26 / 31

第26話

 ファッションショー自体は三十分程度で終了し、着替えや協力してくれたモデルらに挨拶をしていたらメインステージに戻るのが遅れてしまった。  とはいえ任されている仕事もないので急ぎもせずにClairを出た。  もう三時を過ぎているだろうか。綾太がズボンのポケットからスマホを取り出すとメッセージが数件来ていて、倉本からのメールをタップする。  時を同じくしてメインステージの方から声が聞こえて来た。続いて歓声が上がる。  倉本からのメッセージを画面に映したままで綾太は小走りになった。 ――ファッションショーは無事に終わりましたか? 午後を回ってから人出が増えたようで模擬店も盛況のようです。今からダンス部の子たちのステージと各部活動の出し物が続きます。矢敷くんも間に合ったら見に来てください。  倉本からのメッセージ通り、メインステージ周辺には人だかりが出来ていた。  綾太はあまり詳しくなかったのだが、通っている高校のダンス部は全国でも有名らしく、それもあってのようだった。  これだけの人数を集めたのがダンス部の力だったとして、それでも、綾太は感動していた。ステージから少し離れた場所で集まった人々の表情を見て静かに震えた。  自分の高校と商店街が結び付いてこれだけの人を集めることが出来るのだと実感して、瞬きも忘れ全国屈指のパフォーマンスを見せるダンス部の面々ではなくそれを見て喜び手を叩く観客一人一人の顔を見ていた。  そうか、これか、と胸に落ちて来る感情を受け止め、納得する。  綾太が欲しかったもの、見たかったものはこれだった。  最初は岳や商店街のためだと思っていた。けれどその誰かのためという気持ちは段々と変化して最終的には自分の中で別の何かを生むことになった。  今、集まった人たちの顔を見て確信した。 「お兄ちゃん」  夢中で周囲を見ていた綾太は声を掛けられるまで菜帆が隣に居ることに気付かなかった。 「おー、お疲れ」 「ダンス凄いね」 「あ、うん。凄いな」  見ていなかったとは言えずに同意する。 「菜帆、岳さんの手伝いすんじゃなかったの?」  Clairではファッションショーのあとにモデルの子たちと受注会をすると言っていて、菜帆も手伝うと聞いていた。 「紀咲さんがお兄ちゃんのとこ行っていいって」 「そうなんだ」  手伝いを放り出したのではないのなら良いか、と綾太は菜帆に向けていた顔を正面に戻す。 「私の着てた服、可愛かった?」 「あー……うん……どうだったかな」 「なにその返事。ちゃんと見た?」 「見てたよ。見てたけど色々あって可愛いとか可愛くないとか考える余裕なかった」 「……お兄ちゃんさ、私のことほんと妹としてしか見てないよね」 「え、うん」 「即答なの腹立つ」 「だって妹は妹だろ」 「私はお兄ちゃんと離れて妹って枠から外して貰えるかと期待してたんだけどな。待っててもそんな日は来そうにない?」 「……うん?」  一度前に向けた目を菜帆に戻すと、菜帆は綾太の方は見ずにステージを見つめていた。けれど顔が真っ赤だった。  菜帆が今何を伝えようとしているのか分かって、綾太は後ろ髪を掻く。 「ごめん……菜帆のことは大事な家族だと思ってる」 「……そっか……早まんなくて良かった。振られたくないもんね」  殆ど気持ちを口にしている状態ではあるが、菜帆なりの強がりなのだろう、ぼろっと零れた涙を手で拭う。  岳の姿と重なる。  岳も純也を想いこんなふうに涙を流しただろうか。  目の前に居る菜帆に対して礼を欠いているというのは重々承知でそんなことを考えてしまう。  意識を菜帆に向けて、涙を拭ってやるのも慰めの言葉を掛けるのも何か違うと肩を二度ほど優しく叩く。  恨めしそうな目が綾太を見つめてくるがいつものように気にせずにいれば菜帆も仕方がないように涙を引っ込め笑みを見せた。

ともだちにシェアしよう!