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第5話 キンドという男

  (あ~~~殺してぇなぁ~~~)  目の前の男を眺めながら、漠然と思う。こいつがいなければ俺が両親から引き離されることも、こんな場所で殺し合いさせられることも、兄弟が辛い思いすることもなかったんだろうなぁ、と。 (やっぱり、殺そうかなぁ)   「……聞いていますか?」  あ、まずい。つい煩悩が。 「聞いて、ますよ」  終業後の教室、残っているのは俺とキンド、キンドの側近のシムという男の3人だけだ。キンドに治癒魔術を習うようになってもうすぐ一年、初めは心配そうに教室に残っていた兄弟も、今はじゃぁあとでな~とサクッと帰宅する。みんなキンドのことが嫌いだから一緒の空間に居たく無いのだ、気持ちはわかるけどなんとなく見捨てられた気持ちになる、薄情者め。 「では、治癒魔術の種類について、説明してみなさい」  めんどくせぇなぁ、殺してぇなぁと思いながらも、教えてもらえなくなるのは困るので真面目に答える。   「水魔術の治癒は対象者のもつ回復力の増進、治癒過程の促進」 「もう一つは」 「無属性の治癒、自身の魔力を分け与えることで生命力の底上げ、魔力による欠損部位の補完」 「はい、正解です」  なんで俺はこんな今更な話をさせられてるんだ? 「では一番効率的な治癒方法は」 「魔力を分け与え生命力を補完した状態で水属性の治癒で回復力を促進する」 「はい、それも正解です」  キンドが笑う。胡散臭い笑みに反射的に眉を顰める俺をみて、シムが眉を顰める。この連鎖もこの一年で何度繰り返したことか。    シムはキンドの心棒者だ、幼少期に命を救われたとかなんとか。(聞いたけど忘れた)俺のような実験体のガキが神と崇めるキンドと会話するだけで発狂する程嫌だろうに、そのガキの態度が最悪ときた。よく我慢してるなぁと他人事のように思う。  この一年で、かなり治癒魔術は上達した。それこそ多少の欠損なら復元できるくらいに。魔力量を鑑みるとおそらく全盛期のキンドよりも瞬間火力はあると思う。  死に戻る前の俺は、攻撃魔術を伸ばすことだけを考えていた。いつかこの研究所から脱出しようと兄弟と誓いあって、その時がくるのを腕を磨いてずっと待っていた。  でも、その時が訪れた時にはもう、俺の兄弟は誰一人脱出できる状態ではなかったのだ。    今思えば、アイツらの衰弱は生命力の枯渇だったのだろう。魔力の器に生命力が奪われ、体の全ての機能がゆっくり衰えていく。どんな薬をつかっても、治癒魔術で回復を促しても、生命力がなければどうにもならない。ベッドから起き上がれなくなった兄弟は、キンドの治療でのみ命を繋ぐことができた。それが意識のない、物言わぬ抜け殻だったとしても。  兄弟を救うための唯一の方法が、世界で一番嫌いな男に教えを乞うことだなんて、神様は俺のことが嫌いすぎると思う。   「最近、君の兄弟たちは調子がいいみたいだね」 「あぁ」 「治療がよくきいているようだ」  無属性の治癒魔術を使えるようになってから、毎日兄弟に魔力を分けている。みんな徐々に元気に過ごせる日が増えて、やつれていた体に生気が戻ってきている。 「……逆に君には、治療が必要かな?」  キンドの手が頬に触れる。  嫌悪感に無意識に湧き上がる爆発的な殺意、瞬間膨張した魔力がパチンと弾けて霧散した。 「ガキ、……死にたいのか」  背後から伸びたシムの手には小ぶりのナイフが握られており、俺の頸動脈スレスレに当てられている。 「シム、やめなさい。リヒト、僕は心配なだけだよ。魔力を与えすぎて自分が死んでしまったら意味がないからね」  背後からそっとシムが離れる気配がする。 (やべ、下手打った……)  この研究所周辺には結界が貼られており、結界が解除されている場所(研究所内の戦闘ルーム、運動場など)以外は攻撃魔法が使用できない。わかっていたのに無意識にやってしまった。  これまで従順とはいかないが、反抗しないように必死で堪えてきたのに、アイツの不用意な接触で嫌悪感が爆発してしまった。ってか急に触るんじゃねぇよ、死にてぇのか。   「……っ!キンド様!やはりこんな反抗的なガキ!殺してしまいましょう!いつかキンド様に牙をむくに違いありません!」  シムが我慢の限界を迎えたように叫ぶ。  (よくわかったな、シム。お前らちゃんと前世(?)で俺に殺されてるぞ)  俺の心の声が聞こえたのか、シムが俺を睨む。お?やるか? 「シム、下がりなさい」  キンドがため息をつく。 「でも!キンド様!」 「………………下がれ」 「!」  部屋の室温が下がったと錯覚する程、冷たい声だった。さっきまでの貼り付けたような薄い笑みや声色は、全て偽物だったということだろう。氷のように鋭い視線に、シムは彫刻のように固まった。 「リヒト」 「……なんだ」  ジリジリと肌を焼く不快感、気持ちわりぃ。 「こんなくだらない研究を続けるのも、失敗作の子供を生かしているのも、お前に治癒魔術を教えたのも、すべて俺の悲願のためだ」  この男の悲願、それはとても荒唐無稽で、夢物語のように儚い。   「お前はわかっているのだろう?」  その声は怨念のように暗く、重い。まるで体にまとわりつくようで、気味が悪い。  向き直った男が、まっすぐ俺をみて貼り付けた笑みで微笑んだ。 「君は僕の最高傑作だ。早く僕の願いを、叶えておくれ」     「はっ、はっ」  足早に教室から離れる。  (本当に気持ちが悪い男だ)  まだ肌がゾワゾワする、……あの男は狂ってる。    キンドにとって被験体も信者も、もっと言えば自分自身のことだってどうでもいいのだ。  初めからあの男の目的はただ一つ、    (死んだ人間を生き返らせることなんて、できるわけないのに)    

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