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初夜(*)
初夜(*)
アルベール家を訪れるのは初めてではない。
しかし、カインと思いを通じ合わせてからのちは初めてで、しかも一夜を過ごす予定とあり、屋敷に到着してからずっと、俺は心ここにあらずだった。
一方のカインは、俺のように目が合っただけでナイフを取り落としたり、何か喋ろうとするたびに声が裏返ったりすることもなく、至って普段通りだ。
娼館の女とも顔見知りのようだったし、これが経験値の差か。最初はそう思っていたが、来訪の表向き(と俺は思っていた)の目的である屋敷の警備状況について卒なく説明して回る彼を見ているうちに、一つの可能性に思い至った。
もしかして、カインは今日、本当に警備状況の確認のためだけに、俺を家に呼んだのだろうか……。
「分をわきまえなければ、これ以上、自分を抑えられそうにない」という言葉から、彼のほうにも、気持ちだけでなく肉体的にも、主従以上の交わりを求める欲望があるのだろうと思い込んでいた。
前世の俺は腐男子ではないが二次小説を書くオタクだったから、それ系のサイトは毎日開いていたし、同人イベントに参加したこともたくさんある。同人市場ではBLが一大ジャンルとして定着していて、興味がなくとも目にする機会は多々あった。
その記憶を掘り起こすと、カップルとなった男同士がその後にする行為についてもある程度想像がつく。BLでは、いわゆる『攻め』と『受け』という役割分担がある。俺なりに頭の中でシミュレーションしてみたが、俺がカインにあれこれする構図がどうしても思い浮かばなかった。
どう考えても自分は『受け』属性に思える。ただ、実際に彼を受け入れられるかというと、それも自信がない。この一週間は湯浴みの際に試しに指を入れて、体的にもシミュレーションしてみたが、今のところただの異物感しかなく、指二本が限界だった。
まぁ、いきなり最後までできるとは思っていないが、恋人(……でいいんだよな?)の家にお泊りするのだから、当然、恋人らしい甘い営みも多少はあるだろうと期待していた。
しかし、全く普段通りのカインの態度を見れば、期待していたのは俺ばかりのような気がしてくる。
そもそも、この世界では、男同士の場合はどこまでするのが普通なのだろう。
もしかしたら、カインの言う「これ以上、自分を抑えられそうにない」という欲望は、キスやハグ最終到達地点の可能性もある。その場合、この一週間の俺の努力は無駄骨だったことになる。
入浴中、そんなことを悶々と考えて些か虚しくなったが、それでも念のため後ろだけは念入りに洗い、指でほぐしておいた。
風呂から上がりナイトローブに身を包み、亜麻布で濡れ髪を拭いながら客間へと向かう。
「エドワード様」
浴室の前で見張りをし、そのまま部屋までついてきていたセルペンスが、入る間際に声をかけてきた。こちらから声をかけなければ口を開くことのない〈影〉の者にしては珍しい。
彼は懐から小瓶を取り出し、差し出してきた。
これは何だ? という顔で小首をかしげる俺に、彼は眉一つ動かさず、普段通りの絶対零度の声音で説明した。
「ラベンダーの香油に柳の樹皮の抽出液を混ぜたものです。以前お渡ししたものよりも多少は痛みを和らげる効果があります。必要な際にはお使いください」
言われた言葉を反芻し、みるみるうちに顔が赤くなっていく。
この一週間、後ろをほぐす際に使っていた香油は、「髪が短くなって寝癖がつきやすいから、整髪のための香油がほしい」と言い訳し、彼に手に入れてもらっていた。それが今の言葉で、何のために使っているか気づかれていることが、明らかになった。寝癖を整えるだけなら、痛み止めを加える必要はない。
「それから、声にもご注意ください。中から呻き声や悲鳴が聞こえてきた場合、我々は殿下の無事を確認しな……」
俺はこれ以上話を続けさせないよう、咄嗟に彼の口元に手をやった。
