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第11話 作戦会議
「第一回希望の家脱出計画、作戦会議を始めまーす」
「「「「「イェーーーーーイ」」」」」
「え!?なに!?なに!?」
俺の膝でゴロゴロしていたクロノスが飛び上がる。ほんとコイツ動物っぽくておもろい。
今日は太陽の月、1日目。クロノスの10歳の誕生日まであと7日だ。
この2年。クロノスは俺たち兄弟の熱い指導のもと、風、水、土、自身の得意属性の高位魔術をすべてマスターした。
元々素材はピカイチだったクロノスは、やる気になった途端メキメキと魔術の腕を上げていった。通常10才未満の子供は魔力操作が安定しないものだが、クロノスにはあまり関係ないようだ。というかこの年でこの魔力操作の精度、大人になるのが末恐ろしいとも言える。
強くなるのが楽しくて仕方ないんだろう、クロノスは何度けちょんけちょんにしてもニコニコ満面の笑みで戻ってくる。なんでも貪欲に吸収しようとするクロノスに魔術を教えるのは、予想以上に楽しい時間だった。
死に戻る前、クロノスと過ごした期間は半年だった。その時のクロノスはもう少し甘えたで自信がなさげで、俺たちに依存しているような印象だった。
だが今のクロノスは自信に満ちて精神的にも自立している。なぜか俺にだけは主人が大好きな飼い犬みたいにベッタリ可愛こぶりっ子してくるが、他の兄弟とは友達のように対等ないい関係を築けているように思える。
一時は兄離れさせようとしたこともあったが、濡れた子犬みたいにべしょべしょな顔でじっとこっちを見るから早々に俺が降参した。しょうがねぇだろ、自分だけになつく犬ってのは、どうしようもなく可愛いもんだ。
そうして早いものでもう2年が経ち、ついに脱出予定日まで1週間をきった。作戦会議と銘打っているが、クロノス以外の兄弟はみんな内容も詳細も知っている。
今日はクロノスとの、少し早いお別れ会だ。
クロノス以外の全員、俺たちはみんな帰る家がない。行方不明か死亡扱いか、どう処理されているかはわからないが、存在しない人間として社会では扱われるだろう。何よりここを逃げ出したらキンドに追われるのは必然、見つからないよう逃げ隠れてひっそり生きることになる。
エンヤ以外の兄弟はまだ治癒魔術による生命力の受け渡しが必要だし、森の奥にチリに小さい家でも建ててもらって結界でも張ってこっそり生活しようと思っている。自給自足でも俺たちなら問題なく生きていけるだろう。そしていつかみんな健康体になって、自分がしたいことを見つけて巣立っていったその時、やっと俺の2度目の人生は終わるのだ。
俺たちと違って、クロノスには帰る家がある。守ってくれる家族がいるし、今は自分を守れる強さもある。魔力暴走を起こしていないから治療の必要もない。
だからここを出て、クロノスの両親の無事を確認して家まで送り届けたら、……クロノスとはお別れだ。
日陰を生きる俺たちと関わるべきじゃない。それにこの希望の家ではみんなが対等だったけど、ここを出たら上位貴族と社会に存在すらしない人間、とてもじゃないけど釣り合わない。
だからこの別れは必然で、クロノスと再会して家に帰すと決めた時すでに決まっていた結末だった。
(わかってたことだから、冷静に話せるってそう思ってたのに。情をかけすぎたかな……)
クロノスは甘えん坊だったから、寝る時も飯を食う時も、授業を受ける時も特訓する時も、いつも俺のそばにいた。
言葉も態度も惜しまないクロノスは抱えきれないほど多くの愛を俺にくれたから、この愛を手放さなきゃいけないって考えるとすごく寂しい。
でもお前の幸せな未来に、俺は必要ないから。
俺はここで退場だ。
「6日後、7日の深夜に俺達は礼拝堂の地下にある結界を破壊してこの希望の家を出る」
「っ!帰れるのか!うちに!」
「そうだよ、いっぱい待たせて我慢させたな」
クロノスが頬を赤くして興奮している。本当に長く待たせちまったな。
「別にっ!家なんてどうでもいいけど!父さんも母さんも心配してると思うし!俺がこんなすごい魔術を使えるなんて知ったら、多分大喜びすると思うし!」
「そうだな、きっと自慢の息子だよ」
嬉しそうに喋るクロノスの頭を撫でてやる。
「ふふん!リヒト達も俺の家に招待してやってもいいぞ!俺んち無駄に広いから、泊まってったっていい!………………リヒトは一生住んでもいいけど」
「おーーーい、ガキ。本音漏れてんぞー」
「話進まなくなるから喧嘩すんなよ、チリ~」
