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#28 煌めくシャンデリアの高級レストランで堪能する極上のディナー!〜餌付けされていく背徳の晩餐〜
朝の秘書室。 豪奢なドレッサーの前に座るセーラは、鏡を見つめながら、自らの手で静かにリップブラシを動かしていた。
背後からその様子を見下ろしていたラビニアが、ふと感心したような声を漏らした。
「随分と上手になったね、セーラ。……うん、もう一人でも十分いけるわ」
ラビニアの「卒業」の宣言だった。 セーラは鏡越しにラビニアを見上げる。ラビニアは少し疲れたように肩をすくめ、小さくため息をついた。
「ぶっちゃけ、こっちの秘書室の仕事だけじゃないのよ。あなたから引き継いだ課の業務も、男の姿に戻ってこなさなきゃいけないからね。毎日メイクして、着替えて……二重生活ってけっこう忙しいのよ」
かつてセーラが君臨していたポジションに座り、さらに支社長の愛人として女装までこなすラビニアの愚痴。そこには、敵同士でありながら奇妙な生活感を共有する、歪んだ日常があった。
「……今まで、ありがとう」
気がつけば、セーラの口からごく自然に感謝の言葉がこぼれ落ちていた。 自分をハメた憎き相手であるはずなのに、今の自分は彼女の教えなしではこの「女」の仮面を維持することすらできない。ラビニアに頼らざるを得ない状況に自ら順応し、素直に礼を言っている自分自身に、セーラは一抹の空しさと深い絶望を覚えていた。
◇
午後。支社長室。
いつものように完璧な足取りでお茶出しに向かったセーラに対し、ミンチンはティーカップを受け取りながら、ふと値踏みするような視線を向けた。
「そういえばセーラ、お前の寝泊まりはどうなっているんだ? 今もまだ、あの地下の冷たい仮眠室を使っているのか?」
「……はい」
「食事はどうしている」
「社員食堂の、無料のミールディールを食べています。……でも、正直飽きています」
張り詰めた空気の中、セーラはつい本音を漏らしてしまった。 かつては毎晩のように高級レストランで美食を堪能していた「ダイヤモンド◇プリンス」の舌にとって、福利厚生の簡素な食事の連続は、味気なさを通り越して苦痛になりつつあったのだ。
ミンチンはそれを聞くと、満足げに喉の奥で低く笑った。
「そんな粗末なものしか食べていないのか。スレンダーで、そのタイトスカートがよく似合っているが……それでは少し栄養が足りないな。どうだ、今日の夜、もっと美味いものを食わせてやる」
「え……」
「ディナーに行こう。お前の口に合う店を手配してある」
ミンチンの誘い。それは紛れもなく「餌付け」だった。 これ以上この男の支配下に入るべきではないという恐怖が警鐘を鳴らす。だがそれと同時に、「久しぶりの美味しい食事が食べたい」という、かつての豊かな生活を知る肉体の本能的な飢えが、セーラの理性を激しく揺さぶった。
「……ありがとうございます」
またしても、条件反射のように従順な言葉が口をついて出た。
◇
その夜、ロンドン市内の高級レストラン。
シャンデリアが煌めく豪奢な個室で、セーラはミンチンにエスコートされ、極上のディナーを堪能していた。
「どうだ、美味いか」 「……はい。とても」
運ばれてくるトリュフの香るスープや、舌の上でとろけるような肉料理。かつての御曹司の舌が、歓喜に打ち震えるようにその味覚を鮮明に思い出していく。 だが、その美食を口に運んでいる自分は今、男ではなく「美しい女秘書」としてこの席に座らされている。グラスを傾ける仕草も、フォークを口に運ぶ所作も、すべて女として扱われている。
(俺は……何をしているんだ……)
極上の味覚を味わえば味わうほど、男としての尊厳を売り渡し、餌付けされている自分に対する激しい背徳感と自己嫌悪が、セーラの胸を黒く塗りつぶしていった。
◇
「いい夜だったな」