「わ、わかってる! というか、そのような心配は無用だ! お前が心配するようなことは多分何も起こらない!」
俺を見据える能面顔は、身辺に気を付けるよう進言するときと同じで、忠実に任務をこなしているだけにすぎないのだろう。
引っ込めず、押し付けもされない香油を、俺は仕方なしに受け取った。
部屋へと入り、布で雑に髪の水気を拭きとりながら部屋の中をうろうろしていたところ、四半時ほどして部屋がノックされ、カインが姿を現した。彼は折り畳んだ毛布を手にしていた。俺と違って夜着ではなく普段着で、腰に剣を差している。
「護衛のため、今夜は私も客間に泊まります」と彼が育ての両親に話していたことを思い出し、やはりそういうことかと拍子抜けしたような、逆にどこかほっとしたような気分になった。
案の定、カインはそれを長椅子 の上に置く。「護衛のため」というのはカモフラージュでも何でもなく、言葉通りなのだ。今夜はソファで寝るつもりなのだろう。恋人としてこの部屋に来たのなら、毛布は必要ない。
しかし、ソファは男二人が並んでゆったりと座れるくらいのサイズで、カインの体格では足を曲げなければ横になれないし、座面の幅も狭く、寝返りを打つこともできない。
背の低い俺のほうがソファに寝るには適しているが、王子の俺がソファに寝ると言い出せば、彼は床に寝ようとするだろう。カインよりも小柄で細身なセルペンスに護衛を変わってもらう手もあるが、責任感の強いカインが護衛を〈影〉の者たちに任せて自分は自室で休むとも思えない。
しばし考えた末に、毛布をソファに置いたあと、窓際に向かい、カーテンの隙間から外の様子を窺っているカインに声をかけた。
「あ……えっと……、そんな狭いソファでは、体が凝り固まって、ろくに眠れまい。お前もベッドで休むがよい」
こちらを向いたカインが、何かを探るような鋭い眼差しで俺をじっと見つめる。
秘めた期待を見透かされた気がして、俺は慌てて付け加えた。
「広いベッドだから一緒に使えばよいという意味だ。深い意味はない! 俺たちは主従である前に友でもあるのだから、何の問題もないだろう!?」
軽く見開かれた目が、再び剣呑に細められる。
カインがゆっくりと近づいてきて、なんとなくただならぬ雰囲気を感じ取り、俺は後ずさった。
「エド……」
どこか咎めるような響きの声。彼の両親や使用人の前で呼ばれていた「殿下」ではなかったことで、体に緊張が走り、それ以上は動けなくなった。数歩分の距離がすぐに縮まり、目の前にカインが立つ。
口元はわずかに口の端を上げているが、目は笑っていない。
「問題はあるだろう? 俺たちは主従で友である前に、生涯を誓いあった仲ではなかったか?」
「あ、いや、でも……だったら、尚のこと、問題はないのではないか?」
誘惑っぽいことをしてみようかという考えが、一瞬頭をよぎる。
だが、娼館の前で出会った、胸元の大きく開いたドレスの女を思い出せば、そんな勇気は出なかった。彼女のカインに対する態度は馴染みの客に対するそれだったし、そんな女を相手にしていた人に、男の俺がどう頑張ったところで、何の効果もない気がする。
「『生涯の伴侶』なら、共寝をするのが普通だろう? それ以上を求めるつもりはない。ただお前に、快適に休んでほしいだけだ」
俺に言えるのは、せいぜいその程度だ。
それでも、カインを見つめ返すことができず、目が泳いでしまった。
カインに俺と同じ欲望がないのなら、それでもいい。
ただ、今夜だけは、彼のぬくもりに包まれ、彼の両親のお墓の前で言われた言葉が現実であることを実感しながら眠りにつきたかった。
はぁ、と深いため息が聞こえ、カインがガシガシと横髪を掻く。
「『共寝』ではすまなくなると言っているのだが、いいんだな?」
「え?」
その言葉の意味を理解するより先に、顎を掬い上げられ、唇を塞がれていた。
押し付けられた唇の隙間を、ぬるりと濡れたものでなぞられる。舌先でつつくように促され、緊張で歯を食いしばっていた力を緩めた。唇と歯列をこじ開けるようにして、肉厚な熱が口内に潜り込んでくる。
