13 / 16

『山田由美子の一人思案』

山田由美子。六十四歳。  我が家の大ちゃん、こと山田大輔のお母様です。  三姉妹の末っ子でした。  地元の女子短大を普通に卒業。地元の会社に普通に就職。友人の紹介で現在の夫である直ちゃんに出会い、普通に交際、普通に結婚、普通に出産。  そんなごくごく普通の人生の中にたった一つだけ、今でも彼女が思い出す大事件があります。  それは、大ちゃんの出生体重が五千百八十五グラムだった事です。  だいぶ大きいから早目に出そうか、と言われ予定日よりも幾分早く入院日を決めたその夜。  六歳になっていたメグちゃんを義母に預け、大きくなり過ぎた腹を抱え全ての動作が緩慢になりふうふうと息をしながら入院準備をしている途中、帰って来た夫を出迎えようと腰を上げた途端に破水したのです。  そこからは二人、勿論この小生も、あまりの出来事に記憶が曖昧です。  なんとか夫婦で力を合わせて家を出た数日後、メグちゃん含め、全員が帰宅した時には、大福のようにふくふくとした立派な男の子を抱いていました。  分娩室に着いた時にはすでに産まれる直前で、一時間後にはすやすやと眠る大ちゃんを由美子さんは抱いていたそうです。  そう語ったのは直ちゃんと、今はもう亡き直ちゃんのお父様とお母様。  直ちゃんは、何故救急車を呼ばなかったのだ、とお医者様にしこたま怒られたそうです。  今では山田家一番の笑い話になりました。 ◆  息子がホ、じゃない。ゲイだったら?  由美子さんはAIに話しかけましたが、これでもかというくらい長い回答を読まずにスマホを置きました。  読まないなら聞かないでとAIだって思うかもしれないでしょう、と囁くつもりで窓の隙間から入り込む穏やかな風に任せて手先を揺らします。  至って静かに、そうです。私はゲイです。と大ちゃんが言うものだから、由美子さんも特に驚くことなく、大ちゃんに返事ができたようです。   「随分八月一日くんと仲が良いね」 由美子さんがそう言ったのは、大ちゃんが痩せ細った小枝の救済を求めて帰宅した一昨日の夜でした。  メグちゃんが自室へと戻り、直ちゃんは、わからんぞ、と言いながら応急処置をした小さな鉢を気にしていつのまにかソファでいびきをかき出した頃、最後に風呂に浸かった大ちゃんが台所でアイスを選んでいた時です。 「ちょっと嫌な言い方だね」 少し間を開けて目を合わせずそう言ったのは大ちゃんでした。 「そんなつもりなかったけど」 「そう?」 「いいよ。はっきり聞いて」  大ちゃんは可笑しそうにそう言って、綺麗な薄いブルーのアイスキャンディーの袋を剥ぐと、口に加え食卓テーブルに腰を下ろしました。  その動作は、わざとらしいほどに落ち着いていました。誤魔化さないからそっちも誤魔化さないで、というように小生には思えたのです。 「はっきり、っていうか。まぁ。そうだね。まずは大輔は男の人が好きなのかなって」  そんな大ちゃんに由美子さんも気付いているのでしょうか。由美子さんの声も、随分と落ち着いていました。 「わかってて聞いてる?」 「そうかな。どうかな。って感じ」  由美子さんは難しい顔を作ると、頬杖をつき天井を見上げます。 「まぁ。そうだよ。でも来夏とそういう関係かって聞かれたら、どうなんだろう。わかんない」 「お付き合い。してるんじゃないの?」 「そういうレベルじゃないっていうか」 「レベルがあるの?専門用語使われてもわかんないけど」 「違うって。付き合ってるとか、そういう簡単な関係かなってこと」 「え。わかんない」 「俺もわかんない」 「もう。結構真剣に聞いてんだけど」 「わかってるよ。まぁ、今まで通りにしてくれたらありがたいよ。俺は」  シャクシャクと齧ったアイスは、既に棒だけになっていました。 