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第10話 新季祭

   この国には3つの季節がある。涼しくて過ごしやすい空の季節、暑くて日が長い太陽の季節、肌寒くて日が短い月の季節。 3つの季節が巡ると初めの季節に戻りそれを繰り返す。  月の季節が終わり空の季節が始まる最初の日、新しい季節の始まりを祝う「新季祭」というお祭りがある。  街には多くの露店があふれ、街道には食べ物や花、宝石など目移りするような品々が並ぶそうだ。夜には灰の塔の魔術師による光のアートが夜空を埋め尽くし、多くの国民が熱狂する。  そしてこの夜に告白し結ばれたカップルは一生幸せになれるというジンクスがあり、光のアートが輝く空の下、地上ではプロポーズをする男女が溢れかえるらしい(エンヤが言っていた)    俺達は希望の家から出られないので、新季祭の盛り上がりを直接見たことはない。多少昼飯が豪華になって、ちょっと珍しいデザートが出るくらい。俺たちにとっては、「あ、なんかデザート豪華じゃね?」「もしかして今日新季祭?」くらいのもんだ。  だが昨日、俺たちの末っ子がこう呟いた。 「新季祭、行きたかったなぁ…」  ピシャーン!俺の脳内を表現するならそんな感じ、頭上に雷が落ちた。  クロノスは去年まで街で普通に暮らしていたから、毎年行っていたのだろう。  俺たちにとってはなんでもない日でも、クロノスにとっては楽しい思い出のある祭りなんだろう。ここに閉じ込められたせいで楽しめないなんて。  寂しそうなその声に、兄達は奮起した。   「というわけで新季祭運営会議を始めます」 「うぉ~~~~!」 「俺たちの末っ子ににぃちゃんのすごさ見せてやろうぜー!」  というわけでノリノリの兄弟達である。なんやかんや遅れてやってきた末っ子にみんな甘い。俺も含めて。   「僕は美味しいお菓子でも作ろうかな、この前行商に来た人に教えてもらったから」 「俺は光の魔術の方か、炎でなんとかなんのか?リヒトとフウライと研究しねーとかな」 「クロノスが寂しいとかどうだっていいけど、みんなに付き合ってあげてもいいよ」  新季祭といえば、食べ歩き甘味、記念の土産、光の魔術らしい。(唯一行ったことのあるエンヤ談)  甘味はスイが、土産品はチリが、双子と俺、エンヤで光魔術を担当することになった。  クロノスはいつも俺の後をついてくるから秘密にするのが難しかったが、なんとかクロノスが寝た頃に集合しこそこそ準備を続けた。  光魔術は目立つので実験室に忍び込んで、いろんな魔術を組み合わせて試した。  そうして日が経ち、新季祭の朝を迎えた。   「クロノス、おはよ」 「…………………………リヒト?」    クロノスは寂しがりだから、毎日手を引いて俺を自分のベッドに連れ込む。希望の家にきた日からほぼ毎日続く日課だ。  いつもは眠ったのを確認して自室に戻るので朝まで一緒にいることはないが、今日俺には会場の準備が整うまでクロノスの時間稼ぎをするという使命があったので、そのまま朝まで一緒に寝ていた。  俺が朝まで残っていたことに驚いた顔をしたクロノスは、その次の瞬間溶けるような満面の笑みを浮かべた。 「…………うれし、……おはよぉ?」   (うっ…………………………)  輝く笑顔に脳が焼かれる、え?俺の弟可愛すぎ??? 「リヒト一緒に寝てくれたの?」 「そうだよ、たまにはいいだろ。そいやぁ、季節巡ったぞ、おめでとう」 「ありがとう、リヒトもおめでとう」  寝癖のついた頭で胸元に擦り寄ってくる小さな塊、ほかほかしてあたたかい。  日々魔術を鍛えるためにかなり厳しめに扱いているにも関わらず、クロノスから負の感情を感じたことがない。何をどうしたらこんな素直でいい子に育つのか。 「そろそろ起きるか?支度しよう」 「リヒト部屋帰る?」 「いや、ここでクロノスと支度しようかな」 「!!そうなの!俺案内する!」  案内するも何も俺の部屋と間取りは同じなんだが、可愛いし時間も稼げるのでそのまま案内を受ける。 「ここで顔洗って、歯を磨く!」 「へー、偉いじゃん」 「!!」  俺ちゃんといい子にしてるよ、歯磨きだって忘れてないいよアピール、あまりに明け透けでバ可愛い。 「服だって着れる!靴下も履ける!」    やることなすこと全てアピールし出した弟の頭を撫でながらその手を止める。   「今日は特別な日だからな、ちょっといい服を着よう」 「いいふく?」  少し前に行商人が希望の家に来た時に見た、袖がついた布を体に巻き付けて腰の辺りを帯で結ぶ異国の服。特別な日に着るのだと行商人が話しているのを聞いて覚えていた俺は、スイに手伝ってもらって全員分を仕立てた。(布は俺たちに支給されてる服を集めて再利用した) 「うん、いいね。よく似合う」 「リヒトもね!黒すっごく似合ってる!すっごく美人だ!」  (うん、いい感じ)  俺の見立て通り、深い藍色の着物はクロノスの赤目が映えてよく似合う。  寝癖まみれのクロノスの頭を直してやると、いい時間になる。 「そろそろ行くか」 「今日は訓練ないの?」 「ないよ、祭りだからね、お休み」 「そっかー」 「残念?」 