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第23話

 梅雨明けして一気に暑さが増した七月中旬。七夕飾りが施されたまま商店街とコラボしたイベントが開催された。  今後商店街で文化祭を行うことを目標としたプレイベントは一日限りのもので、時間は午前十時から午後四時まで。  商店街の店舗は通常通りの所もあればイベント限定で独自のサービスを打ち出す店もある。 高校側は空き店舗を利用し模擬店を出す部活動もあれば、メインステージでバンドやダンス、漫才などを披露する部活動もある。  イベント当日の役割分担はコミュニティ部の面々で事足りるとのことで倉本からは「矢敷くんは当日イベントを楽しんで後日感想を聞かせて下さい。改善案を出せるだけ出して次の世代に引き継ぎましょう」と言われた。  暗に客として会場となるアーケード内をうろうろしていろということなのだろう。とはいえ何もせずに楽しむだけというのはこれまで打ち合わせ等に参加して来た身としては気が引ける。  だから何かあったらすぐに対応出来る予備部隊としてステージ係の手伝いをさせて貰いながら当日を過ごすことにした。  午前十時。  司会者である倉本と生徒会長がマイクを通して開催の挨拶をする。疎らに起こる拍手は商店街の店主らと生徒たちが主だった。  ステージ側から周囲を見渡すと正直不安も感じる。けれど広報係を務めていた集客チームからはSNSでの反応は上々だと聞いた。菜帆が通う女子高でも話題になっていると言っていたし、そういった若い層が興味を持ってくれれば自然と拡散力は高まる。  つまりイベント開催情報は市内を駆け巡っているはずだ。  綾太は仕事をこなしながら時折仲間たちに断りを入れてステージ裏から抜け出した。  午前中にアーケード内を見て回ると思った以上に人が居た。生徒らは基本制服か学校指定のジャージを身に着けているから私服の若者は客だろう。  メインステージの方に引き籠っていては分からなかった光景で、普段の週末ならばまだ閑散としている時間帯に人が居ることに感動しながらアーケードを歩いて行く。  林さん宴の前を通れば既に午前の手作り餃子教室が始まっていて、外から中を覗く綾太に気付いて林のおばちゃんが手を振ってくれた。  美容院Rinoは閉まっていたが「Clairのファッションショーにヘアメイクとして出張中です。御用の際はお電話ください」という文言と電話番号が書かれた貼り紙がしており、営業活動は怠っていなかった。  パン屋の結では様子伺いに外から「こんにちは」と声を掛けてみるが洋臣からは「入ってくんな」と威嚇された。腹は立つがこんな良き日にいがみ合っていても仕方がないのでイベント限定で売り出されるパンを幾つか買って店を出た。  一度振り返ると母親と思しき女性に叱られている洋臣が目に入って溜飲が下がる。  最後に岳の店に寄って、シャッターが半分閉まっている店内に入り先程買ったパンを差し入れた。  二人組の客が居たがどうやら岳の友人らしく一階の中央部分に置いてある陳列台を奥に仕舞っている最中だった。それに木場とファッションショーに協力してくれるという設備関係者が数人、最後の確認をしている。 「綾太、午後から頼むな」 「歩けばいいだけですよね」 「うん。リハーサル通りで」  一度はモデルを断ったものの、イベント時の綾太には大した仕事もないので結局引き受けることにして先日は衣装を身に纏いリハーサルにも参加した。  Clairの二階から緩やかな螺旋階段を下って店の真ん中を歩いて奥に引っ込むだけ。モデルは全員素人だし、今回はレディース物を取り扱う為に行うファッションショーだから見ている者も男側に期待などしていないだろう。だから気負いはない。が、気掛かりはあった。 「くれぐれも菜帆と歩く順番離してくださいよ。近いとあいつ絶対からかってくるから」 「わーってるって。お前、他にも仕事あんだろ? 女の子たちはヘアメイクあるから早い子で二時間前とかに来て貰うけど、綾太は三十分前で良いよ」 「了解す。また来ます」  外まで見送ってくれた岳と別れて綾太は再びメインステージへと戻った。数十分離れていただけなのに、ステージ周りには人が増えている。アーケードの出入口付近にも人が居るのが見えて僅かに手応えを感じた。  ステージ上に立つ倉本と目が合う。そこからの景色なら綾太よりも人の行き交う姿が見えているだろう。きっと同じことを思っているはずだ。綾太が頷くと倉本も力強く頷き返してくれた。  昼を過ぎると更に人出は増え、各部活動の模擬店だけでなく商店街の中の飲食店も賑わいを見せ始める。 「矢敷くん、案内良いですか? 林さん宴の餃子教室参加の方で――」  人が増えて来ると店の場所が分からないという客が現れ始め、自分で探すよりも運営に聞いた方が早いと声を掛けられる機会が多くなった。  綾太はほぼ何でも係と化していて、今のような用件であれば案内係として会場の地図が印刷されたチラシを渡して「十軒目です」とか「向こう側の出入口付近なのでちょっと距離があります」などと言って説明をこなした。 「もうすぐ一時半ですよ。矢敷くん、ファッションショーに出るんじゃないんですか」  生徒会長と交互で司会をしている倉本が役割を終えてステージから下りて来る。未だにステージの周辺をうろちょろしている綾太に「何でまだ居るんですか」と言いたげな目線を向けている。 「もうそんな時間!?」 「二時からですよね」 「やば、行かなきゃ。持ち場離れて平気?」 「ファッションショーが終わるまでこっちのステージでは出し物なにもないので大丈夫ですよ。迷子や案内も受付チームの皆と手分けしてやりますので心置きなくモデルウォークして来てください」 「いや普通に歩くだけだから」  倉本と笑い合ってその場を離れると小走りでClairに向かう。途中、ズボンのポケットに放り込んであったスマホが震えたので、立ち止まって確認をすると菜帆からだった。  何を言われるか大体想像が付く。早く来いという連絡だろう。  綾太は画面をタップしてすぐに聞こえて来た「あ、お兄ちゃん?」という菜帆の発言を「ごめん、今向かってる」という自分の声で遮る。 『違う、違うの』 「え?」  綾太の想像していた声色とは違い電話口から漏れる菜帆の声は緊迫していた。 『モデルの女の子が一人倒れちゃって――』

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