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第4話 俺たちのリーダー(エンヤ視点)
リヒト・ブランシュ。それは俺たち兄弟のリーダーの名前。一応年長は俺なんだけど、俺たち兄弟はリヒト中心に回っている。だからリーダーはリヒト。
そんな俺らのリーダーが、またなんか面白いことを始めたようだ。
実験でヘマをして脚に傷を負った俺は、歩けるようになるまでしばらく自室で療養していた。俺たちネオチルドレンは(完全に名前負けしててウケる)体が激弱で、怪我をするとすぐ熱を出して悪化するから結構長いこと療養が必要になる。スイがすぐに血を止めてくれたけど傷はなかなか塞がらず、結局10日近く休むことになっちまった。
そして久しぶりに登校した俺は、希望の家の教室で驚くべき光景を見た。
「はははっ!おい、あれなんだよ?」
リヒトがキンドと向かい合ってる。いや、それだけじゃない、会話しているように見える。
「どうなってんだぁ?」
「……治癒魔術を教わってるんだって」
隣の席に座っていたスイが、複雑な表情で告げる。
「は~、なるほどねぇ。だからチリがこんななってんのか」
スイの膝の上、またがるように抱きついて肩口に顔を埋めている。完全に僕拗ねてますのポーズだ。ってかうらやましいな、このガキ。
「まぁ、気持ちは……、わからなくはないよね」
チリの頭を撫でながら、スイが小さくこぼす。
「まぁな」
キンドはネオチルドレン計画の責任者、この施設のボスだ。細々としたことは部下がやっているから表に出て来ることはあまりないが、時折戦わされている俺たちをガラス越しに観察していることがある。あの失敗作を見るような、実験動物を眺めるような無機質な視線、目が合うとはらわたが煮え繰り返るような心地になる。
つまり全ての元凶であり、個人としても大嫌い。他の奴らの心境も大体似たようなもんだろう。
特にリヒトはキンドを心底憎んでいた。
それぞれに事情はあるが、俺たち兄弟は皆親族に捨てられたか売られた子どもだった。だがリヒトだけは唯一、誘拐され無理やり親元から離されたらしい。全てを奪ったキンドはリヒトにとって許しがたい相手で、殺したいほど憎んでいる相手のはずだった。
半径5メートル以内には近づかないし、向こうから近づいてくる時はあからさまに距離を取る。ガラス越しに観察されている時は常に殺気が漏れ出ていて、強化ガラスをぶち破る勢いで魔術を炸裂させていた。
(それなのに、なんで今更……?)
「………………俺たちの、ためか?」
無意識のつぶやきに、スイがゆっくりうなづいた。
「信じろって、全部俺たちのためにすることだからって、そう言ってた」
「はっ!俺たちって、…………どうせ自分は入ってないんだろ」
リヒトはいつもそうだった。俺が実験中に死にそうになった時も、研究員に乱暴された時も、熱で意識が朦朧としてアイツに酷い言葉を投げかけた時も。いつも俺たちのためだって言って、自分を差し出すんだ。アイツの俺たちに自分は入ってなくて、兄弟のためでしかないことにアイツは気づいてないんだろう。
そんなんだから、
「心配に、なるんだろうが」
「ふふ、本当に、そうだね」
スイの言葉にチリが顔を起こした。
「………………キンドきらい」
「おーおーおー、そうだろうよ。俺も大っ嫌いだ」
「僕もだよ」
それでも俺たちは皆リヒトを信じているから、自分より兄弟のことを優先する大馬鹿者だってわかっているから、じっと黙って見守るんだ。
「お、帰ってきた」
リヒトがキンドと別れ、俺たちの席に向かってくる。
「エンヤ!もう出てきていいのか!」
「おう、熱下がったからな」
キンドと話していた時の無表情はどこへやら、気安い表情で手をあげる弟に自然と笑みが溢れる。俺たちはブラコンだけど、お前だって相当だよな?
「そうだ!足見せてみろよ」
「いいけど、まだ完全に治ってねぇし汚ねぇぞ」
「いいからいいから」
右脚のズボンの裾を捲り上げる。包帯を解くと皮膚と筋肉が裂け、赤く腫れぼったくなっている傷があらわになる。血は出ていないが、炎症を起こした傷はなかなか治癒しない。泣きそうなチリと苦しそうなスイの視線に、やめときゃよかったかと後悔した時。
「えーと、確か、……」
リヒトがぶつぶつ何かを呟きながら俺の傷に手をかざす。
「こうして、…んで、魔力を込めて、こうだ!」
ホワッ
リヒトの手のひらから光が溢れる。その光は温かく、じんわりとした何かが傷に染みていくような、そんな不思議な感覚があった。傷を見ると赤みと腫れが収まり、開いた傷が寄りうっすらとした皮膚が張られたように見える。
「やった!成功!」
満面の笑みでこっちを見るリヒト、俺とスイ、チリは呆然と塞がった傷を眺めていた。
(こいつは本当に、予想もつかないことをやってのける)
「……は、はは、はははっ!」
「わ!」
リヒトの肩に腕を回し、頭をガシガシかき混ぜてやる。
「ちょ、やめろ、馬鹿力!」
お前はやっぱり俺たちとは違う。全属性の魔術適性があって、枯渇しない魔力量があって、それでいて体も弱くない。お前一人ならきっと、この地獄だって抜け出せるのに。でもお前はそんなこと考えもしないんだろう。
柔らかい頭を撫でながら、目頭がジンと熱くなるのを感じる。
俺たちはきっと短命だ。食っても育たない体、年々強くなる倦怠感、生命力みたいなものが日々目減りしていくのを感じる。
いつかきっと、俺たちの存在がこいつにとって明確な足枷になる時がくるだろう。それでもこいつはきっと、俺たちを見捨てない。見捨てられない。
だから考えておこう。
「さすが、俺の弟!天才魔術師様!」
こいつが俺たちを捨てて、自分の生を生きられる方法を。自分の幸せを、求められる方法を。
だって、俺はお前の、唯一の兄だからな。
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