「あっ……」と漏らそうとした小さな悲鳴ごと、舌を絡め取られていた。
キスをするのは初めてではない。
トーナメントの後に思いを伝え合って以降、人のいないところで何度か唇を重ねたことがある。でも、唇だけを数回啄むようなそれはただの挨拶程度のものでしかなかったことを思い知らされた。
「んっ……、ふ……」
まるで意志を持った生き物のように、カインの舌が俺のそれを捕らえ、吐息をも奪い尽くすようにねっとりと絡みついてくる。ぬめりをまとった他人の舌の感触が、すぐに背筋がぞくぞくするような気持ちよさへと変わっていく。
苦しいし恥ずかしいのに、もっとその感触を味わいたくて、自分からも懸命に舌を動かした。
口内に溜まった唾液を飲み込めば、お返しとばかりに舌先を甘く吸われる。
空いているほうの手で、耳許や後ろ髪、背中をくすぐられる。それすらも気持ちいい。
俺も、彼の背中に両腕を回してしがみつく。
熱が引き、唇を舐め、軽く食み、吸っては、また角度を変えて舌をねじ込まれる。
酸欠で頭がぼーっとして何も考えられないのに、下腹部にドクドクと熱が集まる感覚が、自身の体の状況をリアルに知らしめる。
腰が抜けたように立っていられなくなり、ずり落ちそうになる体をカインの腕に支えられた。
「エド。俺の首に腕を回して」
耳元で囁かれる。
抱いてベッドまで連れて行くという意味だと理解し、一瞬躊躇する。
「歩ける」と言い張りたかったが、キスだけで股間のものが痛いほどに反応していて、このままでは前屈みで歩くしかない。その滑稽さを想像し、素直に従うことにした。
カインが俺の膝裏に手をかけ、軽々と体を持ち上げる。
いわゆる『お姫様抱っこ』というやつで、同じ男としては情けなくもあるが、『お姫様』扱いされることは嫌ではなかった。
ベッドに膝をつき、横抱きした体をそっと下ろされる。そのまま足元に向かった手に履物も脱がされた。
天蓋付きのベッドの帳は一部が上げられていて、立ち上がり俺を見下ろすカインの背後から壁掛けの燭台の明かりが射しこんでくる。ベルトを抜いて提げていた剣ごと床に置き、上衣を脱ぎ去る男らしい所作を、俺はただ惚けたように見上げていた。
逆光により濃い影のできた体は、それでもしっかりと筋肉の隆起や割れ目が見て取れる。同じ男として憧れや嫉妬を覚える以上に、その逞しい体にこれから組み敷かれるのだという期待のほうが急速に膨れ上がっていく。
再びカインがベッドに片膝をつき、乗り上げられたほうへとわずかに寝具が沈む。俺に覆いかぶさろうとする彼の頭の向こうに燭台の灯が見え、俺は慌てて声をかけた。
「カイン! 帳を下ろさないと!」
カインは一瞬動きを止めたが、帳には手を伸ばさず、俺の下肢を跨いで膝立ちになった。
「万が一、不逞の輩が侵入してきたときに、気づくのに遅れては困る」
カインが顔を上げ、窓のほうを見やる。先ほども、部屋に来るなり窓際に立ち外を窺っていたことを思い出した。廊下側は見張りの者がいるから、何事かあれば騒ぎで気づく。窓から侵入されることを心配しているようだ。
「でも……」
俺は言葉に詰まり、視線を泳がせた。
「男を相手にするのは初めてだろう? あんなナイスバディな美女を相手にしていたのだから、明るいところで男の体を見れば、さすがに萎えるんじゃないか?」
口にしながら、この状況でそんなことを気にしてしまう自分の意気地のなさに、余計に情けない気分になる。
「ナイスバディ? とはどういう意味だ?」
上から顔を覗き込まれる。
前世でも死語と化していた言葉は、カインにも通じなかったらしい。
俺は居たたまれなさから顔を横に背け、目の端でチラチラと彼を見上げながら答えた。
「あ、いや、だから、その……。前に街で会った女の人……みたいな……」
暫しの間、宙を睨み考え込んでいたカインが、何かを思い出した顔をする。
