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19. 索敵

 現場近くの村に到着すると、そこはすでに冒険者たちでごった返していた。 「すごい人」  あたりを見渡す。リーフェさんも同じ景色を眺めながら、「なるほどな」と頷いていた。 「ドラゴンが番を求めて山奥で放浪し、そこで暮らしていた魔物たちが外へと逃げたんだ」  ちらり、と僕を見やる。ここから先、どうなるか答えろってことだろう。 「山奥で暮らしていた魔物たちはドラゴンから逃れようと、下へ逃げます。それが連鎖すれば、弱い魔物は山のふもとまで追い出されてしまう」 「そうだな」 「だから、大量の魔物がふもとへ……人里近くに出現する。僕たちより先に現場へ来ているパーティーは、その魔物たちに対応していたんじゃないですか?」  リーフェさんは、満足げに頷いて手を叩いた。どうやら、及第点をとったみたいだ。嬉しい。  フェリはこの話に、あまり興味がないみたいだ。馬車から降りてからずっと、膝を伸ばしたり腕を回したりして身体をほぐしている。やる気十分、といったところだろうか。  他のメンバーも、おのおのの準備をしている。斥候役のエルフ二人組は装備を整えて、もう山へ入ったみたいだった。  リーフェさんが伝令用の使い魔を飛ばしつつ、斥候の二人と連絡を取っている。僕も紙でできた鳥の使い魔を飛ばして、辺りの地形を確認した。  鳥の視点を借りて、空から山々を見下ろす。なるほど。  切り立った崖に、ところどころ焦げた痕跡のある地面。谷には、ここで暮らしていた魔物が放棄したのだろう、巣穴の跡がちらほらあった。 「……魔物の巣が、いっぱいある。でもみんな、放棄された後だ」  フェリは僕のつぶやきに、「そうか」と頷いた。リーフェさんは斥候ふたりとやり取りをして、僕たちを呼んだ。 「ドラゴンの巣穴が見つかった。これから山に入るから、準備を」  フェリが、大剣を背負う。僕は装備を指さしながら、ひとつひとつ確認した。ほころびは、わずかであっても許してはならない。  これから始まるのは、命を懸けた狩りだ。  心臓がはやく鳴る。口角が興奮でつりあがる。 「……エル。顔」  僕の顔を見て、フェリが自分の唇の端を叩く。僕は「何さ」と息を吐いて、フェリの肩を杖で軽く小突いた。 「フェリ。来て」  大人しく、彼は僕の前に立つ。わずかに頭を、僕の方へと下げた。  ゆっくり杖を持ち上げて、軽く頭に触れる。次いで両肩、胸、みぞおち。脇腹をなぞり、腿を叩く。  呪文を唱える。一音、一句、発音と文法を過たないよう。彼を守るための魔術を、ひとつずつ、丁寧にかけていった。  仕上げに、また頭を叩く。フェリは顔をあげて、僕に笑みを見せた。いつも通りの不敵な表情だ。 「行くか」 「うん」  他のメンバーも、それぞれ準備を済ませている。僕も自分自身へ防御魔術をかけて、隊列に加わった。  山へと入り、森を抜ける。遠くでは、他のパーティーが魔物と戦っている気配がした。  斥候の二人が姿を現し、僕たちと合流する。 「巣穴は谷にある。洞窟を利用しているようだ。ひとつしか見つからなかったが、目撃証言から考えると、別の個体もいるかもしれない」 「そうか。ひとまず、巣穴へ向かおう」  僕たちは落ち葉を踏み、奥へ奥へと進む。谷へと辿りつくと、なるほど、地面はあちこち焼けこげていた。  ここに、ドラゴンがいる。僕は身震いをして、杖を握りしめた。  リーフェさんが使い魔を飛ばし、巣穴の様子を探る。僕も地面へ魔力を走らせ、周りの様子を確認した。魔術師の索敵は、斥候のそれとは別の役目を持つ。広範囲を一瞬で調べて、大まかな状況を調べるのだ。 「ん?」  少し、妙な感じがした。魔物がいくらか近くにいる。それに対処している他のパーティーの冒険者たちの反応もあった。  だけどなぜか、こちらへ向かってくる冒険者の気配がある。ひとりかふたりか。正確な人数は読めない。  ……僕の探知の外にいる魔物を見つけて、そちらへ向かっているんだろうか。よく分からない。  首をひねっている間に、リーフェさんの使い魔が戻る。ファイターたちと相談しているリーフェさんを後目に、僕は再び探知をかけた。  こちらへ向かってくる反応は消えている。気のせいだったんだろうか。  妙に胸がざわつく。 「おい、エル。行くぞ」  フェリが呼ぶ。僕は地面から杖を離して、彼らのもとへと駆け寄った。リーフェさんが使い魔をもう一度放ち、僕たちを振り返る。 