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#19 「お前、まさか『こっち系』か!?」〜変態ストーカーのフリをする純情お坊ちゃま〜

「さあ、吐いてもらおうか。深夜の一時保管庫から、一体『何』を盗み出そうとしたんだ?」 ロンドン支社の最上階、重厚な支社長室。葉巻の煙が立ち込める中、ミンチン支社長が冷酷に問い詰める。 絶体絶命の窮地に立たされたアーメンガードは、背中に冷や汗をびっしょりと掻きながら、必死に言い訳を考えた。 (ここでUSBの存在がバレたら、セーラさんの反撃の希望が完全に絶たれてしまう……。何か適当な言い訳は……っ!) 激しい焦燥の中、アーメンガードの胸に去来したのは、ある種の居直りだった。もしも今夜、USBを盗み出すという大義名分がなかったとしても、自分ならいつか理性を失って、この保管室で同じことをやらかしていたのではないか——。 己の中に潜む歪んだ本性と、拗らせた本物の妄執。だからこそ、その言い訳は取り繕うまでもなく、自然にアーメンガードの唇から滑り落ちた。 「……盗んでなんて、いません……っ」 アーメンガードは顔を真っ赤に染め、大粒の涙をボロボロと溢れさせながら、両手で顔を覆って叫んだ。 「僕はただ……っ、セーラさんの私物に染み付いた、コロンの匂いがどうしても嗅ぎたくて……っ! 夜中にこっそり箱を開けて、嗅いでいたんです!! 何も盗んでいません!!」 静まり返る支社長室・・・ 数秒の沈黙の後、ミンチンとラビニアは顔を見合わせ——次の瞬間、腹を抱えて大爆笑し始めた。 「あははははっ! なんだよそれ! お前、とんだ変態ストーカーじゃないか!」 「くくっ……お、お前、まさか『こっち系』か!?」 爆笑の渦中、にやけた顔で手首をくねらせる独特の仕草がアーメンガードの目の前に突きつけられる。 ミンチンもラビニアも、他人の弱みや歪んだ欲望を嘲笑う属性の持ち主だ。この斜め上の、しかし生々しすぎる「変態的な告白」と、自分たちと『同類』であることを示すその仕草は、彼らの嗜虐心を見事に満たし、疑いの目を逸らすことに成功したかのようだった。 「まあいいだろう。何も盗んでいないというなら警察沙汰にはしないでおいてやる。だが、お前は処分が決まるまで自宅謹慎だ」 アーメンガードは屈辱に震えながらも、セーラの最後の希望(USB)を隠し通せたことに、心の底で安堵の涙を流していた。 ◇ 数時間後。地下の薄暗い資料室。 「いやぁ、傑作だったよ。お前の新しい彼氏のアーメンガードなあ、自宅謹慎になったぜ」 特にすることもなくデスクの前に座っていたセーラの前に、ラビニアが嫌らしい笑みを浮かべて現れた。 「……あいつに何をした」 セーラが低い声で睨みつけると、ラビニアは肩をすくめて見せた。 「俺は何もしてないよ。あいつが自滅したんだ。深夜にお前の私物が入ったダンボールを漁って、お前の匂いを『くんくん』嗅いでたんだってさ。キモすぎだろ、あのお坊ちゃんw」 その言葉に、セーラは眉をひそめた。アーメンガードがUSBを隠し通すために、自らのプライドを捨ててそんな屈辱的な嘘をついたのだと、瞬時に悟ったからだ。 「……何も盗んでいないなら、会社に実害はないはずだ。あいつを巻き込むな」 怒りを滲ませるセーラに対し、ラビニアは待ってましたとばかりに顔を近づけた。 「実害はないけどさぁ、私的目的で夜中に保管室に忍び込むなんて、明らかに職権乱用だよねぇ。それにこの『変態くんくん事件』を社内に言い触らしたらどうなるかな? アーメンガードの評判はガタガタ、恥ずかしことになっちゃうよw」 「……貴様」 「もっとも、お前の心掛け次第では、揉み消してやらないこともないけどね?」 「……何を望んでいる」 「そんなに警戒するなよ、大したことじゃないさ」 ラビニアはフッと冷酷に微笑み、セーラの胸元を指先で叩いた。 「今日一日、俺のカバン持ちをすればいい。……それだけで、あのお坊ちゃんの処分は白紙に戻してやる」 ◇ その日の午後、高級ブティックが立ち並ぶロンドンのボンド・ストリート(Bond Street)。 