「まあいいや。もう寝る」  腰を上げ棒を放るようにゴミ箱に入れ台所を出る大ちゃんに由美子さんは「おやすみ」と声をかけます。  歯磨きしなよ、という由美子さんの小言を背中に二階へ上がる大ちゃん。  由美子さんの口はへの字に曲がっていました。  大ちゃんはきっといつものように皆が寝静まった深夜、物音立てずに降りてきて、歯磨きをしてから床に着くのでしょう。 ◆  北の地の朝が早いという事を、南に住む人々は知っているのでしょうか。  早朝の五時半前、ソファに放って置かれたままの直ちゃんが、痛テテ、と言いながらスマホの目覚ましが鳴る前に目を覚ましました。  寝たい気持ちはあるのに長時間寝ていられないと言い始めて、もう二十年は経っているように思います。  狭いスペースで寝入ってしまってガチガチになった身体を転がす反動に任せて着地をすると、些細な音で目が覚めたのか由美子さんまで寝室から現れました。 「起こしてよ。身体バキバキだよ」  おはようの前の苦情に由美子さんは返事をしません。 「コーヒーは?」 「いる」  空にはもう、朝日が登っています。  真夏日を予感させる空の青さでした。  由美子さんは、まずはというように洗濯機を回し、あくびをしながら朝食を作りました。  特に会話のない食卓でした。  昔は賑やかだった山田家の食卓も、六十を過ぎた夫婦二人になればこんなものかもしれません。  しばらくしてからメグちゃんが起きてシャワーを浴びます。化粧をしながらカフェオレを飲んでソファでスマホをいじりつつ出勤時間を待つだけです。  由美子さんの推しのアイドルが出ている朝の情報番組が始まると同時に、メグちゃんは傍に置いていたバックを手に取り、行ってきます、と言い玄関に向かいます。  由美子さんはメグちゃんを追いかけ、夕飯は、と玄関先で夜の予定の確認をして、再び居間へと戻りました。いつもなら由美子さんはテレビに齧り付くように情報番組を見るのですが、今朝はどうも様子が違います。  直ちゃんの出勤、十五分前の出来事です。 「ねえパパ」  普段、テレビに負ける直ちゃんが呼ばれて返事をします。 「なあに?」  直ちゃんは朝食を食べ終えた後、テレビのラジオ体操を画面の中のお姉さんと一緒にこなし身支度を終え、食卓テーブルで老眼鏡をかけては外しを繰り返しスマホを眺めていました。  おそらくですが、ニュースサイトを読んでいたのだと思います。いや困ったなと言ってみたり、大変だなと言ってみたりと、それはいつもと変わらない朝の風景でした。家族には一人言おじさんと呼ばれている直ちゃんです。珍しく由美子さんに話しかけられていささか不審気な表情を作ります。  由美子さんは、言うべきか、言わざるべきか。今言う事じゃないか、とでも考えたのではないでしょうか。  結局口を開いて出てきた言葉は「大輔、ゲイってやつなのよ」と単純で分かりやすい一言でした。  そう言われた直ちゃんは、側に立つ由美子さんを見上げながら瞬きを繰り返します。  残念ながら、その表情は小生から見ることはできませんでした。  「へえ……」と小さな返事をした直ちゃんを無言で見つめる由美子さん。  直ちゃんは、あまりに由美子さんの反応が無いので今度はどうしていいかわからなくなったというふうに「え?なに?」と、二人の他に誰もいないというのにきょろきょろと周りを見て挙動不審になりながら、結局は由美子さんの顔を覗き込みました。  由美子さんは直ちゃんの返事に、す、と表情を戻して「そんなもんか」と一言。  そろそろ直ちゃんはお手洗いに行って、出発しなければならない時間です。  直ちゃんは「うん」とだけ頷いて腰をあげます。 「そんなもんかなぁ」 「まぁ、それで大輔が何かした訳じゃないし……」 「まぁ、確かに」 「でしょお?」  