12 / 65
#12 「これからは俺がお前の上司だ、たっぷりと躾けてやる」〜実家破産でスパダリ課長が転落〜
「……セーラさん……あの加工写真みたいに……僕を、めちゃくちゃにしてください……して……」
甘く掠れたロッティーの声が、ペントハウスのリビングに溶けるように響いた。
羞恥と欲望に濡れた瞳で見つめられ、セーラの理性がついに限界を迎えようとしていた。
「……言ったな。もう泣いて謝っても、絶対に許してやらないからな」
ロッティーの細い腰を強く引き寄せ、熱くなった首筋に牙を立てようとした、その瞬間——
——ブーッ、ブーッ。
深夜の静寂を切り裂く、オートロックの呼び出し音が無遠慮に鳴り響く。
セーラは不快げに眉をひそめ、ロッティーの熱い額に軽くキスを落とした。
「少しだけ待ってろ……」
乱れた息のロッティーをソファに残し、セーラはガウンを羽織ってインターホンのモニターを確認した。そこに映っていたのは、予想だにしない人物だった。
「……カーマイケル?」
それは、父の側近であり、クルー家の個人弁護士であるカーマイケルだった。
「どうした、こんな夜更けに……。今開けてやる」
雨に濡れた彼の蒼白な顔を見て、セーラは胸に嫌な予感を覚えながらドアを開けた。
「セーラ様……大変申し上げにくいのですが……」
カーマイケルは震える声で告げた。
「お父様が……亡くなられました」
セーラの父、ラルフ・クルーは、インドのダイヤモンド鉱山オーナーであり、ミンチン・コーポレーションの筆頭株主・社外取締役でもあった。だが、彼が主導していた大規模な鉱山開発プロジェクトにおいて、巨額の出資金を着服・横領したという「不正の嫌疑」が突如としてかけられたのだ。
その疑惑が発覚し、ミンチン・コーポレーションが連鎖倒産寸前の致命的な損害を被ったとされる直後、ラルフは弁明の機会もないまま、自ら命を絶ったという。
一夜にして、セーラのすべてが崩れ落ちた。
◇
翌日。
セーラは、ロンドン支社の最上階、重厚な支社長室に立たされていた。
オーダーメイドのスーツは没収され、高級時計も、ポルシェの鍵も、すべての資産が凍結された。目の前でミンチン支社長が冷たい声で告げる。
「……お前の親父が我が社に与えた損害は、一生かかっても返せない額だ」
ミンチンは、分厚い損害賠償の書類をデスクに叩きつけた。
「悪く思うなよ、セーラ。俺も支社長とはいえ、親父たち役員会の決定には逆らえない。お前をこのままタダで放り出すわけにはいかないんだとさ」
「……」
「本来なら、お前も一族として法的措置を受ける立場だ。だが……お前が『売られた労働力』としてこの会社で働き続けるなら、その措置は保留してやろう。お前にふさわしい、新しいオフィスを用意した」
ミンチンの唇が、サディスティックな弧を描いた。
エレベーターが最下層へ到着し、セーラは警備員に両脇を固められたまま、強引に連れてこられた。そこは、陽の光すら入らない地下の薄暗い「資料室」の片隅だった。埃っぽい空間に、ポツンと一つだけ古いデスクが置かれている。
「今日からここがお前のオフィスだ。似合ってるじゃないか、元・エリート様?」
冷ややかな嘲笑と共に、コツ、コツ、と硬い革靴の足音が近づいてくる。振り返ったセーラの目が、わずかに見開かれた。
「……ラビニア」
そこに立っていたのは、かつて自分が使い捨てた元恋人。そして、クルー家の失脚に伴い、セーラの後任として「新課長」の椅子に座ったラビニアだった。
「まさか、俺の部下としてまた一緒に働けるなんてな。……光栄に思えよ、セーラ。お前みたいな罪人の息子にやらせるデスクワークなんて我が社にはないんだ。暇なら、これでも使って上のフロアを綺麗にしたらどうだ?」
ラビニアはそう言うと、手にした古い業務用のモップをデスクの上へ「バーン!」と激しい音を立てて叩きつけた。
驚愕するセーラを遮るように、その顎を乱暴に掴んで持ち上げる。甘く、毒を含んだ声で囁いた。
「これからは俺がお前の上司だ。たっぷりと躾けてやるよ。……あの頃、お前が俺にしたようにな」
傲慢なまでに眩しかった御曹司の、絶望の地下資料室から始まるオフィス・サバイバルが、今ここに幕を開かれるのだった。
つづく
—
【次回予告】
かつて毎夜のように交わした激しい愛撫の記憶。淫らな水音が「ぬちゃ…ぬちゃ…」と響いていたあの夜はもう戻らない。絶望と嫉妬に引き裂かれたラビニアの狂った未練が、セーラをさらなる地獄の底へと引きずり下ろす。
次回 第二章
#13 「……もう戻れないんだからな!?」〜死なば諸共!ラビニアの狂った支配と歪んだ執着〜
「お前はもう、俺を抱いてはくれないんだ。そうだよな?」
お楽しみに!
ともだちにシェアしよう!

