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6 暗殺対象(2)
(知ったらアンディ、俺を恨むだろうな)
マフィアの一員になった時点で会わせる顔はないと思ったが、また一歩、アンドレアから遠ざかってしまったような気がしてやるせなかった。
「フィオーリは死ぬ前、サンティにヴィーナス・プロジェクトについて話してしまったようだ」
続いた一言に、それこそ地獄に落とされたような気分だった。
『――秘密を知った者の辿る道は、協力か、死か、だからな……』
マッシモの言葉が脳裏を掠める。ソアーヴェの一言は、その状況に今、アンドレアがなってしまったということを意味していた。
「ただ、フィオーリはコジモの名前まで知らんのだ。クアランタが教えなかったからな。奴の慎重な点は、感心する」
「そうか」
少しだけ、ほっとする。
「ああ。その点はさして問題ではない」
さすがにファミリーのブレインと謳われるクアランタである。つまり『ヴィーナス・プロジェクト』に携わっているのがコジモ・ファミリーであることまでは、アンドレアは知らないのだ。不幸中の幸いと言えた。
「だったら、どうしてアンディが暗殺対象者なんだ」
食ってかかるアレクサンドラに、ソアーヴェは淡々と説明を続ける。
「フィオーリがある薬物についてサンティに話してしまったからだ。その薬物を手に入れるために『ヴィーナス・プロジェクト』に手を出したと、サンティへ伝えてしまったらしい」
「…薬物って、例えばヘロインみたいなものか」
ソアーヴェが首を振る。
「俗に、『ミツバチと蜂蜜 』と呼ばれている。俺達はAMというコードネームを使っているが」
「初耳だな。麻薬なんだろ?」
「まあ似たようなものだ。依存性のある毒物とでも言えばいいかな」
アレクサンドラは眉を顰めた。
「そんなものの存在をアンディが知ったからって、なんだって言うんだ。あいつには手に入る術も、悪用する術も、無いだろう」
ソアーヴェが冷淡に切り返す。
「AMにはヤバい人間どもが関わっている。イタリア政府高官、財閥、富豪、果てはホワイトハウスまで。―――我々からサンティに知れたと分かれば、我々も只では済まされん。サンティがどこまで知っているのか、まず調べなくては。具体的には、薬物の名前、出所、バイヤー、それらを知っているようなら、生かしておけない」
「冗談、やめてくれよ……」
アレクサンドラは頭を抱えた。
「冗談を言っている顔に見えるか?」
確かにいつもなら冴え冴えとした余裕を纏うこの男が、珍しいくらいに強張った顔をしている。
「なら、俺がアンディに会って訊く」
「だめだ」
「なんでだ!」
握った拳が震えた。
「アンディだって、俺の方がきっと素直に白状するよ!」
しかし頭では理解できていた。
組織 はそんなに生易しい場所ではない。万が一にもアレクサンドラがアンドレアのために偽証をするようなことになれば、アレクサンドラも消されなくてはならなくなる。案の定、ソアーヴェがそこを突く。
「兄を庇ってお前が我々を騙すようなことになれば、お前まで殺さなくちゃならん。そんなことは勘弁願いたい。カポだって望んではいないはずだ。今回は、俺が行く。いいな」
低い声で念を押す。
アンドレアのために何もできない。そんな自分が歯がゆくてたまらなかった。
「じゃあ、なんでわざわざ俺にこんな話をしたんだ」
恨みを込めたまなざしを送った。床の冷たいリノリウムとは裏腹に、憤りで全身が燃え立ちそうだった。
「お前の兄がどうなろうと、俺はどうでもいい。だがお前は違うだろう。俺はお前とこじれたくないのだ。後で知らされるよりも、前もって知らされていたほうがお前も納得がいくだろう。…そういう、カポの心づかいだ」
「マッシモの――――?」
唖然としてしまう。
つまり、結局はマッシモがソアーヴェを慮ってさせたことなのだ。
不愉快な感情が胸に渦巻いたが、今はそんな薄暗い感情に流されている場合ではなかった。
「アンディを助けてくれ、ソアーヴェ」
嘆願するアレクサンドラへとソアーヴェは厳しい顔で答える。
「誤解するな。俺は組織 のために動くだけだ。俺がお前の兄を殺して、それが気に入らなかったというのなら、次はお前が俺を殺して兄の仇を討てばいい。それが俺達のやり方だろう?」
呆気にとられ、立ちすくんでしまう。
正気を保っていられるのが不思議なくらい、非情な世界だ。
(俺はこの先ずっと、こんな場所で生きるのか?)
しかしどんな理由があれ自分が選んだ道だった。今更、逃げられるはずもなかった。
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