「うん、ちょっとだけね。訓練大変だけど、にいちゃん達みたいにかっこよく魔術使えるようになりたいもん」 「すぐになれるよ」  可愛い弟の言葉に、自然と笑みが溢れる。    話しながら歩き、食堂に着く。扉開けたそのとき、 「「「「「おめでとう~~~~」」」」」  大きい音と光が目の前で弾けた。    目をまんまるにしてフリーズするクロノスにチリが声をかける。 「おい、おめでとうが聞こえねぇぞ」 「え?え?おめでとう?」  全員色とりどりの着物を着ている。作った甲斐があった、みんなよく似合う。 「今日は新季祭でしょ?僕たちもお祭りしたいなって、みんなで準備したんだよ」 「俺たち新季祭初めてーーー!」 「楽しみ~~~~!」 「にぃちゃん達に任せなさい!」  盛り上がる兄弟たち。 「俺、……何にも、知らなかった」 「弟にいいところ見せようと思って、俺たちが勝手にやる気出しただけだ。お前はただ楽しんでくれればいい」  そう言って頭を撫でてやると、戸惑うクロノスに笑顔が戻り、 「めっちゃ楽しみだ!」  そう言って笑った。         スイは異国の料理と菓子を振る舞ってくれた。スイは美人でかつ人当たりがよく親切なので、希望の家内外に多くのファンがいる。交流の中で得た知識と食料をフル活用し作成された料理は、今まで食べた料理の中で一番美味しかった。(エンヤは食いながら泣いてた)  チリは12分の1スケール俺人形なるものを作成しクロノスに渡していた。精巧すぎてえ、キモくね?と思った俺を横目にクロノスは涙を流して見たことがないくらい興奮していた。変なことに使ったら殺すとチリに諭されていたが、変なことってなんだ?まぁ四肢とかもがれたら嫌な気分にはなるか。  そして夜、ライラの雷とフウラとエンヤの風・炎のコラボレーションによって美しい光のアートが希望の家の空を覆い尽くた。 「すげぇ」  クロノスは上空を見上げて、一言つぶやいた。 「こんなん、……一生忘れらんないよ」  そうして笑った顔は輝く夜空と同じくらい綺麗だった。    (俺も、一生忘れないよ)  スイ、チリ、エンヤ、フウラ、ライラ、……そしてクロノス。  みんなで見上げたこの美しい夜空を、俺はきっと生涯忘れないだろう。  一度は全てをこの手で壊した俺が、誰よりも罪深い犯罪者の俺が、こんな素晴らしい景色を目にできる日が来るなんて。  きっといつかバチが当たる。でも、それでもいい。  この幸福の記憶は一生俺のものだ。   「リヒト」 「うん?どうした」  空を見上げていたクロノスが、いつの間にかこちらを見ている。いつもと違う真剣な顔、まだ空には眩い光が舞っている。 「俺、ずっと落ちこぼれだったんだ。親にも先生にもいつも呆れた顔されて、真剣に頑張ることもバカみたいって思うようになって」 「……」 「授業サボって街でフラフラして、新季祭だって家を抜け出した先でたまたまやってて、楽しそうだなぁって離れたところで見てた」 「……そうか」  クロノスは親と友達と、新季祭を楽しんだ思い出があるから行きたいんだと思ってたけど、違ったのか。 「そこにいる人たちはすごい楽しそうだったから、みんなで行けたらもっと楽しいんだろうなってそう思ったんだ。でも行かなくたってすっごく楽しい!やっぱりにぃちゃん達は最高だ!」  クロノスの目尻に溜まった涙が、夜空の光に反射してキラキラ光る。 (綺麗だ)  涙をそっと拭って、クロノスの頬を撫でる。  お前がいつかここで過ごした日々を思い返すとき、少しでも楽しかったとそう思ってもらえたら、それだけで俺は幸福だよ。     「…………あの、さ」  幸せそうに笑っていたクロノスが、口をつぐんで視線を逸らす。…………なんだか頬が赤いようにも見える。 (光の反射か?) 「リヒト……」 「ん?」 「あの……な、俺、まだ子供だけど」 「うん」 「俺が、その、もっと大きくなったら……」 「?」 「俺とけっ、」 「クロノスーーーーーー!」 「ぶっ」  飛んできたチリがクロノスに激突する。フウラが背後でニヤニヤしている、こいつ風魔法でチリぶっ飛ばしたのか?   「よかったよな、俺たちの新季祭!」 「……………………よかったよ、よかったけど!!!」 「え~けどなにぃ~~~???」 「お前!わかっててやったろ!フウラも!悪魔かよ、お前ら!」 「いや~、別に!ただの偶然だけど!ってか俺らを差し置いて、そういうことすんのはどうかなって思うけどね、俺はね??」 「すっごいネチネチしてる!この人たち性格わる!」 「いや、俺も早いと思うぞ!ってか兄の見せ場をとったお前の罪は重い、償え!」 「いった!筋肉圧やば!ってか自分が勇気ないだけだろ!俺のせいにすんなよ!」 「このガキ、死にたいようだな!」 「ちょっと、エンヤ、チリ!何やってるの!?」  気づけば全員集合、夜空も光の余韻が残るのみ。  俺たちの初めての新季祭は終わった。  (光る夜空の下で、プロポーズすると幸せになれる、だっけ?)  (まさかな?)          

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