」
岳は差し入れた紙袋を覗いてスムージーを二つ取り出すと、一つを綾太に渡す。
「メロン?」
色を見て聞いて来た割に綾太の「そうです」という返事を待たずに岳はストローを差して飲み始める。
ストローの形に添って唇の中央が盛り上がっている。
綾太は岳の視線が自分に向いてないのを良いことに艶やかな唇から鼻のライン、伏せられた瞼と睫毛を見つめて心臓に熱を持たす。
岳への想いを自覚した今なら洋臣の気持ちが分かる。犯罪紛いの行為は許されるものではないが、そうしたくなる隙が岳にはある。
「……パン屋の息子、あれから来ました?」
何となく名前を呼びたくなくて意地悪な言い方で聞いてしまう。
「洋臣? 来てねぇ。けど謝罪のメッセージはあった」
岳が笑いながら言う。
続いて「可愛げのある奴だよな」と言い出しそうな顔をしている岳を見て、綾太の方から話を振っておきながらさっさと話題を変えようと林さん宴の事を思い出す。
先程の話で岳と木場の店の出店内容が空欄だった理由を把握した。では林さん宴はどうなのだろうか。
メロンのスムージーをじっくりと味わうように時間を掛けて飲んでいる岳とは対照的に一気飲みした綾太はその勢いのまま口を開いた。
「岳さん、今日飯食いに行きません?」
青果店の二階に戻って着替えて、岳から「店閉めたぞ」というメッセージを受け取って再びClairに赴く。
連れ立って訪れたのは林さん宴で、岳には事前に林さん宴も出店内容が空白だった旨を伝えている。
「相談してくれりゃあいいのになぁ」
「会場係から聞いたんですけど、飲食店向けにどんな内容が良いかっていう提案はしてるみたいなんですよ。だから単にいくつかの案の中から決め兼ねてるだけかもしれないすよね。それとなく聞いてみましょう」
小声で話して林さん宴の前に立つ。岳は迷いなくドアを開けて入り、綾太も続けて中へと入る。
「あら、いらっしゃ――」
「おばちゃーん、イベントの日なにするかまだ決めてないんだって?」
林のおばちゃんが、いらっしゃい、と言い終わる前に岳がいきなり核心に触れるので綾太は目を剥いて隣に立つ彼を見る。
「ちょっと、岳さん」
「いいじゃん。他に客も居ないんだし、聞きたいことはさっさと聞こうぜ」
それとなく、と注意してから入店したのに岳のデリカシーのなさに呆れながらも、ちゃんと他に客が居ない事を確認している辺り流石だなと感心する。
惚れた弱みが矛盾した気持ちを抱かせるのかと余計な考えをしながら、綾太は椅子を引いて腰掛け「コミュニティ部の提案が分かりにくかったのかなと思って、直接聞きに来ちゃいました」と取り繕った。
「あの高校生たちはちゃんとしてるよ。こんなのどうですかって色々書いた紙も貰って読んだんだけどなかなか決まらなくてねぇ」
「飲食店なら内容なんて自然と決まってくもんじゃねぇの? 限定何食とか、その日だけのメニューとかさ」
岳が指折り数えて、林のおばちゃんは水の入ったコップをテーブルに置く。
綾太は目の前に置かれたコップに一度目をやってから林のおばちゃんに視線を向けた。
「内容にしっくりこない感じですか?」
「私じゃなくてお父さんがね。うちのメニューって殆どお父さんが作ってるでしょ。だからイベント日だけのメニューとか考えるの億劫なんだって。あと限定何食とかも、なんで限定しないといけねぇんだとか言っちゃってさぁ」
「……それってイベント自体が面倒になっちゃってません?」
「イベント自体は大歓迎だって。人が来るのは嬉しいみたいよ」
話の途中で「いつもので良い?」と聞かれて岳と共に頷く。それから林のおばちゃんが厨房に引っ込んだので、綾太はテーブルに上半身を深く凭れさせ小さな声で岳に話し掛けた。
「イベントには参加するけど特に提供出来るものはないって感じすかね」
「かもな。でもまぁいいんじゃねぇの。チラシに名前は載るんだし、それだけでも宣伝になるだろ」
「まぁ……それはそうなんですけど」
確かにSNSやチラシ、ポスター等の広告にはイベント参加店舗として名前が載る。
それだけでも店名や業種は知って貰えるだろうけど、折角の機会なのだから来場者には林さん宴の料理の美味さを知って帰って欲しい。
「おまちどおさま」
いつもの定食が林のおばちゃんの手で運ばれて来て、岳と綾太の前に置かれる。
岳は当初の目的を忘れてしまったのか、トレーがテーブルに着地すると同時に箸を割って餃子を摘まむ。
「やっぱ熱々が良いよなぁ。おばちゃんの餃子最高。一生食ってられる」
「あら嬉しい」
ふふふ、と林のおばちゃんが笑う。餃子を口に含みその美味さに頬をふにゃふにゃと蕩けさせている岳を愛おしい目で見てから綾太も箸を割った。
そうして岳と同じように焼き目が良く付いた餃子に箸を付ける。
「……あっ!」
「んだよ、ビビった」
「そうだ、これだ!」
綾太が箸で摘まんだ餃子を掲げ目を輝かせると岳が「餃子がどうした?」と不審げに呟いた。
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