ラビニアの後ろを歩かされ、連れ込まれたのは彼の馴染みのブティックだった。ラビニアはセーラのボロボロの清掃員用つなぎ服を一瞥すると、少しバツが悪そうに肩をすくめた。 「まずはその格好だな、悪いが今日は吊るし物で我慢しろ」 ラビニアはラックに並ぶジャケットを引き抜き、セーラの胸元に合わせた。 「ほら、これなんか似合うんじゃないか?」 「……ああ。なんでもいいよ」 セーラが試着室でスリーピースのスーツに着替えて出てくると、そこにはかつての「ダイヤモンド◇プリンス」のオーラが戻っていた。ラビニアは店員にカードを差し出し、「この汚い服は捨てといてくれ」とつなぎ服を処理させ、二人は店を出た。 それから、これといった目的もないまま、ラビニアの気まぐれな街歩きに延々と付き合わされた。ただ意味もなくロンドンの街をフラフラと歩き回り、ようやく立ち寄ったテラス沿いのカフェでエールを傾ける。セーラは冷徹な視線で低く尋ねた。 「この後は、どうするんだよ」 ラビニアはグラスを弄びながら、遠い目をして小さく息を吐いた。 「そうだな……。本当は一緒にゴルフコースでも回りたいところだけど、この時間からじゃさすがに無理だな」 少しだけ寂しげに笑うと、ラビニアはセーラを見つめた。 「しょうがないな。じゃあそろそろ戻るか」 そして夜。ミンチン・コーポレーションの最上階、関係者しか入れないVIPラウンジ。 窓の外には、ロンドンの煌びやかな夜景が宝石箱のように広がっている—— ラビニアの瞳には、摩天楼の無数の光が、まるでめまいを覚えるほどに美しく映り込んでいた。セーラを再び自分の傍らに従え、かつての頂点に帰ってきたという歪んだ高揚感が、彼の血を熱く滾らせていく。 息を荒くし、夢見心地で気分を昂揚させたラビニアは、セーラを革張りのソファへと押し倒すように迫った。 「……セーラ」 甘く、熱を帯びた声。ラビニアは自らのネクタイを乱暴に緩め、シャツのボタンを外して白い胸元を大胆にはだけさせた。とろんとした瞳でセーラを見上げ、その長い指をセーラのスーツの胸元へと這わせていく—— 「アーメンガードを救いたいんだろ……? だったら……あの頃みたいに、俺を抱いてくれよ」 ラビニアの吐息が、セーラの唇のすぐそばで熱く震える。 「なぁ、セーラ……。今夜だけでいい……。オレを満たしてくれたら、あの変態お坊ちゃんのことは揉み消してやるから……っ」 すべてを投げ打ち、身も心も捧げる準備を整えて縋り付くラビニア。 ——だが。 セーラの瞳には、微塵の熱も、情欲も宿っていなかった。あるのはただ、絶対零度の冷徹な見下しと、底知れない軽蔑だけだった。 セーラは、すり寄ってくるラビニアの肩を無造作に掴むと、冷たく突き放した。 「……断る」 「え……?」 ラビニアの動きが、空中でピタリと止まる。 セーラはソファからゆっくりと立ち上がり、乱れたスーツの襟元を直しながら、氷のように冷たい声で言い放った。 「お前を抱くくらいなら、地下で泥水をすすっている方がマシだ」 その一言は、鋭い刃となってラビニアの鼓膜を貫いた。 どれだけ権力を振りかざしても、どれだけ弱みを握って脅しても、セーラの「心」と「尊厳」だけは、決して屈することはない。自分に向けられているのは、かつての愛の残滓すら無い、完全な「拒絶」。 「……なぜだっ」 ラビニアは、はだけたシャツの胸元を抱え込むようにして、床にへたり込んだ。 「なんでだよぉ……ッ!」 ロンドンの美しい夜景を背に、ラビニアの悲痛な泣き声が、誰もいないラウンジに虚しく響き渡る。 プライドも、歪んだ恋心も、粉々に打ち砕かれたラビニアを冷たく見下ろしたまま、セーラは一切の未練を残すことなく、静かに踵を返した。 つづく — 【次回予告】 セーラの父親が残してくれたUSBメモリー、そこにはすべての現状を打破する希望が眠るはずだった。ラビニアが突きつけてきたの新たな取引——それは「寛大な処置」という名の新たな罠か? 次回 #20 ミンチン専属秘書への配置換え〜ラビニアが仕掛ける悪魔の誘い〜 「そんなに大事なら、返してやるよ」 お楽しみに!

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