23 / 23
第10章 心休まるひととき4
ガスコンロをつけ、味噌汁が入った両手鍋と、ひじきの煮物が入った雪平鍋を火で温める。
アルミホイルを取り外したホイル焼きの中身である、きのこと鮭を皿に移し、電子レンジにかける。
炊飯器を開き、白いしゃもじでホカホカの白米を多めに白磁の茶碗へよそった。
食事の準備をしていると上は白のスウェット、下は黒に白いラインが入ったスウェットパンツを穿いた天さんがやってきた。
「うまそうなにおいがするな。食べるのが楽しみだ」
「ありがとうございます。みんな、ご飯のおかわりをしてくれたので、まずいものではないと思うんですけど……」
「律が、がんばって作ってくれたもんだ。おいしいに決まってる」
皿やお椀を席に着いた天さんの前にならべる。
「いただきます」の挨拶をして味噌汁を口へ運んだ。その後、ひじきの煮物、鮭のホイル焼きの順番で箸をつけていく。
ゆっくり噛みしめるようにして味わっている姿に胸が不安と期待で高鳴る。
「——どう、でしょう?」
彼は目を細め、口もとをほころばせた。
「すげえうまいよ。店で食べてるのかと思うくらい。やさしい味がして身体の芯から温まる感じがする。料理店で働いていたって言葉は伊達じゃねえな」
「そう言っていただけて恐縮です」
「こんなうまい飯がこれから食えるってだけでも、オレは幸運にめぐまれているな。バチのひとつや、ふたつあたっても、これなら怖くねえよ」
「もう! 何言ってるんですか。そんなこと言わないでくださいよ」
僕は胸を撫で下ろし、喜んでもらえてよかった、と心の中でつぶやいた。
天さんはゆっくりと、だが着実に夕ごはんを食べていった。
「オレも久々におかわりするかな」
立ち上がる彼に「ご飯よそりますよ」と声をかけ、茶碗を受け取り、しゃもじを使って白米をふんわりよそる。
「サンキュ。いたれりつくせりだな」
「天さんに助けてもらって、家まで提供してもらった、そのお礼です」
本心を告げると天さんは困ったように眉を寄せ、右手の人差し指で右頬を軽く掻いた。
「オレはただ——魂の番であるおまえが、この世界に帰ってきて、もう二度と離したくない。自分の監視下に置いておきたいっていう下心があって、そばに置いてるだけだ。警察官として保護するっていう建前を使ってな」
「神様じゃないんですから聖人君子にはなれませんよ。それに僕を助けてくれたのは本当です」
しかし彼は、なんともいえない神妙な表情をして口を閉ざし、ご飯を食べる手を止めてしまった。箸を箸置きに載せ、両手をひざの上に置く。
そこで、はたと気づかされる。
「過去の記憶がないのは事実です。魂の番であるアルファであるあなたに出会ったからといって恋に落ちたわけじゃない。あなたを愛する気持ちがあるかと問われれば首を縦に振ることはできません」
思った通りだ。怒られる前の子どものような顔つきをして、無言のまま彼はこうべを垂れた。
「でも発情期 を起こしたとき、天さんに触られられても、いやじゃなかった」
「っ!」
「気持ち悪いと少しでも思っていたら、あなたを引き剥がそうと必死になって抵抗したはずです。添い寝してもらったときも、すごくうれしかったんですよ。この世界で、ひとりぼっちじゃない。あなたという味方がついていてくれる——そんな心強い気分になれました」
思っていたことを伝えたら、天さんが顔を上げた。迷子の子どもみたいに視線をさまよわせる。
「怒ってねえのか? 『強引なやつだ』って」
「怒っていませんよ。僕も、あなたを求めました。だから、おあいこってことにしませんか」
すると彼はプッと吹き出し、まなじりを下げて笑みを浮かべた。
「なんだよ、それ」
天さんが笑顔になってくれる。それだけで、なぜか胸が熱くなる。
外見が好みで、魂の番であるアルファだからって理由だけじゃない。
ちょっと強引なところもあるけど、やさしく接してくれて、僕のことを考えてくれるこの人の人柄や性格が好ましくて、急速に惹かれ始めているんだ。
「ねえ、天さん」
「ん? なんだ?」
「天さんの好きなものとか、お料理を教えてください。今度は、あなた好みのお料理を作りたいんです」
「……ああ、もちろんだ。いっぱい話したいことが山のようにあるんだ」
僕も席につき、互いをもっと知るための会話をあきることなくしたのだった。
ともだちにシェアしよう!

