7 / 7
#07 スパダリ課長とお泊まりデート!〜キングサイズベッドが待つ逃げ場のない甘い檻〜
例の事故の後、ポルシェをディーラーに修理に出したセーラは、次の週末、ロッティーを連れてパディントン駅から臨時の特急列車に乗り込んでいた。向かう先は、ロンドン郊外の高級別荘地、バークシャー。
「あ、あの、セーラさん……。本当に僕、ついていって良かったんでしょうか……」
ファーストクラスの、二人きりのコンパートメント(個室席)。ロッティーは借りてきた猫のように小さくなって、膝の上で『ハロッズ』グリーンのボックスを抱きしめていた。中には、あの日ビンゴで当てたブライス人形が入っている。
「お前が俺の車を壊して電車移動にしたんだ。道中、俺の退屈を紛らわせるくらいの義務はあるだろ」
セーラは窓の外ののどかな田園風景を眺めながら、ふっと柔らかく笑った。
「それよりお前、このところまた遅くまで残業してただろ。目の下に隈ができてるぞ。ナフサの目詰まりは俺が解消してやったはずだが」
「そうなんですけど、川下はまだ目詰まってて……」
「馬鹿だな。ほら、ここに来い」
セーラは自分の隣のシートをポンと叩いた。おずおずと隣に座るロッティーの頭を、大きな手が引き寄せる。
「着くまでまだ時間がある。肩、貸してやるから少し寝ろ」
「えっ、でも、セーラさんの肩なんて……っ」
「いいから。お前が倒れたら、俺の仕事が増えるだろうが」
少し乱暴な、けれど優しい声に包まれ、ロッティーはセーラの肩にこてんと頭を預けた。セーラの微かなコロンの香りと温もりに安心したのか、張り詰めていた緊張が糸が切れたように解け、ロッティーは数分も経たないうちにスヤスヤと寝息を立て始めた。
セーラはロッティーの無防備な寝顔を横目で見下ろし、指先でそっとその頬を撫でながら、満足げに目を細めた。
◇
駅からタクシーに揺られて到着したバークシャーの別荘は、テムズ川の支流を臨む、絵画のように美しいレンガ造りの大邸宅だった。
「お帰りなさいませ、セーラ様」
出迎えたのは、クルー家に長年仕えている住み込みのハウスキーパー、マリエットだった。
「荷物をお持ちします、ロッティー様もどうぞお楽になさってくださいね」
「あ、ありがとうございます……!」
きょろきょろと広いエントランスを見回すロッティーの耳に、奥のサンルームから「ギャーッ! セーラ、サマ! セーラ、サマ!」と甲高くて賑やかな声が聞こえてきた。
「えっ、誰かいるんですか?」
「ああ。親父がインドから連れてきたオウムのボナパルトだ。俺の顔を見るといつもあれだ」
セーラが呆れたように笑う。ロッティーがそのサンルームの鳥籠に近づくと、緑色の美しいオウムが首を傾げてロッティーを見つめた。
「可愛い……。あ、そうだ。セーラさん、この子、名前を決めたんです」
ロッティーが抱えていたボックスからブライス人形を取り出して見せると、セーラは小さく眉をひそめた。
「人形にか? ……なんて名付けたんだ」
「エミリー、です」
「……エミリー?」
セーラの瞳が、わずかに鋭くなった。
「エミリーって、完全に女の名前じゃないか。どうしてその名前なんだ? ……まさか、お前の初恋の相手か? それとも、前の彼女の名前か?」
「えっ!? ち、違います、そんなんじゃないです……!」
セーラにじりじりと距離を詰められ、ロッティーはエミリーを胸に抱いたまま後ろずさりした。
「じゃあどうして言いたがらない。怪しいな。女の名前の人形を大事に抱えているなんて、いい度胸じゃないか、ロッティー」
「本当に違うんです……! ただ、なんとなく響きが可愛いなって思っただけで……っ」
