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第11章 微妙な空気

 その後、天さんはできる限り残業をしても家へ帰ってきて、なるべく僕のそばについていてくれた。  休日の日も疲れているだろうに買い物デートをしながら、この世界に慣れる手助けをしてくれたんだ。  役所にいって異世界からやってきた人間としての住民票を登録したり、こっちの世界のスマホを契約した。  新しい世界で驚いたり、戸惑ったりすることもあるけれど、天さんや、みんなのおかげでなんとか順応できている。  何気ない日常を過ごしていれば、はや一ヵ月。じょじょに、あやかしが住んでいる世界になれ始めてきたところだ。  今日は日用品を買いにデパートや駅ビルを回った。  時間の流れは早く、気づけば、昼どきになっていた。昼食をとりに僕らは和カフェへ入った。  つい最近お店が開いたばかりで建物の外観も内観も真新しい。店の出入り口にはポスターで、中ではナプキン立てに社員応募について書かれていた。  店員は珍しいことに全員Ωの人間とあやかしだ`。  どうしてβやαがいないのかと不思議に思う。天さんのスマホで調べてもらうと店長がΩで、Ωに居心地のいい仕事場所を提供したいという信念のもと、店舗を展開していることがわかる。  メニュー表を開き、天さんはエビ天ぷら定食を、僕はうなぎ茶漬け定食を頼んだ。  しばらくすると、できたての料理が届いた。  かつお節でとっただしの食欲をそそる香りと炭火で焼いたタレの香ばしいにおいがする。  国内産のうなぎは身がふっくらほくほくしていて、食べると口の中でほどけていった。山椒のピリリとした辛さと爽快な香りがよいアクセントになっている。 「天さん」 「なんだ?」 「僕、ここで働いてみたいです」 「いいんじゃないか」  ——とすぐに賛同してくれると思ったのに、渋い表情のまま唇を固く結んでしまった。 「あの、どうかしましたか? 何かまずいことでもありますか」 「いや、律がいいって言うならいいが……ここ以外にも就職先の候補はあるんだろ」  その通りだ。就職雑誌を見たり、アプリで就職情報を確認したり。調理のできるところに、いくつか目星をつけておいた。 「ここに決めちまっていいのか?」 「職場の内部事情はどうだかわかりませんが、Ωにも働ける場所を提供したいという理念はすばらしいです。家からも遠くありません。接客も悪くないし、何より、ここの料理がおいしいのが決め手です」 「そうか……」 「受かるかどうかは運や面接官との相性、求める人物像とのミスマッチもあります。なので落ちる可能性も、もちろんありますが、最大限面接で自分の長所をアピールできるよう、がんばりたいです」 「そこまで言うのなら、もうオレは何も言わねえ。がんばれよ」 「はい、ありがとうございます」  そこからは天さんは無言になってしまった。  仕事はしていいと言われていたから、この場所に何か問題があるのかもしれない。  後になっていわくつきの場所だったってことがないよう、詳しく口コミを調べてから面接を受けるかどうかを考えたほうがいいのかもしれないと考えながら、うなぎ茶漬けのつゆをすすった。

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