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#53 裏切りの果てに捧げる戦利品♂〜全てを捨て去りセーラに直球で肉体を求める夜〜
ラムダスの自宅マンション。
最近、アーメンガードはこの部屋に入り浸っていた。
薄暗い部屋の片隅で、複数台のパソコンの冷却ファンが「ブォォォン……」と異様な重低音を立ててフル稼働している。画面には黒いコマンドプロンプトが開き、無数の文字列が滝のように流れ続けていた。
「ラムダス……何やってるの、これ?」
ソファから不思議そうに尋ねるアーメンガードに、マグカップを二つ持ってきたラムダスは淡々と答えた。
「あ、あれ? あのUSBのファイルのパスワードを、総当たり(ブルートフォース)で解析させてるのよ。中身が見れなきゃ、ただのゴミと同じでしょ?」
ラムダスはコーヒーをテーブルに置き、肩をすくめた。
「……まぁ、これだけ強固な暗号だと、個人のパソコンをフル回転させたところで何百年かかるか分からない。こんな方法じゃ、どうせ解けないだろうけどね」
「解けないの?」
「ええ。でもさ……」
ラムダスは悪戯っぽく微笑み、稼働し続けるモニターを見つめた。
「これだけ頑丈なロックがかかってるってことは……一体どんな『とんでもないお宝』が眠ってるのかなって、ちょっと興味はあるわよね」
それは、ITスペシャリストとしての純粋な知的好奇心から出た、何気ない独り言に過ぎなかった。
しかし、その言葉を聞いたアーメンガードの胸の奥で、ドス黒い野望の火種がパチリとはぜた。
(とんでもないお宝……セーラさんが、あれほどまでに欲しがっていたデータ……)
もし、このデータを自分がセーラさんに差し出せば。そうすれば今度こそ、セーラさんは自分を見てくれるのではないか? クローゼットの隙間から見せつけるような酷い扱いではなく、自分だけを真っ直ぐに見つめ、求めてくれるのではないか——。
アーメンガードの視線が、無意識のうちに解析中のパソコンの画面に釘付けになる。その瞳に宿る危うい執着の光を、ラムダスは見逃さなかった。
(……これ持って、またあの人のところへ行くの?)
ラムダスの胸が、ギリッと音を立てて軋んだ。あれから二度も身体を重ね、ようやく自分のものになってくれたと思っていたのに。アーメンガードの心は、未だにあの冷酷な男の呪縛から逃れられていない。
データを渡すこと自体は構わなかった。すでに身も心も結ばれたのだから、彼が欲しがるならくれてやってもよかった。
だが、それを「セーラのために盗む」というのなら話は別だ。
ラムダスは静かに立ち上がると、アーメンガードの愛情を試すように、パソコンの画面ロックをかけず、全くの無防備な状態のまま背を向けた。
「……ワタシ、ちょっとシャワー浴びてくるわね」
アーメンガードを信じたい。そのまま待っていてほしい。祈るような思いを胸に秘め、ラムダスはバスルームへと姿を消した。
やがて、扉の向こうからシャァァァ……と水音が響き始める。
リビングに取り残されたアーメンガードは、焦燥に駆られながら自分のスマホを取り出した。
「ごめん……ラムダス……っ」
罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、セーラへの狂気じみた未練が理性を凌駕する。アーメンガードはデスクの脇に転がっていた充電ケーブルを素早く拾い上げると、ラムダスのパソコンと自分のスマホを接続し、解析中のバックアップデータを一瞬でスマホへとコピーした。
水音が響く中、アーメンガードは震える手でケーブルを引き抜くと、スマホをポケットにねじ込み、逃げるように部屋を後にした。
◇
その日の夜。セーラのマンション。
インターホンが鳴り、セーラがドアを開けると、そこには肩を激しく震わせ、息を切らしたアーメンガードが立っていた。
セーラはラフなシャツの第一ボタンを外し、男らしいフェロモンを纏った本来の姿のまま、静かに彼を見下ろした。
「アーメンガード? こんな時間にどうした」
アーメンガードは無言のまま部屋に滑り込むと、強く握りしめていたスマホをセーラの目の前に差し出した。
「……データ、持ってきたよ。この中に移したんだ。セーラさんのパソコンに繋いで、データを取ってくれ」
「なに?」
セーラの瞳が鋭く細められる。ラムダスからデータを奪還する算段を立てていた矢先、アーメンガード自らがそれを持ってきた。
「ラムダスのパソコンから……盗んできたんだ」
「……そうか」
セーラは小さく息を吐き、USBを受け取ろうと手を伸ばした。だがアーメンガードはその手をサッと引っ込め、セーラを真っ直ぐに、熱を帯びた狂気じみた瞳で見つめ返した。
「ただで渡すつもりはないよ」
「……どういうことだ」
アーメンガードの瞳から大粒の涙がボロボロと溢れ落ちる。友人を裏切り、泥棒にまで身を落として手に入れたデータ。その罪悪感と、セーラへの抑えきれない想いに押しつぶされ、彼は言葉を詰まらせた。
「アーメンガード……」
セーラが静かに見下ろす中、アーメンガードは縋るようにその足元へ這い寄り、スラックスの裾を掴んで泣きじゃくった。
セーラを見上げ、必死に涙を流しながら、アーメンガードはその逞しい胸をポコポコと力なく叩いた。喉の奥に詰まった本音が、どうしても羞恥とプライドで出てこない。
セーラは静かに膝をつき、泣きじゃくる彼を抱き寄せると、優しく背中を撫でた。
「……抱いてほしいんだろ?」
耳元で囁かれた、低く艶やかな声に、アーメンガードの肩がビクッと跳ねる。
「……っ……セーラ、さん……」
セーラはじっと彼を抱きしめたまま、静かに待った。
「違う……っ」
アーメンガードは急に怒ったように、セーラの胸を両拳で激しく叩いた。
「そうじゃない……わかってよ……!」
セーラは叩かれるままに身を任せ、ただその熱に狂う瞳を、薄く微笑みながら見つめ返した。
やがてアーメンガードは、震える声で、ほとんど壊れたように絞り出した。
「セックスがしたいんです。セーラさんと……」
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「わかった。こいよ」
つづく
—
【次回予告】
アーメンガードはラムダスを裏切ってセーラの元に行ってしまった。嫉妬に狂ったラムダスは何度もコールするが、祈るような思いは届かない。一向に出る気配の無い呼び出し音はやがてブロックを示す話中音へと変わり、置き去りにされた寂しさは狂気へと反転する。
次回
#54 蚊帳の外に締め出された孤独な夜〜一線を超えたラムダスのスパイウェアで強制解除する着信拒否〜
『……もしもし?』
「絶対に許さないからね」
お楽しみに!
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