「もしかして、娼館で客引きをしていた女のことか? 俺は娼館で女を買ったことはない。付き合いで無理やり連れて行かれるから、いつも酒だけ飲んで帰っていた。それで逆に顔を覚えられて、見かけるたびにしつこく店に誘われるようになっただけだ」
「そう……だったのか?」
俺は横向きに背けていた顔をそろそろと正面に戻す。
カインが俺の太腿の上に体を落とし、腰を軽く揺らした。互いの硬くなったものが服越しに擦れ合う感触に、全身がぞわりと粟立つ。
腕が伸びてきて、ナイトローブの腰紐を解かれた。胸元で重なっていた布が左右に開かれ、目の前の男に比べると随分と貧相な体が露わになる。これでも剣術を学ぶようになって多少はマシになったほうだが、なんせ相手はトーナメントの覇者だ。性別以前に、彼の目を楽しませるものは何もない。
俺を見下ろす顔が、挑発的に片頬を上げる。
「エド。最中に他の人間を思い出すなんて、俺はそれほど魅力がないか?」
「あ、いや……。そういうわけでは……」
カインが腰を沈め、先ほどよりも強く昂りを押し付けられた。ゆるゆると突き上げられ、生々しい硬さが、互いの輪郭をなぞるように押し滑る。
身をよじって逃れることもできず、布越しに自身が濡れていくのがわかる。
伸びてきたカインの手が俺の頬を撫で、首筋から鎖骨、胸へと降りていく。
入浴後のしっとりとした肌の感触を確かめるように、剣だこのできた無骨な掌が這い回り、もう片方の手が下穿きの紐を解いた。
カインが一度腰を引き、下穿きがずり降ろされる。俺もわずかに腰を浮かしそれとなく協力しながらも、弾かれるように下穿きから飛び出してきたものを見ることはできず、カインの余裕のない表情に視線を注いでいた。
布の取り払われた両下肢が、左右揃えて肩に担ぐように抱えられる。
何も言葉を発せず、視姦するような眼差しで見下ろされるのは、辱めでしかないのに。その視線と日常とは立場が逆転した状況に、倒錯した興奮を覚える。
「娼館の女と比べるなんて、馬鹿げている。エド……世界中探しても、お前ほど美しい人間はいない」
カインが見せつけるように俺のふくらはぎに唇を押し当て、きつく吸った。
普段なら絶対に言わないような言葉に耳を疑ったが、強い酒を飲んだときのように気分が高揚しているのは、彼も同じなのだろう。
肌を撫でていたときと同じ繊細さで、濡れそぼった性器をするりと撫で上げられる。もどかしいほどの刺激なのに、「あっ……」と小さな悲鳴が洩れ、腰にぞくりと甘い痺れが走る。
「カイン……、お前も……」
俺だけが全てを晒していることに文句を言ったつもりだったが、羞恥で瞳が潤み、縋るような声になってしまった。
カインが俺の膝を大きく左右に割り、その間に自身の体を入れる。
死ぬほど恥ずかしい。でも、前世の知識と妄想力だけはあり、これまでも秘かに夢見ていたシチュエーションではあった。
カインがパンパンに膨らんだ自身のトラウザーズの前を寛げ、下穿きの腰紐を緩めた。
布がずり下げられ、露わになったものに、俺の目が釘付けになる。
カインのそれは俺のものより一回り大きく、色身も濃かった。皮膚が伸びて皺のない根元には怒張の筋が浮かんでいて、彼の髪色に似た艶やかな下生えが濃い影を落としている。先端の浅い溝に透明な雫が滲み、赤く色づいた先端を艶めかしく光らせていた。
ゴクリと喉が鳴り、それに気づいたカインが切れ長の目を細める。
「な……なんで、全部脱がないんだよ」
目のやり場に困り、羞恥を紛らわすために咄嗟に思いついた言葉を口にする。
「俺も、できれば余すところなく肌を重ねたいが、そうすると万が一賊に押し入られたとき、俺は真っ裸で剣を振るわねばいけなくなる」
答えながら、カインが俺の腕を順に持ち上げ、残っていたローブの袖を抜いた。
護衛の騎士たちに混じり、全裸で戦うカインを想像し、思わず笑いが込み上げてくる。
「こんなときに笑わせるな!」
「笑わせたくて言ったわけじゃない。俺はそれでも構わないが、そんな側近を持つのは、お前の名誉に関わるだろう?」