直ちゃんは、小脇にセカンドバッグを抱えると玄関へ向かいました。 「今日あんたの給料日だから外食?」  玄関から直ちゃんの声が聞こえました。  今日は由美子さんの給料日のようです。  毎月ではないもののこの外食も、夫婦二人の時間が増えてから、なんとなく約束事のようになってきていました。  息子の事での相談は、今夜の外食の有無であっさりと終わったのです。 「メグも大輔も来たら全員で割り勘」  はっきりとそう宣言した由美子さんに「ええ」と不満を漏らす直ちゃん。 「四人分も払えませーん」  由美子さんはそう言うと「あ、お弁当」と、弁当の入った保冷バックを台所へ取りに戻りました。  大ちゃんは、八月一日さんの家に寄ってから仕事に行くと言って、直ちゃんがラジオ体操をしている間に家を出たのでした。  由美子さんはそんな大ちゃんに、二人分のお弁当を作りました。 ◆  由美子さんがパートに出ると、山田の家は途端に静かになります。  由美子さんが、出かけに濡れた布巾で葉を拭いてくれたので極小にされた冷房の風が直接当たろうとも気にもなりません。小生の足元の小枝には、気持ち水滴を垂らした由美子さんです。  窓の外では洗濯物が、微かな風に乗り気持ち良さげに泳いでいました。  小生は、この家に八月一日さんが初めて訪れた日の事を覚えています。  あれは去年のクリスマスでした。  秋に入るあたりから大ちゃんの外出と外泊が増えて、由美子さんと直ちゃんは大輔に付き合っている人がいるのかも、と息子の噂話に花を咲かせました。  三十を迎えそうな成人男子です。他に帰る家ができたとしても、何もおかしくはないでしょう。  大ちゃんは友達と言い続けていましたが、由美子さんと直ちゃんは、人に迷惑をかけるような付き合いじゃなければ、とだけ告げて口を出さずにいたのでした。  山田の家でクリスマスといえば、甘党の直ちゃんの日と言っても過言ではありません。  毎年、誰よりもホールケーキを楽しみに予約をする直ちゃん。結局こういうのが一番美味い、と白い生クリームの上に赤子のほっぺのような苺が飾られたケーキを独り占めするように頬張っていた時です。  今から帰る、という大ちゃんからの連絡に、ご馳走とか無いけど、と由美子さんは冷めた目で直ちゃんを眺めながら返事をしました。  それからすぐに、ただいま、友達いるよ、と居間に届いた声。  ランニング一枚でケーキを食べていた直ちゃんは、急いでセーターを着て、大ちゃんの友人を迎えました。それが、八月一日さんでした。  直ちゃんは、慌て過ぎたばかりにセーターを後ろ前に着て、パジャマ姿だった由美子さんも、先に言いなさい、と怒りカーディガンを羽織って、二人のために冷凍ピザを焼きました。  八月一日さんの胸には、半額になったホールケーキの箱が三つ抱えられていました。  八月一日さんの家に泊まっている事、八月一日さんが近所のショッピングタウン内の衣料品店で働いている事、残念ながら二人とも普通通り仕事だった為、タウン内の本屋で待ち合わせをして外食をするはずだった事。通り道のコンビニで大量のケーキが半額で売られ始めていた事、大ちゃんはピザを頬張りながら話をしました。   八月一日さんは緊張していたのか、大ちゃんの隣にちょこんと座り、相槌をうちながらピザをちびちびと食べていました。  由美子さんも直ちゃんも、ほんの少しだけ肩透かしをくらったような気持ちだったのではないでしょうか。小生には二人の顔が、そんな顔に見えました。  本当に『友達』だったからです。  テーブルに広げられた差し入れのケーキは、抹茶のタルトとチョコケーキ、チーズケーキの三種類。  貰いっぱなしは男の沽券に関わるとでも言うように、母さん寿司頼もう寿司、と言って、もう店やってないよ、と大ちゃんに笑われる直ちゃん。  