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今、パリで爆発的人気を誇るメンズコスメブランド《oDin 》。
北欧出身の創業者が、自らの類いまれなセンス、斬新なアイディア、そして確かな品質で次々とメンズコスメを売り出し、それが全て大ヒット商品となっている。
今やoDinの化粧品を持つことはパリのモデル界での1つのステータスのようになりつつある。
1ヶ月前、そこの社長が日本に新しく支店を作り、自分が1からプロデュースした商品を複数売り出す、というニュースが界隈を駆け巡った。
もちろん、日本の売れっ子モデル(もしくは俳優)を抱える事務所は、oDinに自分たちが1番自信のあるモデルを我先にと差し出した。商品の宣伝に使ってくれ、と。
水瀬の所属する湊プロダクションも例外ではなく。
三十路にも関わらず、不動のメンズモデル界No.1の称号を持つ水瀬伊束を抱えるこの事務所が、動かない訳がなかった。
忙がしい合間を縫って、幾度となく社長自らがパリに赴き、水瀬のことを宣伝、アピールしまくった。
結果、見事日本で発売される新商品、宣伝に使われるメインモデルは水瀬…ということに落ち着いた。
………という経緯があったのにも関わらず、当の水瀬本人はこの仕事を快諾しなかった。
理由は簡単。
彼のマネージャーである黒渕佐都が長期の療養休暇中で、別のマネージャーが彼に宛がわれていた為である。
佐都が事務所に入ってまもない頃、まだ事務所の受付等で雑用として働き始めたばかりの頃だ。
そこへ、当時のマネージャーと揉めに揉めた水瀬がやってくる。
佐都を一目見た水瀬は社長室に佐都を連れて一言。
「俺、マネージャーこの子がいい」
なにも言われず、むんずと腕を捕まれ「来い」と一言われて社長室に連れてこられた佐都。その時の佐都の表情はまさに見物だった。
宛てがわれるマネージャーと長続きしないのは彼がキッズモデルの頃からなので、自分の方から言ってきた……という事は余程に彼の事が気に入ったのか…。
なんにせよ、こちらもそろそろマネージャーの替えがいなくて困っていたのだ。ちょうどいい。
「ええと…黒渕、と言ったか。喜べ。お前、一週間後から水瀬のマネージャーだ」
超展開。
とにもかくにも現実、佐都があの水瀬伊束のマネージャーになった経緯がこうなのだから仕方ない。
「湊さん!」
「あら水瀬!かっこよくきまってるじゃな~~い?」
社長と談笑していると、最初の撮影の準備を大方終えた水瀬がズンズンと早足でやってくる。……あの体格なので迫力が。
「佐都とくっつきすぎだ。もっと離れろ」
「あら」
「み、水瀬さん…っ、そんな…僕と社長話してただけですってば」
「うるさい、それに水瀬と呼べなんて言っていない」
「……っ、~~ぃ、いつか…さ、ん」
言おう。
この2人、もうとっくの昔に一線を越えている。
世の中で言う、「恋人同士」というやつだ。
なんせ水瀬のマネージャーが佐都に大決定したのは水瀬の一目惚れなのだから、まあ頷ける。
「いいか佐都、湊さんにもう近づくなよ。お前までデビューさせられる」
「えぇ~~? なにそれ水瀬。それじゃ黒渕君と仕事の話できないじゃないの」
とにかく近づくな! と残し、水瀬は撮影場所へと向かっていった。
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