そうなったらカインの女性ファンが減って悪いことばかりでもなさそうだが。エドワード王子の側近は護衛だけでなく、王子の閨の相手までしているらしいなどと下世話な中傷を吹聴する輩も出てくるだろう。
そんなことを考えている間に、カインが覆いかぶさって来た。じゃれるように唇を啄み、軽く舌を絡ませただけで、すぐにキスは解かれる。頬や顎を辿り、首筋に吸引の音を立て、カインの唇が降りていく。痕を残さないためか、ふくらはぎを吸われたときほどの強さはないことを少し残念に思った。
胸元にあたたかな吐息を感じたと思ったら、飾りとも言えないわずかな突起に濡れた感触がする。視線を下げると、カインが見せつけるように、舌先でチロチロとピンク色の突起を転がしてみせた。
くすぐったいし恥ずかしいし、それ以上にぞわぞわするような切ないような、今まで感じたことのない感覚が広がっていく。
「……ふ……ヤッ……」
耐えられずに身をよじるが、今度は周りの敏感な部分ごとキツく吸い上げられ、反射的に背筋が浮き上がる。
反動で彼の硬い腹筋に自身の反り返った裏筋を擦りつけることになり、下腹部に行き場のない重怠い熱が溜まっていく。このまま腰を振り、彼と俺の腹の間で自身を擦り上げたい衝動が込み上げてくるが、さっきから俺だけが感じているという事実がそれにブレーキをかける。
「そ、そういうのはいいから、早く挿れる準備を……」
思わず口走ると、胸の熱が急に引いた。
顔を上げたカインは、軽く目を見開き、言葉を探すようにじっと俺を見つめている。
何かおかしなことでも言っただろうかと、俺も自身の発言を反芻した。
「えっと……、もしかして、挿れられるほうがよかったとか? だったら、それでも構わないが……」
口ではそう言いつつも、人と接することが苦手で生涯童貞だった前世を思い出せば、自信のなさから前がちょっとだけ元気を失くしそうになる。
「ちがう。できれば逆がいい。……が、そんな話を、いったい誰に教わった?」
カインは俺が男同士のやり方を知っていることが驚きだったようだ。
「誰にも教わってない。それも前世の知識で……」
「前世とやらで男に抱かれていたということか?」
「い、いや……。前世では、なんというか……。男同士の閨事が物語や絵になって、誰でも読むことができていたんだ……」
BL文化のないこの世界で、BLを理解してもらうことは難しい。
説明する声は途中でごにょごにょと口籠り、尻すぼみになる。
「お、お前のほうこそ! 男同士のやり方を知ってるってことは、男とも経験があるってことか?」
信じられないといった顔で固まっているカインに、今度は俺のほうが詰め寄った。
「経験はないが、騎士団にいれば珍しいことではないから、おおよその知識はある。だから、男同士のほうが色々と大変なことは知っている」
それ以上、至近距離で見つめ合うことができなくなり、視線が泳ぐ。
そもそもこういうことは事前に話し合っておくべきではないのかと思ったが、カインからすれば、挿入うんぬんはまだまだ先の話で、側近という立場上、それ以上の仲になったからと言って、容易に切り出せる話でないこともわかる。
「一週間頑張って指二本しか挿れられなかったから、最後までは無理かもしれないけど……。君が嫌じゃないなら、俺は、その……」
痛いのは嫌だけど、次いつこんなことができるかわからないし、やれるところまで試してみたい。
言えなかった言葉のかわりに、俺は彼の背に両腕を回し、ぎゅっと抱き寄せた。
「いいのか?」
耳元で囁かれた言葉に、彼の肩口に顔をうずめ、首肯する。
カインが身を起こし、吐息が触れそうなほどの近さで顔を覗き込んできた。
「無理そうなときは、我慢せずにすぐに言うんだぞ」
まるで子供をあやすような口調に、自然と口角がゆるむ。
近すぎる距離に目のやり場がなく、彼の男らしく隆起した喉元へと視線を逃した。
「枕の下に香油がある……。セルペンスが、痛み止めの薬草も混ぜてるって言ってた……」
「……セルペンスには……」
一瞬の間をおき、何か言いかけたカインの言葉の先を予想し、慌てて遮った。