いじいじと顔を真っ赤にして弁解するロッティーを見て、セーラは意地悪く唇を歪め、ロッティーの鼻先を指で軽くピンと弾いた。
「痛っ」
「まあいい。お前が隠し事をできなくなるまで、じっくり聞き出してやるからな」
そのやり取りを、後ろで温かい微笑みを浮かべて見つめていたマリエットが、一歩前に出た。
「セーラ様、お休みになるお部屋はどうなさいますか? ご一緒の方でよろしいでしょうか」
「ああ、俺のいつもの部屋を使う。ベッドメイキングをしておいてくれ」
「かしこまりました」とマリエットが手際よく二人の荷物を二階へと運んでいく。
ロッティーは慌ててセーラを振り返った。
「セ、セーラさん! 部屋が一緒って……あんなにたくさん部屋があるのに、どうしてですか? ベッド、一つしかないんじゃ……」
「当たり前だろう」
セーラは涼しい顔で言い放った。
セーラは涼しい顔で言い放ち、ロッティーの腰に自然に手を回した。
「急に来ることになったんだ。いくつも部屋を使ったら、マリエットたちの手間が増えるだろう。使用人に余計な負担をかけるのは三流だ。それに——」
セーラはロッティーの耳元に唇を寄せ、低く甘く囁いた。
「お前が俺の車を壊したせいだろ? 責任を取って、ちゃんと俺のそばにいろ」
「うう……それは、そうですけど……」
もっともらしい正論で言いくるめられ、ロッティーはぐうの音も出なくなってしまった。
◇
マリエットが用意してくれた地元の新鮮な食材を使った素晴らしい夕食が終わり、デザートの紅茶を飲み終えた頃。マリエットがエプロンを外して、少しおませな笑みを浮かべながらリビングにやってきた。
「セーラ様、ロッティー様。大変申し訳ありませんが、今夜はセーラ様が邸内においでですので、コックも含め、私どもはこれから街のほうへ外出(お暇)をいただいてもよろしいでしょうか。こんなチャンス、滅多にございませんので……」
「お、おい、マリエット。気を遣わなくてもいいんだぞ?」
セーラが苦笑交じりに言うと、マリエットは「いえいえ、どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」と、意味深な一瞥をロッティーに残して、使用人たちを連れてあっという間に邸宅を出ていってしまった。
ガチャリ、と重厚な玄関の鍵が閉まる音が響くと、この広い別邸に、セーラとロッティーは二人きりになった。
パチパチと暖炉の薪が爆ぜる音だけが、静まり返ったリビングに響いている。
(どうしよう……2人きりになっちゃった……)
ロッティーの心臓が、早鐘のように鳴り始める。あのマリエットの意味深な笑顔。そして、二階にはキングサイズベッドが一つだけ。
張り詰めた気まずさに耐えかねて、ロッティーは慌てて声を上ずらせた。
「あ、あの! この家ってWi-Fiとかあるんですか!?」
「Wi-Fi? 玄関のルーターにパスワードのシールが貼ってあるが……」
セーラは呆れたようにロッティーを見下ろした。
「こんなところまで来て何するんだよ、お前。ネットは禁止だ……さて、ロッティー」
ソファから立ち上がったセーラが、ゆっくりとネクタイを緩めた。
——逃げ場のない甘い檻の中、セーラの熱に溶かされていく予感に、ロッティーは身体を小さく震わせた。
つづく
—
【次回予告】
バークシャーの大邸宅に到着し、二人きりの甘い夜を過ごしたロッティー。翌朝、目覚めた彼の身体には、男としての隠しきれない本能が突きつけていて——。
次回
#08 「だめっ、見ないで……っ!」〜スパダリ課長に朝立ちを暴かれて赤面するロッティー〜
「ち、違います! 何もないですから、あっち向いててください……っ」
お楽しみに!
ともだちにシェアしよう!

