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第12話 作戦決行の日

 作戦決行日、深夜23時。みなが寝静まった希望の家、礼拝堂に俺たちはいた。 「よっと」  女神像の裏、床の石畳をずらして地下への階段への道を開ける。 「こんなんなってんのかよ」 「毎日お祈りさせられてたのに、全然気づかなかった!」 「よく見つけたね、リヒト」 「まぁな」  (実際見つけたのは死に戻る前の俺だけどな)  あの時は死にもの狂いだったから、体も使ったし拷問だってした。なんでもありだったから見つけられたとも言う。 「階段天井低いから、気をつけろよ」 「っぃて」 「エンヤ……、ほら見せて」 「わざとか?」 「わざとなのか?」 「んなわけねーだろ!」 「静かにな~」  相変わらず緊張感のかけらもない兄弟たち、笑いながら階段を下る。    (前回なんて、死にそうな気持ちで降りたってのに、変な感じだ)    降った先は記憶通り、いや記憶より少し簡素な鏡と魔法陣があった。死に戻る前はクロノスの脱出の時に一度結界を壊してるから、結界が厳重になっていた。今の結界はかなり簡易的、壊すのも簡単だ。  鏡に小刀を振り下ろし鏡面を割ると、魔法陣が消える。  人差し指に、炎を纏わせる。くるっと回してかき消す。 「問題ねぇな」 「うん、僕たちも」 「やっとか」  魔術が展開できることを確認して、階段を登る。  もし運命が変わらないのならば、  この先にはきっと 「出ていくんですね」  キンドがいた。   「あぁ、世話になった」  皮肉を込めて、言い放つ。   「君が僕に魔術を習いにきた時から、遅かれ早かれこの日が来ると思っていました。……が、」  キンドがクロノスを見る。 「その子は置いてってくれないですかね」 「絶対、嫌だね」 「…………はぁ、そうですか。まぁそう言うと思ってましたよ」  口では連れていくなと言いながらも、キンドには静止しようとする素振りがない。    少し前から思っていた。  こいつは、運動場で俺たちが魔術をぶっ放して訓練をしても、新季祭で空一面に魔術を放っても何も言わなかった。シムを通して止めに来るかと思ったけど、全て自由にさせていた。  こいつは初めから俺たちの脱出を止める気がなかったのだろう。   「……もう、いいのか」  つい言葉が溢れた。俺は時を戻して大切なものを救うことができた。  でもこいつは今回も失ったままなんだと思ったら、つい声に出してしまった。   「……少し、疲れてしまいました。君はいつまで経っても僕の希望を叶えてはくれないし」 「んなこと言われても」 「と言うわけで、早く行きなさい。グズグズしてるとシムが来てしまいますよ」 「……おう」  促されて横を通りすぎた、その時 「僕を殺さないんですね」  キンドが呟いた。  その言葉には不思議な響きがあった。間違いなく歓喜ではなかった、うっすら失望や落胆が見えるそんな響き。  (こいつは、ずっと死にたかったのか)      胴に穴が空いたキンドの姿が頭をよぎる。  あの時は確かに俺がこの男を殺した。それについては後悔はしていないし、こいつのことは今でも大っ嫌いだ。  でも、 「俺が兄弟を救えたのは、お前がいたからだ」 「……」 「今でも俺たちにしたことは許せないけど、一応感謝もしてる」 「……君は、お人よしですね」 「そう、だから殺してやんねぇ」 「残念だったな」  にやっと笑って見せてやる。  最低な男だけど、お前を慕ってついてきた人間が少なからずいる。お前は自分が始めた物語の幕引きを、自分でするんだ。簡単に終わらせてなんかやらねぇよ。  それに俺は今世で人殺しになるつもりはないんでね。 「いくぞ」  兄弟を引き連れて礼拝堂を出る。    そのまま、まっすぐ希望の家の敷地外に出た。 「追っ手は来てないみたいだな?」 「え?これで終わり?あっさりすぎない?」 「腰抜けだね~」 「拍子抜けな」  双子の気が抜ける会話にチリがツッコミを入れる。気持ちはわかるぞ。   「簡単すぎてなんだか不思議な感じだね」  首を傾げるスイ。 「あの態度、キンドは俺たちを追うつもりがないのか」 「…………」  エンヤの指摘はおそらく正しい。  あのキンドの様子では、この研究所が解体される日もそう遠くはないだろう。   「これで、俺、うちに帰れるのか?」  呆然と呟くクロノス。  そう、まだ終わったわけじゃない。 「あぁ、もうちょっとな。けどお前んちわかんないから途中から案内よろしくな」 「っ!うん!!」  死に戻る前の今日、クロノスの両親は殺された。生きている両親にクロノスを預けて初めて、この作戦は成功したと言える。    でも、一旦はそれは置いといて    振り返って兄弟を見る。 「俺たち、脱出おめでとう!」  みんな笑ってる。  前回のエンディングは、俺一人だった。  全てを燃やした俺の手には、何も残っていなかったのに。  今は全てがここにある。  あぁ、本当に夢みたいだ。   「それから、」  クロノスの顔をじっと見て、 「10才の誕生日おめでとう」 「っ!」  驚いたクロノスの顔が、途端に笑顔に変わる。 「ありがとう!」    あぁ、今日はなんて幸せな夜だ。  

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