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2. 個性豊か(婉曲表現)な仲間たち

 そのまま、パーティーメンバーで宿泊しているという宿へと案内される。  さすが高難易度クエストを多く受けているだけあって、安宿ではなさそうだ。見るからにロビーが立派で、ラウンジのソファで会合までできるようだ。これから報酬が振り込まれたら、僕も、こんなちゃんとした寝床で寝られるのか。だって単発の仕事で、今の年収の三倍が入るんだから。  僕はラウンジで待機の支持を受けて、ソファへと座った。これは、相当に期待できそうだ。  これから得られる報酬の額を思い浮かべてうっとりしている間に、フェリが他のメンバーを連れてラウンジへ降りてきた。  筋骨隆々で人相の悪い男と、やたら露出度の高い魔術師らしき女。男は下卑た目で僕を値踏みするように見ているし、女は僕を鼻で笑った。二人ともそれなりにランクの高い装備をつけているし、僕よりも年上だろう。きっと、経験豊富な冒険者たちだ。  長年の勘を働かせるまでもなく分かる。このパーティー、絶対にやばい。 「紹介しよう。俺と同じファイターのギルと、白魔術師のミカだ。ギルはタンクと斥候、ミカはバッファー兼ヒーラーをしている」  人員の配置もちぐはぐだ。  ファイターが二人というのはよくある話だけど、なにせ隠密能力に欠けるジョブだ。まともな編成だったら、まず斥候役は兼ねない。それから白魔術師は高ランクの魔術師のみが選べるジョブで、人員と金銭に余裕のあるパーティーが高報酬で雇うことがほとんど。こんな小さなパーティーにいるということは、何かわけがありそうだ。 「よろしくな、エルちゃん」  ギルが僕を見て舌なめずりをする。僕は華奢で女顔だから、こういう風に「舐められ」やすい傾向にあった。  魔力量が多いと性欲も強くなるから、魔術師は淫乱だという迷信も、これに拍車をかけている。魔力量と性欲に、相関関係なんてあってたまるか。 「ねえ、フェリ。こんな坊やを入れなきゃいけないくらい、私は頼りないのかしら? ねえ……?」  谷間を露出して、むちむちの太腿をすり合わせながらミカが言う。その安い色仕掛けをやめろ、と叫びたくなった。  ごく稀に、こういうのがいるから困るんだ。魔術師は淫乱だって偏見を逆手にとって、パーティーメンバーへ色目を使う馬鹿は滅んでくれ。  フェリは腕に絡みつくミカの手を払いのけて、「質問はあるか」とソファに座る。それに少しだけほっとしたものの、現状は変わらない。 「質問は……今のところ、ないです」  ツッコミどころなら山ほどある。僕が遠い目をしていると、フェリは「そうか」と頷いた。  それから、報酬支払の方法だとか、戦闘中のルールだとかの説明に移る。  報酬は山分け方式。パーティーの共用費としていくらか天引きしたものを、平等に分け合うこと。  契約事項自体は、どのパーティーにもあるようなことしか書いていない。報酬はやっぱり、目が飛び出そうなくらい高かった。それだけもらえるなら、目に見えているすべてを我慢できそうなくらいには。  唯一気になったのは、フェリの若さと、冒険者歴の短かさくらいだ。 「リーダーはフェリクス=ロナード。満十八歳で、冒険者歴が半年……」  ちらりと彼を見やると、「何か質問でも?」と尋ねられる。いえ、と首を横に振った。  この年頃で冒険者になるのは、よくある話だ。だけど、リーダーをするには若すぎる年齢ではある。それに姓があるなんて、どこぞの貴族の血筋なんだろうか。  どうにもちぐはぐな印象を受けるパーティーだ。明らかに、引き受けるべきではない。だけど、こんなおいしい条件、これを逃したらもうないかもしれない。  嫌な汗をかいた掌を、強く握りしめる。  この勧誘を受けたい理由が、報酬以外にもう一つあった。  フェリの境遇だ。  正直言って、フェリは早熟な方だろう。言葉遣いはなってないと言っても、契約に関する説明はちゃんとしていた。聡明な部類だと思う。  だけど多分、まともなパーティー編成を知らない。世間知らずな十八歳だ。それから多分、メンバーの二人はろくでもない連中だ。  こんな怪しい状況に置かれた子ども。そう思うと、嫌に心がざわついた。  