ディナーを終え、会社へと送り届けられる帰りの高級車の後部座席。 隣に座るミンチンの分厚い手が、不意にセーラのタイトスカートの裾から滑り込み、ストッキングに包まれた太ももを撫で回し始めた。
「あっ……!」
ディナーの代償と言わんばかりの、容赦のない愛撫。セーラは身をよじり、ミンチンの手を必死に押さえ込もうとした。
「だめ……//// やめてください。運転手さんが見てるし……っ」
前方の運転席を気にしながら、声を殺して拒むセーラ。しかし、ミンチンはそんな抵抗を面白がるように、さらに奥へと指先を進めようとする。
「いつまでも、あの地下の冷たい仮眠室というのも可哀想というものだ」
耳元で、ミンチンの熱い吐息が囁く。
「……お前の心がけ次第では、ちゃんとした部屋を考えてやってもいいんだぞ?」
『ちゃんとした部屋』——その甘い提案に、セーラの抵抗する手が、ほんの一瞬だけ緩んでしまった。 あの埃っぽく、底冷えのする地下の2段ベッド。そこから抜け出し、温かいベッドで眠れるかもしれないという誘惑が、極限まで追い詰められたセーラの心を揺るがしたのだ。
(少しだけ……我慢すれば……)
だが、指先がさらに際どい部分へと触れようとした瞬間。
「……っ!!」
ギリッと奥歯を噛み締め、セーラは残された最後のプライドを振り絞り、ミンチンの手を激しく突き放した。
「……やめて、ください……っ!」
息を荒くして睨みつけるセーラ。 拒絶されたミンチンは、一瞬だけ不快そうに眉をひそめたが、すぐに氷のように冷酷な声で言い放った。
「……そうか。じゃあ、あの冷たい仮眠室に戻るがいい」
車は無情にも、会社の深夜通用口の前にピタリと停車した。 「降りろ」という無言の圧力に急き立てられ、セーラは這うようにして夜の冷気の中へと降り立った。
閉まりかける車のドア越しに、セーラは震える声で頭を下げた。
「……ご馳走さまでした。ありがとうございます」
車が走り去った後、セーラは一人、通用口の暗闇に立ち尽くした。 辱めを受け、冷たい夜に放り出されたというのに、それでも最後まで「ありがとうございます」と感謝を述べてしまった自分。
その自己嫌悪に拍車をかけるように、ある恐ろしい記憶が不意に脳裏をよぎった。
(……待て、俺は今、外に出てしまったのか……?)
地下資料室に落とされた初日、ラビニアが嘲笑混じりに告げた冷酷な警告が、鮮烈に蘇る。
『その社員証は一度外のゲートに通したら、二度とこの会社には戻れないからな』(13話参照)
一瞬にして血の気が引いた。もしあの言葉が本当なら、自分はもうこのまま冷たい外の世界へと放り出され、父の死の真相に近づくことすらできなくなってしまう。 セーラは焦燥に駆られながら、ラビニアから押し付けられたハンドバッグの中に震える手を突っ込んだ。手探りで制限付きの社員証を掴み取り、祈るような思いで深夜通用口のセンサーへと叩きつけるようにかざす。
——ピピッ。
電子音とともに、カチャリと静かにロックが解ける音が響いた。
「あ……っ、よかった……」
扉が開いた瞬間、セーラは胸を撫で下ろした。最悪の放逐を免れたという圧倒的な安堵。今の自分を温かく迎えてくれる場所などロンドンのどこにもないという事実——あの底冷えする地下の仮眠室こそが、今の自分が死守すべき唯一の拠り所なのだと、思い知らされたのだった。
つづく
—
【次回予告】
地下室の極限生活から抜け出せる希望に、思わず身を乗り出してしまったセーラ。しかし、ミンチン支社長から提示された「社員寮」の代償は、あまりにも残酷な絶対服従の首輪だった。
次回
#29 禁断の愛人契約!〜タイトスカートの裾から滑り込んでくるミンチンのゴツい手〜
「私の『専属秘書』として、今のその美しい女性の姿のまま、私の身の回りの世話を完璧にこなすことが条件だ。わかるな?」
お楽しみに!
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