「ドラゴンは今、巣穴の中にいる。もう番になっているようだ。戦闘では、二頭同時に相手どることになるかもしれない」  その言葉に、緊張が走る。僕は胸を叩き、深く息を吐いた。ファイターのメンバーが、次々武器を抜く。斥候二人も、弓の弦をはじく。魔術師であるリーフェさんと僕は、頷き合った。 「ドラゴンを外へおびき出そう。僕とエルで支援するよ」  リーフェさんが、杖で地面を叩く。僕も頷いて、杖を掲げた。戦闘要員たちは頷いて、おのおのの武器を握りしめた。  斥候の片割れが手を挙げる。 「洞窟に入る魔術師は、一人にしてくれないか。もう一人はこちらに残って、俺たちが出てきたところを支援してほしい」  なるほど、とリーフェさんが頷く。僕も「そうですね」と同意した。現実的に考えて、その動き方が一番いいだろう。  もともと魔術師は非戦闘要員だし、どうしても前衛職に比べて動きは劣る。二人も前線にいたら、ファイターたちからしたら足手まといだろう。  リーフェさんは少し悩んだ後、「エル」と僕を呼んだ。 「きみは一旦、外で待機していてくれ。僕が隊へついていくことにする」 「はい。大丈夫です」  一瞬、フェリが顔をしかめたのが見えた。  彼は手を挙げて、「俺も残る」と言い出す。突然のことに、全員の視線がフェリへ向いた。 「魔術師を一人にしておけない。エルの護衛として残る」 「えっ」  思わず声をあげてしまった。他の仲間は顔を見合わせた後、リーフェさんを見る。  リーフェさんは少し考え込む様子を見せた後、「それは許可できない」と首を横に振った。 「たしかに、魔術師を一人にするのが不安な気持ちは分かる。だけど、これから僕たちが相手にするのはドラゴン二頭だ。わざわざ護衛だけに人員は割けない」 「俺は一人でドラゴンを狩れる。だから、俺じゃなくてもいい。エルの護衛に一人は残してくれ。俺が欠員の分も働く」  他のメンバーが顔をしかめる。その言い方は、ちょっとまずい。僕は慌てて割って入って、フェリの前に立った。 「いいよ、フェリ。さすがに過保護すぎる。僕は一人で大丈夫だから、きみはみんなと一緒に、ドラゴンを外に連れ出して」 「しかし……」 「だったら、さっさと行くことだ」  杖で地面を叩き、胸を張る。フェリは焦ったように、顔を歪ませていた。  何がそんなに不安なのか分からないけど、安心させるように微笑む。 「はやくみんなと、ドラゴンをこっちへ連れてきてよ。そしたら、僕もきみたちと一緒に、戦闘へ参加できる」  ね、と念押しをする。それでやっと、フェリはしぶしぶ頷いてくれた。  他のメンバーは呆れた顔をしている。冷やかすように口笛を吹く人もいた。恥ずかしくなって俯く。  だけど、これくらいの不和で済んでよかった。せっかくいい雰囲気なのに、士気を下げるようなことをするな。  フェリには後で、お説教をしなければ。 「それじゃあ、行くぞ」  斥候のエルフ二人が、率先して歩き出す。パーティーメンバーたちは、洞窟の中へ入っていった。フェリは何度も後ろを振り返ってきたけど、ちゃんと着いていく。  僕はひらひらと手を振りながら、彼らを見送った。 「さて、と」  彼らが戻ってくるまでに、僕にだってできることはたくさんある。たぶん。  安全地帯になる結界を張ったり、逃亡防止のトラップを作ったり。杖を振り上げ、地面へと突き立てる。  理論を頭の中で練り上げ、呪文として出力していく。  思考回路をトップスピードで回せ。辺り一帯を僕らの領域にしろ。  そうして、唱えるべき呪文が定まる。口にして、実行しようとしたときだ。  肩に衝撃があった。熱い。痛い。一瞬遅れて、それが攻撃だと分かる。 「……は?」  背中側に手を回す。ナイフが刺さっていた。混乱と恐怖で思考が途切れる。頭の中で組み上がった呪文が霧散する。 「よお、エル。元気そうだな」  魔力の流れがあった。何もない空間から、人影がふたつ現れる。 「ギル、ミカ……!」  恐らく、空間転移魔術だろう。ミカは大技を使った疲れを取り繕うこともせず、僕へヒステリックに叫んだ。 「あんたのせいで、私たちの人生はめちゃくちゃよ!」 「お前が通報さえしなけりゃあ、俺たち今でも仲良くやれてたんだぜ」  逆恨みじゃないか! 僕はナイフを抜いて、簡易治癒魔術を使った。止血だけして、杖を回す。  問答無用。火球をいくつも放つと、ミカが防御魔術を発動させた。

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