深入りするな、と冷静な自分が警鐘を鳴らしている。だけど。  もしも、何かあったら後、絶対に後悔する。  僕が手を出さなかったら、誰がこの子を助けるんだ。  ペンをとって契約書へサインをする。躊躇わずにナイフで親指を軽く切り、血判を捺した。リーダーであるフェリは紙面を確認して、手元へ納める。こうして僕は、正式にパーティーの一員となった。  簡単な挨拶を交わし、次の任務の説明を簡単に受けて、今日は解散する流れになる。あっけなく契約が済んでしまった。これから巻き込まれるかもしれない面倒にため息をつきかけて、それでも後悔するよりはマシなはずだと思いなおした。  子どもの冒険者がどれだけ苦労するかは、僕自身が身をもって知っているじゃないか。  僕が自分の宿へ戻ろうとすると、フェリに呼び止められた。 「お前、こっちへ移ってこないのか?」 「え。まだ報酬ももらってないですし、無理です。こんなところ、僕の財布じゃ払えませんよ」  僕が目を瞬かせると、「いいからいいから」とギルが割り込んでくる。 「俺たち、金には余裕があるんだ。お前をこの宿へ泊まらせるくらい、屁でもないぜ」 「はあ。太っ腹ですね……」  首を傾げると、「まあな」とギルが曖昧に笑う。 「ここの財布の管理は、全部俺がやってるんだ。他のメンバーは苦手だっつうからよ」 「ふむ」 「俺の隣の部屋が空いてる。そこへ来ればいいだろ」 「はい」 「今日は歓迎会をしようぜ。俺が金を出すから、夜にはここへ集合な」  その言葉に、目を細める。どうにも嫌な予感がした。  やっぱり、厄介な案件を受けてしまった。後頭部を掻く。  だけど関わると決めた以上、腹を決めなければいけない。 「分かりました。荷物を持ってきます」  僕の従順な答えに、ギルはほっとしたように笑った。意図が透けて見えるけれど、乗ってやろうじゃないか。  早く荷物をとってこい、とせかしたのもギルだ。僕は言われるがままに、宿を引き払った。  こうして僕は、のこのこと彼らの宿へ泊まることにした。チェックインを済ませて部屋へ入ると、早速扉をノックされる。  扉を開けると、案の定ギルが立っていた。 「よ、よお。エル」  舐め回すように、僕の身体を見ている。僕は平坦な声で、「何か御用ですか?」と尋ねた。 「へへ、つれないこと言うなよ。決まってんだろ……」  彼はずかずかと部屋へ入り込む。扉を閉じられそうになるのを、足を挟んで止めた。僕の反抗に驚いたのか、ギルが目を丸くする。 「何が決まっているんですか?」 「そ、そりゃあ、イイことだよ」  なおもヘラヘラと笑うギルを、僕はきつく睨みつける。 「イイことって?」  僕の冷たい声に、だんだんギルも苛立ってきたんだろうか。眉間へしわが寄り、目つきが険しくなっていく。僕は負けじと、威嚇するように杖で床を叩いた。 「エルちゃん、分かってんだろ。お前の欲求不満の相手をしてあげようって言ってんだから、甘えとけって」  猫なで声が気持ち悪い。十年間の経験から言って、これからの生活を考えると、ここは穏便に済ませない方がいい。  この手の輩には、決して舐められてはいけない。さもなければずっと、生活を脅かされることになるから。 「いいえ、不要です。あなたの誘いは願い下げだ」  不快感を全面に押し出した、硬い声で言う。それでもなお、彼は「素直になれよ」と顔を近づける。  僕はただ、彼をにらみつけた。  しばらくしてようやく、僕がなびかないことを理解したらしい。顔を歪ませて、不満げに吐き捨てられる。 「ふうん。へえ、なるほど。強情なこって」  別にいいんだぜ、と彼はその場で唾を吐いた。 「歓迎会で特別にかわいがってやろうかと思ってたが、もういい。後で分からせてやるから、覚悟しとけ」  肩をすくめると、彼は不機嫌な顔で僕を見下ろした。そのまま大きな足音を立てながら去っていく。  ひとまずは、助かった。僕は一旦胸をなでおろして、荷ほどきにとりかかった。  それが終わったら、まずは疲れを癒さなければ動けない。  少ない荷物を広げたら、部屋へ備え付けられた椅子に座って、膝を抱えたまま目を閉じる。うつらうつらするだけでも、だいぶ違うものだ。

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