由美子さんは若者二人に何か食べさせようと冷蔵庫を覗きましたが、別にいいから、と大ちゃんに嗜められていました。  時刻は、夜の九時を過ぎていました。  この時メグちゃんは、友人と出掛けていました。 大きな別れがあった娘の久しぶりの外出でした。 由美子さんはクリスマスプレゼントにブーツを用意していました。予算の関係から、男性陣には無しです、と言って。  日を改めた元旦は見事な初晴れでした。  八月一日さんを招いた山田家ではケーキのお返しという事で、豪勢な寿司が振舞われました。  八月一日さんと大ちゃんが八月一日さんのお宅へ帰った後、大輔の友達なのに眼鏡かけてなかったね、とメグちゃんは笑いました。 ◆  誰もいない家に、ただいまぁ、という由美子さんの声が届いて、家の空気が再び流れ始めます。  昼が過ぎ、小学生の下校時間のあたりで、由美子さんが勤め先から帰って来ました。  ついでに買い物も済ませて来たのでしょう。よっこいしょ、と唸るようなかけ声をかけて重そうな買い物袋をまずは食卓テーブルに置きました。  そのまま盛大にため息をついてソファに座り込み向かい合わせになっているソファにポイと帽子を放って、再びため息を溢しました。  あ、と何かを思い出したように声を出して、手提げからスマホを取り出し何かを確認して、なーんだ、と不貞腐れたようにスマホもポイと腰の側に放る由美子さん。  直ちゃんから残業のメッセージが届いていたのかもしれません。  そうなれば、外食は無くなります。由美子さんは夕食の準備をしないといけないのです。  由美子さんはテレビを付けパチパチとチャンネルを変えて、めぼしい番組が無いと知ると、なににしようかぁ、と買い物袋の片付けの為、ようやく腰を上げたのでした。 「父さんとメグ残業?」  その晩、一番最初に帰って来たのは大ちゃんでした。  メグちゃんは、観光シーズンになると仕事が忙しくなり、帰りが遅くなることも増えます。  めんどいなぁと事あるごとに愚痴りながら家事をこなしている間に、メグちゃんからのメッセージも来ていたようです。  そうして極め付けに、ピピと鳴いたスマホを見た由美子さんは、ええぇ、と思い切り顔を顰めて画面に向かい文句を言っていました。 「そうそう。あんたも遅かったじゃない」  大ちゃんは家族も認める定時退社男です。働き始めた頃、帰宅の早い大ちゃんに直ちゃんは難色を隠しませんでした。  あんた少し上司に気を遣いなさいよ、と父親らしくアドバイスをしましたが、別に非協力的な訳じゃないよ、と大ちゃんが言っていたのを小生は覚えています。 「新卒の子は辞めるし同僚は鬱で休職するし新しく来るはずだった臨職さんは辞退するし」  大ちゃんはそう言って、頭をガリガリと掻きながらソファへと倒れ込むように身体を深く深く沈ませました。  大ちゃんにしては珍しい愚痴でした。由美子さんの職場の愚痴の付き合いにも、そういう人なんだよ、と由美子さんにしてみれば少し冷めた事を言う青年でした。 「そういう事そういう顔で言うもんじゃないよ」  そんな大ちゃんに、同じことを返す由美子さんです。 「別に責めてる訳じゃないし」 「あらそ」  由美子さんからの忠告をさらりと交わす大ちゃん。夕方の由美子さんの顰めっ面は大ちゃんからのメッセージせいに違いありません。  飯そっちで食う、とか、今日帰る、とか、そんなそっけない一文だったはずです。  じゃがいも安かった、と居間の座卓に出された肉じゃがを大ちゃんはご白米にかけて胃に流し込むように啜り食べます。 「最悪」  大ちゃんは、由美子さんがそう言って嫌がると「いやもう、めんどくて」と、申し訳なさそうに眉を八の字に曲げて少し笑いました。  