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第8章 似て非なる世界3

「ああ、もちろんだ。大好きなおじいさんがいなくなって、さみしかっただろ」  湯呑みを手にしていた右手を取られ、軽く握りしめられる。 「代わりにはなれないかもしれないけど、オレがおまえをヤクザや、Ωだからって目をつける連中から守る。あっちの世界で下級Ωだから律を愛さないご家族のぶんも、オレがおまえを目一杯愛すって約束する」 「……うれしいです。ありがとうございます」  記憶がない状態で再会して、すぐの人の言葉なんて普通は信用できない。不信感が募るのが正常な反応だろう。  それなのに魂の番であるアルファだからか、この人の言葉に嘘偽りなどないと信じている。  いや——違う。  この世で一番信じていたおじいちゃんが連れてきてくれたこの世界で出会い、仲よくしていたという天さんのことを、心から信じたいと願ってしまったのだ。  安心して今までの疲れがどっと出たのか睡魔に襲われるだ。柳田さんと関わるようになってからは借金返済が頭にあって、眠りも浅く、睡眠時間をまともに取れていなかった。 「とりあえず今日と明日は、ゆっくり休め。この世界に来て戸惑ったり、驚いたりすることも、たくさんあっただろ」 「ですが……それでは天さんに甘えすぎてしまいます。このおうちでお世話になるだけでも、あなたの負担になってしまうのに」 「負担になんてならねえよ。今さっき『甘えてもいい』って言っただろ」  苦笑する姿もすてきだなと思いながら重いまぶたをこすった。子どものように手を引かれ、客間へ通される。  タンスが自動ドアのように開いて布団がひとりでに畳の上に敷かれる。 「この部屋を自由に使ってくれ。自分の家事のほとんどは付喪神が勝手にやってくれる。律は律のやりたいことや料理に専念しな。仕事さがしは追々ってことで」 「はい、ありがとうございます」 「ゆっくり休め。次、目が覚めたら夕飯だ。おまえも好きな寿司でお祝いするぞ」 「本当ですか」 「ああ、本当だ」  夢なら永遠に覚めないでほしいと思うくらい、すてきな話だ。  まだ、この世界にいる現実味を感じられず、不安になった僕は、彼の手をぎゅっと握りしめた。 「どうした?」 「あの……ほんの少しでいいので、眠るまでの間、そばにいてくれませんか」  仕事が忙しい彼の邪魔をしたくないのは本心だ。こんなわがままを言っていいわけがない。  だけど、ひとりで眠りにつき、目覚めたらもとの世界で身体を売る仕事についていた、なんてことになっていたらと考えるだけで恐怖にさいなまれる。  勝手に身体が震え、じっとりといやな汗をかき始める。 「少しだけ待ってくれないか」 「……はい」  そうして天さんはスマホを取り出し、電話をかけた。話ぶりからして直属の上司に早退させてほしいと言ってるようだ。 「おし、これで大丈夫だ」と画面をタップする。 「すみません、邪魔をしてしまって」 「いいって、気にすんな。おまえのおかげで休みが取れたんだ。むしろサンキュー」  布団の右横で横たわった天さんは「こっち来いよ」と、かけ布団を叩いた。  招かれるまま、敷き布団の上に横たわり、ふわふわでお日様のにおいがする、かけ布団をかけてもらう。  まるで赤ちゃんや子どもを寝かしつけるかのようにリズムよくポンポンと布団を叩かれる。  そのまま僕はまどろみ、深い眠りに落ちていったのだった。

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