「俺は何も言ってない! あいつが勝手に気を回してきただけだ!」
カインはまだ何か言いたげな複雑な顔をしていたが、口には出さなかった。
俺の専属護衛になった〈影〉の者たちにはとっくに俺たちの関係に気づかれている気がするが、秘かに香油まで差し入れされるのは、さすがに彼も立つ瀬がないのだろう。
カインが身を伸ばし、小瓶を引き寄せながらぶつぶつと呟く。
「もし、明日の朝、お前がベッドから起き上がれないなんてことになったら、俺はあいつに殺されそうだな」
「そんなことになったら、俺も恥ずかしくてこの家に二度と出入りできない」
ははっと乾いた笑みを漏らす。
――だから、お手柔らかにお願いします。
最後のひと言は口にせず、哀願の眼差しに込めた。カインが覆いかぶさってきて、チュッ、チュッ、と濡れた音を立て、額や頬にキスをする。キスはすぐに唇へと移動し、鼻先を軽く擦り合わせ、角度を変えて何度も唇を食み、舌先を優しく吸い上げる。
性欲に直結しない、じゃれるようなキスなのに、その間も、我慢できないといった感じでカインの腰は静かに揺れ、互いの濡れそぼった性器を擦り合わせる。
たまらなく気持ちいいのに、達するにはあと少し何かが足りない。
「カイン……。そんなふうにされたら…………」
キスの合間に抗議の声を上げるが、その言葉もまた、途中でカインの唇に飲み込まれてしまう。
「余裕ないから……先に一度出してもいいか?」
そう尋ねるより先に、カインの手は、俺とカインの性器をひとまとめに掴んでいた。手を上下に動かされると、それまでの重ったるい快感とは異なる、もっと直接的な、身の置き場のないような興奮がせり上がってくる。
返事をすることも忘れ、カインの手ごと、俺も上から両手を添えた。
明らかにサイズの異なる二人分の性器が、剣だこのできた武人の手と、女性のように白く細い指をした俺の手に包まれている。圧迫されてドクドク脈打つ感覚が、俺のものなのかカインのものなのかわからなくなる。
死ぬほど恥ずかしいのに、その卑猥な光景から目を逸らすことができない。
「エド。お前の好きに動かして」
低く掠れた声と吐息が鼓膜を震わせ、耳に濡れた感触がする。耳すらも、カインに歯を立てられ、舌を這わせられると、性的に感じてしまう。
過ぎた興奮に頭の中までもがドクドクと拍動しているようで、俺は言われるがままにカインの手ごと両手を上下させた。
掌や指がすぐに濡れはじめ、動きに合わせて濡れた音が立つ。
下腹部に向けていた顔を掬い上げるように口付けされ、荒い息の合間に唇や舌を吸われる。
唇が離れてはくっつき、快感が押し寄せてはぎりぎりのところでせき止められる。
それでも、昇り詰めるまでにほとんど時間はかからなかった。
絡めた舌をキツく吸われ、嬌声ごと飲み込まれる。過ぎた快感に体を震わせた次の瞬間には、生温かいものを勢いよく噴き出していた。
直後にカインも小さく呻き、俺たちの手を熱く濡らした。
いつもの射精と違って、出したはずなのに熱が治まる気配が全くしなかった。
前への刺激がなくなったからか、呼吸が落ち着くのも待たずに浴室で弄った後ろが疼き始める。
すぐにキスを仕掛けてきたカインも、似たような状態だったのかもしれない。
事後の甘さを孕んだキスを繰り返しながら、彼の濡れた手や指が俺の肌を余裕なく這い回る。その手が膝裏にかかり、頭側に持ち上げられる。体が深く折り畳まれ、浮いた尻の下にカインが膝を進めてきた。まるでおむつ替えをされる赤ん坊のようなポーズで、恥ずかしい場所が余すところなく彼の目に晒されることになる。
キスを解き、のしかかっていた体を起こすカインに、俺はいやいやをするように首を横に振った。
「カイン! なんでこんな格好……!?」
「ちゃんと見ながら慣らさないと、傷つけるだろ? 騎士団でも、初めてなら、明るい場所で、この体勢でするのがお勧めだと聞いた」
――そうなのか? 屈強の騎士たちが、本当にこんな恥辱に耐えているのか?
