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第8章 似て非なる世界2

 庭には草花や水といった自然に宿る妖精たちがいて、幼い男女の子どもが縄跳び競争をしているのを見守っていた。 「天ちゃん、おかえりー」 「お隣にいる人、誰? お仕事の人?」  どこか見覚えのある子どもが縄跳びをやめて寄ってくる。  スラックスにワイシャツ姿だから警察関係者と思われたらしい。 「社律です」 「初めまして」と続けようとしたら、突然「りっちゃん、りっちゃんなの!?」と男の子が大声を出した。  女の子が「おかえりなさい!」と破顔し、抱き着いてくる。「ほんとに、本当? あなた、りっちゃんなのね!?」 「そうだけど……」  チラと天さんのほうへ目線をやる。 「(そう)()(うめ)()。律は、まだ、ここでの記憶が戻ってない。記憶喪失状態なんだ」 「そんなぁ……」 「あたしたちのことを覚えてないなんて悲しすぎるわ!」 「えっと、ごめんね。きみたちは……」  問いかけると男の子が右手を元気よく上げた。 「座敷わらしの草太だよ。天ちゃんの家に居候として住んでるんだ」 「同じく座敷わらしの梅子よ。昔、小学生のりっちゃんと遊んだことがあるわ」 「まだまだ紹介したい連中は山のようにいるぜ」  天さんが愉快そうにしゃべると足音が奥からした。 「天坊ちゃん、おかえりなさい」 「その方は、もしや……」 「一つ目小僧に唐傘だ!」  アニメや漫画で見たことのある妖怪の出現に興奮して思わず僕は大きな声を出してしまう。 「一つ目小僧の(まめ)(すけ)に唐傘の常磐(ときわ)だ。こいつらも昔、おまえと遊んだんだぜ」 「天さん」 「なんだ? 何か思い出したのか!?」  みんなの視線が一斉に集まる。  首を横へ振ると全員が肩を落とした。 「あの……僕って、おじいちゃんに連れて来てもらって、この世界を行き来していたんですよね」 「そうだぜ」  彼に先導される形で家の中に入る。  雑巾が勝手に床を拭き、ヤカンが「沸騰したぞ!」と怒鳴り声をあげる。茶筒が二足歩行で歩き、頭を開き、茶葉をポットの中に入れ、ポットがヤカンのお湯を入れてもらいに行く。  まるで全自動だ。 「ロボット……でなく、これが付喪神のあやかしたちの力、ですね」 「ああ、ワチャワチャしていて、おもしろいだろ!?」 「はい、とてもおもしろいです! それで話をもとに戻しますが、どうしておじいちゃんは、こっちの世界と、僕のいた世界を行ったり来たりできたんでしょう……?」 「それは律のおじいさんが、もともと、こっちの世界の人間だったからだ」 「そうなんですか!?」  驚愕の事実だ。おじいちゃんが、こっちの世界の人間だったなんて思いもしなかった。 「律のおじいさんは、魔法使いだったんだ。けど、おまえのいた世界に転移したとき、魂の番であるαに出会った。だから、こっちの世界には帰らず魔法使いであるのを隠して、あっちの世界の住人になった——って、うちのじいさんたちが話してたぜ」 「天さんのおじいさんと、うちのおじいちゃんの関係は?」 「大学時代の先輩・後輩で、うちのじいさんと、ばあさんが世話になった相手」  おじいちゃんから何も聞いていなかった僕は、まさしく目から鱗が落ちる気分だった。  知りたいことが山のようにある。 「その……記憶は、どうしてたんですか? もとの世界へ戻ると、異世界の記憶は忘れてしまうと部長さんたちから聞きましたが」 「魔法を使って維持してたみたいだな」と天さんがやわらかそうな白い三角の耳をピクピク動かした。「おまえにも記憶が残る魔法をかけてたはずだったんだが……」 「おじいちゃん……祖父は他界しました。そうなると魔法もとけてしまったのですか? 魔法で維持していた僕の記憶は、このまま失われたまま、もとに戻らない可能性があるんでしょうか?」 「いいや、そんなことはない」  このまま過去の記憶を失ったままでいるかもしれない事実を歯がゆく思っていると天さんの手が頭に触れた。「そんな顔するなよ。気にすんなって」とやさしく撫でられる。「まあ、ここへ来るまでにいろいろあったみたいからな。気が動転してるのもあって、うまく魔法が効かなかったんだろう。それか、もう少し時間が経ってから思い出せるんじゃねえか」  居間で座るように促され、四つ足で歩いてきた座布団の上へ、そっと膝をつく。  机の上にある湯呑みを手に取り、温かい茶色の液体をしたほうじ茶を口に含めば、モヤモヤした気持ちが少し和らぎ、癒された。 「もし、この世界で過ごしてきた過去を覚えていなくても、オレたちが覚えてる」 「天さん……」 「これから新しい思い出を作っていけばいい。苦労したな、律。これからはオレたちと幸せな日々を、のんびり過ごそうぜ」  幸せ、か。  家族といても、学校にいても幸せを感じることはなかった。  蜜と一緒にいる時間は、穏やかな気分になれたけど、大翔と蜜が一緒になった今、あの安らぎを得ることは二度とないだろう。  こんな自分にとって都合のいい話があっていいのだろうか? 再会したばかりの天さんに、すべて頼ってしまいそうで、心苦しくなる。 「……甘えてもいいんですか?」

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