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第2話 目が覚めたらそこは
ぐらぐら
頭が揺れてる。やめろよ、やっと眠れたんだぞ。俺が何日寝てないと思ってんだ、囚人も大変なんだぞ。
「…………、……」
うるせえなぁ、静かにしろよ。ってか死んでも罵倒されんのかよ、地獄ってキチィな。
「……っ、……き、てっ」
……ん?……なんかこの声、聞いたことあるような……、
「「……おきてー!、
リヒトにぃー!」」
「…………………………は?」
見開いた目に映る、ぴょこぴょこ跳ねる緑と金の小さな頭、翡翠の瞳。数年前まで毎日見ていた、見慣れたその姿。
「リヒトにぃが寝坊なんて珍し!どしたん?夜更かし?」
「リヒトにぃもにんげんなんだね~、二度寝気持ちいよね?わかるよ~」
目の前で交わされる気安い会話に息が止まる、目を見開いたまま、瞬きもできない。
(なんで……、そんなこと、あるわけ……)
「は~~~?お前と一緒にすんなよ。お前は二度寝しないほうが珍しいだろ」
「え~、フウラだってそんな変わんないくせに」
(だってお前らは、あの日、俺が、……)
「ライラと一緒はクツジョクだよな!?リヒトにぃ?」
「そんなことないよねぇ、似てくるもんでしょ?だって僕たち」
「兄弟だもんね」
(「俺たちは兄弟だ」)
「う」
吐き気が込み上げる、口元を手で覆い一心不乱に駆け出す。ただひたすらに足を動かして、何度も転びかけながらもつれる足を前に出す。ここがどこかなんてわからないはずだった、それでもたどり着いたその場所は浴室兼洗面室で、俺の体は数年前まで暮らしていたこの場所をしっかり記憶していたようだ。
「ッぉえ」
洗面台で何度もえずく、何も出なくて、苦しくて涙が溢れる。
(……俺が、)
目の前がチカチカする、頭に浮かぶ、あの光景。
焼け落ちたその場所には何も残っていなかった。家があったその空間を見下ろして、こんなに広かったのかと不思議な気持ちになった。皆んなで食事をした食堂、学んだ教室、花を摘んだ庭、走り回った運動場、何もかも灰になって消えた。
そして、ずっと一緒に過ごしたアイツらも……、
(俺が、殺した)
「……ぁ、あぁ……」
嗚咽が止まらない。考えないようにしていた、その事実を。愛した兄弟を殺したのだという事実を、今更実感するなんて、本当にバカみたいだ。大好きだったのに、絶対無くしたくなかったのに。
幸せにしてやりたかったのに。
「「リヒトにぃどったの?」」
後ろからかけてくる小さな足音が二つ、続いて聞こえた幼い声。
反射的にあげた顔が鏡に映る、白髪に青い瞳、見慣れた自分の色彩ではあるが、涙と鼻水と涎に塗れて真っ赤になった顔はそれを差し引いても幼く見える。
これは追憶?、神様が見せた夢か?
(もう、そんなの、なんだっていい)
振り向いて、二人の柔らかく温かい体をギュッと抱きしめる。冷たくない、息をしている。その事実に、涙が溢れて止まらない。
「え~?え~?これってどゆこと?」
「わ、わっかんね!?でもラッキーすぎる!今後一生ないかも」
「たしかに!だきついとこ!」
「な!みんなに自慢しよ!」
(お前らが生きているなら、それだけでいい)
気が抜ける会話をよそに、俺はわんわん泣いてえずいては吐いて、結果洗面所の床は大惨事になった。
「リヒトにぃ~、なんで泣いてたの~?」
「………………なんでもねぇよ、忘れろって言ったろ」
「忘れらんねぇよな、ライラ!リヒトにぃが泣くなんて、天地がひっくり返ったかと思ったわ!」
「………………うっせぇぞ、フウラ」
今俺は自分が燃やした家で、殺したはずの兄弟と朝飯を食っている。意味がわかんないよな、俺もだ。
はじめは何かの間違いで天国にいけて(殺人犯が天国に行けるはずないだろという指摘は一旦置いといて)幸せな夢でも見てるのかと思ったが、どうやらこれは現実らしい。感覚も思考も生前と変わらず、体だけ子供に戻ったようだ。身長からして12才くらいか?でも周りも同じように遡っているから俺だけが若返ったのではなく、過去に戻って俺だけ未来(前世?)の記憶があるという方が正しい気がする。そんな都合のいいことがあるのかと、いまだに半信半疑、自問自答しているが。
ただもしこれが、神様がくれた人生をやり直すためのチャンスなのだとしたら、俺はもう絶対に間違えない。
――あんな最低な未来は、死んでもごめんだ。
あの衝撃の目覚めから数時間、朝食が並べられた広いテーブルに6人の子供が並んで座っている。
俺の向かいの席、水色の髪に薄い紫の瞳、女子と見間違うような美しい少年が俺を見て口を開く。
「本当にびっくりしたよ、泣き声が聞こえてチリが転んだのかと思ったらリヒトが大泣きしてるんだもん。どこか体が悪いんじゃないよね?」
「スイ、心配かけたな。大丈夫だよ」
スイは俺の2つ下、真面目で穏やかで、優しくてしかも美人。水属性の魔術が得意で特に治癒魔術がうまい。
視界の端、ずいっと斜め前から食べかけのチョコレートバーが差し出された。
「おなか空いてたんだよね?ぼくのお菓子食べる?」
汚れた手でチョコレートバーを差し出し、歯抜け顔でにっこり笑う茶色頭。
「チリ……お前、口の端にチョコついてんぞ」
「んむ?」
ナフキンで口の端を拭ってやる。チリは、兄弟で最年少、甘いものが大好きでいつも何か食ってる。土属性の魔術が得意で、落とし穴を作って兄を落としてはキレられている。
「はははっ!お前と一緒にすんなってよ!」
チリの隣、赤い髪の大きい体躯の男が立ち上がりテーブル越しに俺の頭をかき混ぜる。
「ってかリヒトもなんか悩み事があんなら言えよ~!お前溜め込みそうだからなー!」
「ちょ、やめろ!エンヤ!頭ぐしゃぐしゃになんだろ!」
唯一俺の年上、炎属性の魔術が得意で中身も無駄に熱くてむさ苦しいエンヤ。声も体も動作もでかい男だ。
「「エンヤにぃずるい!俺(僕)にもやって!」」
そして俺の両脇に陣取る双子、目覚めた時にいたのもこの二人。雷属性魔術が得意なライラと、風属性魔術が得意なフウラ。こいつらは二人揃っていつも騒がしい。
みんなで揃ってテーブルについて、和気藹々と朝食を食べる。こんな何気ない生活の一場面でも、いまだに気を抜くと涙が出そうになる。
そう、俺たちはずっとこうやってこの家で過ごした。
生まれた場所が違っても、血が繋がっていなくても、年齢がバラバラでも、それでも俺たちは兄弟だった。
俺の兄弟は6人、
チャラくて楽観的なフウラ、
ゆるくてのんびり屋、フウラと双子のライラ
大人しく優しい、穏やかなスイ
幼くやんちゃでいたずらっ子、末っ子のチリ
粗雑で豪快、頼りがいのある最年長、エンヤ
そして数年後、俺が15になる歳に弟がもう一人増える。
クロノス・シュバルツ
俺が殺さなかった唯一の弟、
――――そして未来で俺を殺す男の名だ。
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