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#37 物言えぬセーラの行く手を阻むラビニア!〜ロッティを人質にわざとらしくセーラを挑発〜
カツ、カツとハイヒールの音を響かせながら、パンストOL姿のセーラが役員用大型会議室へと足を踏み入れる。トレイの上には、湯気を立てる二つのコーヒーカップが乗せられていた。
「……失礼いたします」
部屋の異様な空気に、セーラの心臓がドクリと大きく跳ねた。重厚なテーブルの前に立たされているロッティー。そして、絶対的な支配者の顔つきで腕を組むラビニア。
(なぜ、ロッティーがこんなところに……)
激しい動揺をひた隠しにし、セーラは無表情な「女秘書」の仮面を被ったままテーブルへと近づいた。
一方のロッティーは、昨夜自分が犯した「引き出し漁り」のことで頭がいっぱいであった。椅子の座面に視線を落としたまま、コーヒーを運んできた秘書には見向きもせず、ひたすらうつむき続けている。
セーラは他人のふりをして、まずはラビニアの前に事務的な手つきでコーヒーを置いた。それから、重厚な会議室のテーブルをぐるりと回り、ロッティーの席へと向かう。
セーラは、下を向いたまま微動だにしないロッティーの姿を時折ちらちらと見やりながら歩を進めた。彼に近づいていくにつれて、セーラの胸の鼓動は次第に速くなっていく。ここまで距離を詰めれば、いくらなんでも正体に気づかれるのではないか。
ロッティーの前にコーヒーが入ったカップを差し出す。その瞬間、セーラはカタカタと震えそうになる自分の手を止めるのに必死だった。何とか無事に用件を済ませ、「失礼いたしました」と一礼して部屋を立ち去ろうとした、その時だった。
スッ——。
セーラの行く手を塞ぐように、ラビニアが素早い動きでドアの前に立ちはだかった。
「……っ」
セーラは足を止め、息を呑む。背後には密室の壁。ドアはラビニアに完全に封鎖され、部屋から出られない状態になってしまった。
するとラビニアは、背後にいるロッティーに向かって、わざとセーラにもはっきりと聞こえるような大声で弾劾を始めた。
「ロッティー! お前が昨夜やろうとしたことは、会社の機密情報を盗むことだろう! お前、産業スパイなんだろ!」
「えっ……!?」
ロッティーの肩がビクッと跳ねる。ラビニアはスーツのポケットからスマートフォンを取り出し、画面をロッティーの顔の前に乱暴に突きつけた。
そこに映し出されていたのは、深夜の暗いオフィスで、ラビニアのデスクの引き出しを必死に漁るロッティーの姿だった。
「あ……ぁ……」
決定的証拠を突きつけられ、ロッティーの顔からさーっと血の気が引いていく。完全に青ざめ、膝から崩れ落ちそうになる。
そのやり取りを聞いていたセーラもまた、顔色を失っていた。
(ロッティー……お前、俺のためにあのUSBを取り返そうとして……!)
ロッティーを人質に取られてしまったという絶望。みるみるうちに血の気を失っていくセーラの表情の変化を、ラビニアの蛇のような鋭い視線は見逃さなかった。
ラビニアはゆっくりとセーラに近づくと、その美しい顔を覗き込むようにして、嫌みたらしく甘い声で囁いた。
「おや、どうしたのかな、そこのお姉さん? 随分と顔色が悪いみたいだけど……?」
ラビニアの顔が至近距離まで迫る。吐息がかかるほどの距離で、その瞳はドス黒い愉悦に満ちていた。
「……何か、オレ に言いたいことでもあるのかな?」
(この外道が……ッ!)
セーラは怒りと屈辱で全身をワナワナと震わせた。だが、ここで声を荒らげて男の言葉を発すれば、ロッティーに自分の無惨な姿がバレてしまう。それに、ロッティーをどうやってこの窮地から救い出せばいいのか、焦燥感で息が詰まり、反論の言葉すら見つからない。
ギリッと奥歯を噛み締め、無言でラビニアを睨みつけることしかできなかった。
ラビニアの追及は続く——
「お前、オレのデスクを漁って、USBメモリーを取り返そうとしたんだろ?」
ロッティーの身体が恐怖で跳ねる。その反応に、ラビニアはねっとりとした笑みを深めた。
「あの漆黒のUSBメモリー。あれは人事部のアーメンガードから受け取ったのだろう? 調べは付いているんだぞ」
セーラの背筋に、凍りつくような戦慄が走った。
(やはり、あのUSBの中身は抜かれているのか……)
「どうしてお前が、謹慎中だったアーメンガードと接触してそんなものを受けとった? 言え!」
「すいません……っ、ごめんなさい……っ!!」
ロッティーは頭を抱え、涙をボロボロと流してただ謝罪の言葉を繰り返すことしかできない。
「セーラに渡すつもりだったんだろ? そうだろ!」
ラビニアの尋問は、ロッティーを精神的に圧殺すると同時に、横に立つセーラの退路を完全に断ち切っていた。アーメンガードとの繋がりも、USBの存在も、すべてがラビニアの手のひらの上だったのだ。これ以上の言い逃れも、隠し立ても通用しない。文字通り、息をすることすら許されないほどの完全な絶望が、密室を支配した。
——その絶体絶命の空気を切り裂いたのは、けたたましく鳴り響いたラビニアのスマートフォンの着信音だった。
「……チッ」
ラビニアは忌々しげに画面を見て通話ボタンを押した。「なんだよ」
『ラ、ラビニアさん大変です!!』
スピーカー越しに漏れ聞こえてきたのは、取り巻きのジェシーの悲鳴のような声だった。
『例の物流の目詰まりの件で、川下がまた大炎上してます! クライアントがカンカンです、すぐ来てください!』
ラビニアの顔が怒りと言い知れぬ苛立ちで険しく歪む。
「……本当に使えない連中ね」
ラビニアは激しく舌打ちをすると、スマートフォンをポケットにねじ込んだ。そして、目の前のセーラを鋭く睨みつけ、最後に青ざめて震えるロッティーを冷酷に見下ろした。
「ふん……命拾いしたな。後でゆっくり、たっぷりとお仕置きしてあげるから、首を洗って待ってなよ」
言い捨てると、ラビニアは嵐のように荒々しい足取りで会議室を出ていき、重厚なドアをバンッ!と激しい音を立てて閉めた。
あとに残されたのは、静まり返った密室。
女秘書の仮面を被り、息を乱して立ち尽くすセーラと、絶望に打ちひしがれてうなだれるロッティー。二人きりの役員用会議室に、奇妙で重苦しい沈黙が降りていた。
つづく
—
一度は引き下がったものの、ジェシーを従えて深夜残業中のロッティーを再び急襲したラビニア。後輩を人質に取られ、呼び出されたセーラは真夜中のオフィスにパンストOL姿で姿を現す。
次回
#38 逃げ場のない深夜のオフィス〜囚われたロッティーの前でついに本当の姿をさらけ出すセーラの決断〜
「嫌がらせなら俺にしろ! 頼むからこいつには手を出すな!」
お楽しみに!
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