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第10章 心休まるひととき2
きつね色をした真四角のパンが温まったらクリーム色をしたバターと、いちごジャムを塗る。
次いでやかんをわかし、コーヒー豆の粉末と牛乳をカップに入れる。お湯をそそいでホットカフェオレを作る。
いただきますの挨拶をする前に四つ折りにした紙を開き、目線を落とす。メモ帳に書かれた天さんからの手紙だ。
——律へ。簡単なものだけど朝ご飯を作った。嫌いなものがなければ食べてくれ。豆介におまえ用の合鍵と財布を預けておいた。金は気兼ねなく自由使ってくれ。外に出かけるときは常磐や草太、梅子を連れていってくれ。仕事の調整ができるよう努力する。また後で、天——と書かれていた。
手紙を読み終えるとさっそくトーストを口へ運んだ。外はカリッと中はもっちりしていて、バターのしょっぱさと、いちごの甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。
咀嚼して飲み込み、次はサラダを口にする。和風ドレッシングがシャキシャキした野菜によく合い、苦みを打ち消してくれる。
ベーコンエッグは半熟玉子がトロリとしていてカリカリベーコンのしょっぱさと、胡椒のピリリとした辛さにぴったり絡み、絶妙な味となる。
「おいしい……」
僕のために天さんが手ずから用意してくれたものだ。それだけで調理が簡単なものでも、特別な料理に思えて、とびきりおいしく感じられた。
朝食を食べ終えたら、洗面所に準備されていた新品の歯ブラシで歯を磨いた。白いTシャツに青のジーンズ、黒のスニーカーというラフな格好で家の周りを、あやかしのみんなと散歩することにした。
家の裏手には神社があった。僕がいつもお参りしていた神社にそっくりだ。
だけど、こっちには樹齢何百年という太い幹をしている立派なご神木があり、敷地面積も広かった。
「あれ、ここって……?」
どこかで見覚えのある光景で首をかしげていれば、豆介くんが「りっちゃん、思い出したの!?」と声を弾ませる。「ここ、天ちゃんと、りっちゃんと、ボクたちでよく遊んだ場所なんだよ! りっちゃんが十歳になるまで、ここにしょっちゅう来ていたの。覚えてる……?」
そこで、あっと気づく。
そうだ。ここは、いつも見る不思議な夢で子どもの僕が遊んでいた神社そのままだと。
三人と一匹の目の期待のこもった眼差しが一気に集まる。
でも——「ごめん。ここに来たっていうのは、なんとなく覚えている感じはするんだけど、みんなと遊んだ記憶は、なぜか曖昧なんだ」
「そんな!」
「ここに来れば絶対に思い出してくれると思ったのに……」
がっくしと肩を落とすみんなに申し訳ない気持ちになりながら、風を受け、左右に揺れる大木の赤茶色の葉と枝わかれする木々を見上げた。
家へ帰り、時計に目をやると、お昼の時間になっていた。
冷蔵庫の中のものを自由に使っていいと常磐くんに言われ、中を覗いたもののこの世界の栄養補助食品とペットボトルの水やミネラルウォーターが入っているばかり。
仕事が忙しい天さんは、あまり食にこだわらない性格をしていて仕事に余裕があるときですら素早く食べられるカップラーメンが多く、外食するとサンドイッチか、おにぎり、ハンバーガーのうちのどれかを口にするのが多いんだとか(ちなみに今朝僕が食べた朝食の材料は、わざわざ近所のコンビニまで買いに行ってきてくれたんだって!)。
事情を察した僕は、近所にあるスーパーへ買い物に行くことにした。
スーパーまでの道のりを散歩していると昼間なのに浮遊霊が空を飛び、魔女や魔法使い、魔術師が空を悠々自適に飛んでいる。
やはり、ここは僕のいた世界と似て非なる世界だ。
おじいちゃんが、この世界の出身で魔法使いだったというけど、僕の目の前ではもちろん、この世界に里帰りしているときも魔法を使っている姿を見たことは一度もない。
「僕も空を飛べたらいいのにな……」
ふと青く澄みきった空を眺めていたら、思っていたことが自然と口をついて出ていた。
ひとり言を聞いていた梅子ちゃんが「残念だけど、それは無理だと思うわ」と眉を八の字にする。「りっちゃんのおじいちゃんは、ほうきで空を飛ぶのがすっごく苦手だったし、浮遊魔法も得意じゃなかったもの」
「じゃあ、おじいちゃんは何が得意だったの?」
「人を癒やす治癒魔法だよ」と豆介くんが答えてくれた。「『痛いの痛いの飛んでけー』って言って、よく傷を治してくれたよ」
なるほど。そう言えば、おじいちゃんに転んでひざや、ひじをすりむいたところを見てもらうと傷の治りが早かったし、痕が残らないで済んだのを思い出す。
「何より、りっちゃんは魔法使いと普通の人間のクウォーターです。魔法使いや魔術師、魔女だって赤ちゃんの頃から保護者に魔法や魔術の使い方を習っていないと使えなくなって、ただの一般人になってしまうんですよ」
「へえ、そういうものなんだ」
常磐くんの話に納得しながたアスファルトの道路を進んだ。
昼食にパスタを外でとり、生活用品や服なんかの買い物をしていると一日があっという間に過ぎ、気がつけば空は群青色になり星々が輝いていた。
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