俄かには信じがたい話ではあったが、ちゃんと見える状態のほうが安全というのは、理屈としては理解できる。
しかし、すぐには状況を受け入れられないでいる中、カインが両側から俺の薄い尻の肉を掴んだ。むにっと左右に引っ張られ、普段は狭間に隠れている場所が外気に晒される。
「すごいな。エドはこんなところまで美しい」
カインが俺の恥ずかしい場所をまじまじと見つめ、感嘆交じりの溜め息を吐く。
「やはり先に出しておいて正解だった。出してなかったら、これを見ただけで危なかった」
まるで周りが目に入っていないような据わった目つきで、カインがぼそぼそと言葉を続ける。おそらく独り言だろうが、普段は堅物が服を着て歩いているような男なだけに、本当にこれはカインかと疑いたくもなる。
「カイン、何もしないのなら手を離してくれ! 俺が自分で慣らす!」
ただ恥ずかしい場所を見られているだけという状況に耐えきれず、文句を言ったところ、ようやくカインが視線を上げた。
「そうだな。それも抗いがたい提案ではあるが、自分で慣らしているところは次の機会に見せてもらうことにしよう」
……いや……。それはそれで嫌だ。何なんだよ、その羞恥プレイ。
そう思って自身の失言を悔いていると、カインがふいに顔を伏せた。直後、窄まりを濡れたもので撫でられ、喉奥が「ひっ」と引き攣れる。
高く浮き上がった俺の恥ずかしい場所――会陰から尻の狭間を、カインの鼻先が前後している。そこを撫でている濡れたものが彼の舌だと理解し、体中の血液が一気に頭へと昇った。
「ば、ばか! カイン、何やってるんだ!?」
逃れようにも、両側から膝裏をがっしり押さえ込まれていて、びくともしない。
「なぜ香油を使わない?」
「香油も使うが、香油は貴重だからな」
「それはそうだが、そんなものをケチるほど王宮の財政はひっ迫していない!」
「俺はお前に何をしてもいいと言ったのは、お前だろう?」
トーナメントの後、確かそんなことを言った覚えがある。でも、まさかこんな格好でそんなところを舐められるなんて思うはずもないだろう?
文句は声にならず、嬌声を堪えるための小さな呻きへと変わる。
尻の肉をやわやわと揉みながら窄まりや射精の余韻の残る会陰を何度も舌で往復され、時折り内ももの皮膚をきつく吸われて、精を放ったばかりの前はまた急速に硬さを持ち始めた。
この体勢から逃れたい気持ちとは裏腹に、窄まりの奥が疼き、会陰はじんじんと熱を持ち、強張っていた体が急速に解けていく。
ぎゅっと目を瞑って快楽にただ胸を喘がせていると、熱くしこった場所にふいに冷たい液体の感触がした。薄く目を開けると、高く突き出した会陰に香油が垂らされている。香油を塗り込むように窄まりの表面を撫でられ、反射的にきゅっと力が入る。
これからされることを想像してまた少し体が強張るが、予想に反しカインは上半身を倒してきた。
キスの場合も、口寂しいと言うのだろうか……。毎回そう感じるタイミングで、以心伝心で伝わるのか、カインが口付けてくる。
まるでカインに食べられているようだと思いながら、熱い口内に舌を引き込まれ、軽く歯を立てられれば、食べているのか食べられているのかよくわからなくなる。
二人分の唾液を喉を鳴らして飲み込むと、名残惜しそうに上顎を擽り、カインの唇が離れていく。
香油をまとったぬめる掌に性器をひと撫でされ、その手が会陰を撫で、奥へと下りていく。緊張できゅっと窄んだ襞を押し開き、無骨な指が入り込んできて、その異物感に両手でシーツをぎゅっと握り込んだ。
「痛くないか?」
「……いじょ……ぶ……」
言葉とは裏腹に、声を出すのがやっとである。
「前のほうを擦るといいらしい」
奥で指がくねる感触がする。ゆるゆると動かされ、ぬめる指が何度も浅いところの膨らみを引っ掻く。
それは舌でほぐされていたときよりももっとダイレクトに、性感帯を強く刺激されるような感覚だった。
触ってもいない性器がまた急速に張りつめていく。
「あ、ぁっ……、カイン……、そこ……なんかへんっ……」
甘ったるい疼きに、どうしようもなく息が乱れ、声を我慢できなくなる。
「エド……、お前、本当に初めてか?」
「……んなの……き、まって……だろ……」
前後の動きが滑らかになってきた頃に、二本目の指を増やされた。
異物感が増し、自ずと太腿に力が入る。一層締め付けがキツくなるが、痛みはほとんどなかった。