付け合わせのわかめの酢の物には手をつけず、玉ねぎと卵の味噌汁に口をつける大ちゃん。  ものの数分で茶碗を空にした大ちゃんの前に、今度は豆大福が出されました。  直ちゃんの大好物です。同じく、大ちゃんの好物でもあります。  テレビから流れるバライティ番組の笑い声と、由美子さんの水仕事の音だけが部屋にありました。 「来夏が」  大福を前に、大ちゃんが口を開きます。  ともすれば生活音でかき消えそうな小さな声でしたが、由美子さんには届いたようです。  由美子さんは蛇口を閉じて、パッパと手を払って水滴を飛ばしました。 「弁当美味しかったって」  テレビを見ながら、大ちゃんはそう言います。  由美子さんは振り向かず「八月一日くんにはいっつもお菓子貰ってるし」と笑い「食事でもって言ってたってあんたがいっつも忙しいっていうから」と大ちゃんを責めるような事を続けました。  大ちゃんは無言のままです。  由美子さんは、自分の分の大福を片手に大ちゃんと向かい合うようにソファへ腰を下ろしました。  お互い暫くは何も喋らずに、賑やかなテレビ番組を眺めていました。  大ちゃんは、一つ、咳払いを落とし、ゆっくりと口を開きました。 「母さんは嫌だって思った?」  由美子さんは、やはり大ちゃんの方を見ません。  見ない代わりに「ああ、昨日の話?」と何事もなかったような返事を返しました。 「まあ、うん」  なんと言っていいのかわからないように眼鏡の隙間に指を入れて右の瞼を掻いて、大ちゃんは頷くだけの返事をします。  由美子さんは、手に持っていた大福を乗せた皿をテーブルに置くと「嫌だなって思ったって仕方ないじゃん。息子なんだし」と、少し怒ったような表情を作りました。  気まずさからか、お互いの視線は決して合いません。 「孫とかはさ、ごめんって思うよ」  大ちゃんの謝罪を前に、由美子さんは膝を抱えます。視線は相変わらずテレビを向いたままでした。 「孫。孫ねえ」 「母さんくらいの人皆言ってる」  それは、大ちゃん自身の自嘲が籠った笑い方に聞こえました。自分の母も違いないだろうという、大ちゃんの思いやりの言葉だったのかもしれませんが。  けれども由美子さんの顔は益々翳りを見せました。 「私、皆には言えないけど正直いなくてもいいと思ってんだよね。パパに言ったら、パパもって言ってた」  由美子さんはそう言うと「ほら、ランチ会行くでしょ?私。孫の話出るんだけどさぁ、皆共働きだからやれ飲み会で預かってとか週末家族全員でご飯食べに来られてとか、美枝ちゃんなんて娘さんにママ仕事辞めなよとか言われたらしいのよ。圭ちゃん家なんて孫五人よ。今は良いけど自分達の収入がなくなった頃にお年玉やら入学祝いやら何やらって、考えただけで震えるよ」と、一息も入れずそんな事を続けたのです。  これには大ちゃんも、吹き出してしまいます。 「そんなもん?」  由美子さんには、保証のない未来を謝る息子を庇う気持ちがあるのかもしれませんが、けれど大ちゃんにも小生にも、それを確かめる事は出来ません。 「可愛いと自分の生活は別」  そう言い切る母を見る大ちゃんは、何かを言いた気に、けれども諦めて、やはり何かを言おうとして、あ、とか、うん、とか歯切れの悪い発音を繰り返すばかりでした。 「何?」  流石の由美子さんも気持ちが悪かったのか、やはり少し怒ったように、大ちゃんに詰め寄りました。 「いや。なんか。うん。そう」  完全に気圧された大ちゃんです。  そんな返事を口の端だけで笑って返して、膝に肘を立て、頬杖をついて、再び視線をテレビに向けました。  同じように由美子さんもテレビを向きます。  由美子さんは、口元を緩ませて目を細めると「そうよ」と言って大福に口をつけたのでした。

ともだちにシェアしよう!