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第19話
次の週のコミュニティ部のミーティングで「商店街側のイベント参加店舗の出店内容が全て決まりました」と倉本から発表された。
各部活動の出店内容と商店街の店舗の出店内容が書かれたプリントが配られ、綾太はそれに目を落とす。
空欄だった三店舗とも埋まっており、友人のデザイナーから衣装提供の許可が下りた岳の店Clairと木場のRinoの横には「ファッションショー」、林さん宴の横には「林のおばちゃんの手作り餃子教室」とあって綾太は口元を緩ませる。
あの時餃子を見て思い出したのは、最初に林さん宴に食べに行った時の岳の言葉だった。
――林のおばちゃんの手包み。レシピ聞いてみ? 教えてくれっから。
そしてこうも言っていた。
――店の跡継ぎ居ないからさ、せめて味だけでも残してぇんだと。
綾太は林のおばちゃんに確認をした。
林のおじちゃんにやる気はなくても、店の餃子の味を残したいと思っているおばちゃんならば料理教室をやってくれるのではないかと。
すると林のおばちゃんはその場で「やってみたい」と返事をくれた。
イベント内容は、参加費用五百円、イベント前に事前に募集をして集まった十名(午前五名、午後五名)に林のおばちゃんが餃子作りを指導するというもの。
早速集客係のチームに頼んでSNSで告知をして貰ったらものの数時間で定員に達し、それを林のおばちゃんに伝えると大喜びしていた。
こうして参加店舗の出店内容が決まり、各チームがそれぞれの仕事をこなし綾太は運営リーダー倉本の補佐として商店街側との打ち合わせに顔を出したり、岳に頼まれファッションショーに出てくれる生徒を探したりと走り回った。
岳は岳で、本来の仕事に加え、音響・照明等設備関係との打ち合わせで忙しくしていた。
つまり、以前のように岳と二人きりの時間が取れない。
合間合間に少しなら時間もあるのだが銭湯に行ったり夕飯を食べたりだとか、ゆっくりとする時間がない。
仕方がないとはいえ気持ちを自覚した後だから寂しさも感じる。
それに洋臣という脅威が存在する事も知ってしまったから油断も出来ず、自分の知らぬところで何かあったらどうしようと気ばかりが急いていた。
そんな日々が続いていたある日、モデルの事で相談があると岳に呼び出されてClairを訪れた。
休日ではあったが、店主の岳は客の来ない時間帯を把握しているから誰も居ない時間の呼び出しだろうと思い込んで店内に入ると何故か妹の菜帆が居た。
「家に顔出しなよって私がメッセージしてもスルーなのに紀咲さんに呼び出されたらすぐ来るんだね」
しまった。
忙しくてメッセージが来ていた事も忘れていた。綾太の思いを見透かすように笑う菜帆に「岳さんとこは近所だから」と言い訳をする。それから岳を見て、菜帆が居るなら事前に教えてくれよという視線を送る。
「てか菜帆はなんで岳さんとこに居んの? 俺に会いに来たなら店に来りゃいいじゃん」
「だって青果店行ったら前一のおじさん居るじゃん。なんか気まずいんだもん」
綾太の実の父親である裕司と万が一にでも二人きりになったらその空気に耐えられそうにないと菜帆が顔を歪める。
「だったら俺を呼び出せよ」
「だーかーらー、私が呼び出してもお兄ちゃん来ないでしょ? だから紀咲さんに頼んだんじゃん」
話が一周したので綾太は菜帆に何かを言うのを諦めて岳に「モデルの相談の件は俺を呼び出す口実ですか」と尋ねる。
「いや、モデルの件は本当」
「なんか問題発生しました?」
岳に頼まれ、身長の高い生徒らを数人紹介した。
レディース物だから女生徒を中心にして、男はバスケ部の西田のみ。モデルを全員高校生にしても良かったが、岳が「お客さんでも高身長の人が何人か居る」というので、そちらからレディースの購買に繋げたい意図もあり顧客も数人モデルとして出て貰う事になっていた。
「問題ってほどじゃないんだけど、衣装が思ったより多めに借りられそうだから女の子のモデルを増やしたい」
「あ、そうなんすね。じゃあまた探しときます」
「で、一人は菜帆ちゃん入れたいんだけど、兄ちゃん的にはオケ?」
「え!?」
呼び出された本当の理由が分かったような気がして、綾太はうぐっと喉奥を鳴らす。
「でも菜帆、高身長ってほどでもないですよ」
「百六十四センチあるもん」
「菜帆ちゃん、ヒール穿いたら百七十超えるし良いと思うんだよな」
「まぁ……菜帆が出たいなら……人手はいくらあっても良いとは思いますし」
「あっ、そうだ、綾太も出る? お前モデル体型だし、菜帆ちゃんと並んだら美男美女カップルじゃん」
岳の棒読みが心臓に刺さる。
いつだったか岳に菜帆は綾太が好きなのだとそのような事を言われた。今の岳の言動は菜帆への協力が透けて見える。ということは綾太の事など何とも思っていないのだろう。
「俺、当日は運営の手伝いでうろうろしてると思うので、モデルとかは出来ないと思います」
菜帆のせいでも、ましてや岳のせいでもなく、勝手に想いを募らせて思い通りに行かないと拗ねる自分が悪い。
それが分かっていてもノリ悪く返してしまう。
「そっか。じゃあとりあえず女の子募集中だから誰か居たら紹介して」
綾太の態度を気にも留めず岳は穏やかな顔をしている。
他人のどのような振る舞いも受け止める、そういう人だと知っている。そんなところも好きなはずなのに、綾太の気持ちを知らないとはいえ全く気のない素振りを見せられると身勝手に落ち込んでしまう。
菜帆から向けられる視線も痛くて、綾太はそちらを見ないようにして岳の申し出に応えた。
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