隘路を押し広げるように抜き差しされ、ひっきりなしに喘ぎが漏れる。
男の喘ぎ声なんて聞いても萎えるだけだろうと思うのに、我慢できない。
そのうち後孔がわずかに緩んだのか、二本の指が少しだけ左右に広げられ、わずかに開いた隙間から香油をそそぎ込まれる。
すかさず指が三本に増え、腰が震え小さな悲鳴が漏れる。
きつくてたまらないのに、浅いところのしこりを擦られるたびに射精感が込み上げてくる。でも、先に一度出したせいか、達するには刺激が足りなくて、イきたいのにイけないもどかしさで腹の奥が切なく疼く。
ひっきりなしに先走りが溢れ、香油と混じり合って彼の指と熟れた縁を濡らす。
指で掻きまわされるたびに、ぐしゅ、ぐちゅと淫猥な水音が響き、恥ずかしいのに、その音にもまた興奮させられた。
「カイ……もうっ……いいから!」
涙目で訴えると、指が一気に引き抜かれ、背筋が弓なりに撓った。
よくはないけど、もういい。
生殺しの快楽が続くくらいなら、いっそ一思いに挿れてくれという気持ちだった。
散々いじられてほころんだ場所に、熱く滾っているものが擦りつけられる。
「エド。なるべく力を抜いててくれ」
「が……んばる……」
「頑張ったら駄目だろ」
ふっと笑った気配がし、直後、窄まりに、ぐっと押し広げるような圧を感じた。
そのまま灼熱の杭がめりこんでくる。
裂かれるような痛みを感じたのはほんの一瞬で、すさまじい圧迫感に、息ができなくなった。苦しくて、悲鳴すらあげられない。
「エド……ちから、抜けるか……」
カインの声も苦しそうだ。
締め付けられ、痛いのだろう。
女性相手なら、もっと楽に気持ちよくなれるのに――。
そう思うと、「抜いてほしい」より、どうにかして受け入れたい気持ちが勝る。
痛みで萎えた前を揺るく擦り上げられ、その刺激でわずかに力が緩む。ぐぐっとまた押し込まれ、先端の膨らみを呑み込んだことで少しだけ楽になった。
それでも、圧迫感は指の非ではないほどすさまじい。
「エド……」
カインが上半身を倒し、口付けてくる。
あやすように唇を食み、舌を絡めながら少しずつ自身を押し進めてくる。
体内に異物を押し込まれる苦しさは変わらないが、カインの興奮の証だと思えば、増していく存在感が嬉しかった。
尻に濡れた下生えの感触がする。
最後は一気に最奥を貫かれ、俺の性器の先端から、わずかだが透明の液が散った。
「……ぁあっ!」
カインが覆いかぶさってきて、俺の背中の後ろに腕を回し、ぎゅうぎゅうに抱きしめてくる。
みっちりと自分の中を埋め尽くす彼の存在を感じ、なんだか胸がいっぱいになって、じわりと視界が滲んだ。
「痛いのか?」
俺は首を横に振った。
痛くないと言えば嘘になるけど。
「嬉しい……だけだ。カインとちゃんとできたことが、嬉しい」
「まだ、『ちゃんと』じゃないけどな」
カインがふはっと笑い、その振動で奥を擦られる。反射的に太股に力が入り、彼をさらに締め付けてしまう。
カインが小さく呻いた。
「少し動いてもいいか?」
返事をするのは気恥ずかしく、コクコクと首肯する。
抱擁を解いたカインが、ゆっくりと腰を引き、中の熱が引いていく。
抜ける寸前まで引いては、また竿の半ばまで押し込まれる。
形を馴染ませるようなゆったりとした動きが、しだいに浅いところのしこりを擦り上げるような、小刻みな動きに変わっていく。
彼が腰を穿つたびに、指で突かれるよりももっと大きな、腰が痺れるような快楽が押し寄せる。
行き場のない熱が下腹に溜まり、パンパンに張っていく。
「アっ、あ……、ぁ、んっ」
律動に合わせて声が漏れる。
限界まで達した快楽の苦しさで、ひっきりなしに涙がこぼれた。
「カ、イン……もう……」
涙ながらに限界を伝えると、彼の腰の動きが一層激しくなった。
靄がかかったように思考が散漫になり、意識がふわりと舞い上がる。
強烈な快感がせり上がって来て、全身を痙攣させ、腹に熱い飛沫を吐き出した。
直後、カインも小さく呻き、動きを止めた。
熟れた粘膜がうねり、根元まで埋め込まれたカインのものにまとわりつき、食い締める。
一層嵩を増したそれがドクンと脈打ち、最奥にじんわりとした熱を感じた。
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