「というわけで、みなのもの!心の準備をしておくように!」
「「「「「「はーい!」」」」」」
そうして会議はあっさり終了した。
そして、ここからが本番だ。
「クロノス、やるよ」
「…………これはっ!」
チリが手渡したのはいつぞや見たような精巧に作られた人形、目と髪の色からしてこれはクロノスか?……自分のはキモかったけどクロノス人形はちょっと可愛いな。
「お前が欲しがってた、12分の1スケールクロノス人形だ。感謝しろよ」
「うぉ~~~!神様仏様チリ様~~~~!これで並べて鑑賞できる!」
「変な妄想したら殺すぞ」
「へへっそれはどうかな」
「返せ!」
「やだねー!」
戯れ合う弟たち、でもこれで終わりじゃないぞ。
「俺からもプレゼントだ」
「え?エンヤにぃ?」
「俺の生まれたところで流行ってたお守り」
「…………………………呪いの人形?」
「ちっげーーよ!可愛い耳と尻尾だろ!」
「え?これ動物なの?」
不思議な顔をしてエンヤからもらった人形を観察するクロノス。
「僕からはこれ、あんまり量は作れなかったんだけど、日持ちするはずだよ」
「え!何これ!甘い匂いする!!」
「蜜を固めたお菓子なんだ。甘くて美味しいよ」
「ありがとう!スイ!」
女神のように微笑むスイ、さすがプレゼントのセンスもピカイチだ。
「俺たちからはこれ!」
「大切に使ってね~~~」
「これは…………なんだ?」
「宝の地図だよ!俺たちがここに来る前に作ったの!」
「え?何それ?何があるの?」
「それは見つけてからのお楽しみだ!」
「ね~~~!」
フウラ・ライラの家は結構な貴族だったはず、どんな宝が埋まっているか正直予想つかねぇな。
さて、それじゃぁ最後は俺だ。
「みんなみたいにシャレたもんは思いつかなかったから、俺の思いつく一番役立ちそうなものにした」
「え!?リヒトもくれんの!?!?」
「当たり前だろ、でもあんまハードル上げんなよ」
最後にこいつに贈るなら何がいいだろうと、頭が痛くなるくらい考えた。考えて考えて、何か残るものがいいなとそう思った。
俺のことを忘れずにいてくれるかな、って。
離れると決めたのは俺なのに、未練がましくてバカみたいだ。
「俺が今まで再現したり、考えた魔術の一覧、とその取説」
「「「「「「ファ!?!?!?」」」」」」
6人の美しいハモリを俺は聞いた。
「えーーーー何それ何それ!!!」
「僕も欲しいよ~~~!」
「なんつう恐ろしい書物作成してんだお前は!?」
「伝説の書じゃないそれ?」
「う~ん、禁書かもです」
一斉の非難にたじろぎながら、なんとか反論する。
「そこまでいうことないだろ!ぶっちゃけほとんどは並の魔術師じゃ再現できねぇよ。でもクロノスなら大人になったらできるんじゃね?」
「俺!頑張る!」
「おー頑張れよ」
「でもリヒトもこれないと困るんじゃないのか?もし忘れちゃったりしたら…」
「俺、一回覚えたこと忘れないから」
「え?でも、時間が経ったら」
「忘れないよ、子供の頃からそうなんだ。一度見たものは絶対に忘れない、いつでも完璧に思い出せる、これ俺の特技」
「……………………」
「いや、気持ちわかるぞ」
「リヒトはまじチートだから」
「……ありがたく、いただきます」
一瞬変な空気になったが、
プレゼントを腕いっぱいに抱えて幸せそうなクロノス、
「こんな改まってプレゼントなんて、一生の別れみたいじゃん!めっちゃ嬉しいけどさ!」
クロノスの言葉に一瞬ドキッとするが、すぐに取り繕って言葉を返した。
「希望の家に住んでいた時ほどは会えないだろ。お互いの生活だってあるだろうし」
「それもそっか、ってかリヒト達の家はどこにあるんだ?」
「………また、会いに行った時に教えるよ」
薄っぺらい言葉で、嘘を重ねてやり過ごす。
頬にスイの視線を感じる。
スイは本当のことの言った方がいいと最後まで言っていた。騙し討ちのように置いていくんじゃなくて、ちゃんと説明した方がいいと。
(でもそれじゃぁ、きっと離れ難くなるよ)
クロノスが土壇場で拒否するようなら計画が狂うし、まずこの計画を了承しない可能性だってある。
(いや、クロノスは家に帰りたがってるんだから、それはただの言い訳か)
離れたくないとそう言われたら、俺の決意が鈍ってしまう。
俺たちと一緒にいることはこいつのためにならない。そう分かっていても、どうしても感情が邪魔をする。
一緒にいようと、泣いてしまいそうになる。
だから俺は、黙ってクロノスを置いていく。
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