15 / 30
第15話 巣立ち
「じゃぁねえ~~~~~~~!」
「あぁ、げんきでな」
手を振り去っていくチリを見送る。
あれから3年の月日が経ち、俺は20才になっていた。
「さてと、これから何をしようか」
兄弟はみな巣立ち、俺は2度目の人生で目指した終着点へと辿り着いた。
「寂しく、なっちゃったなぁ」
希望の家を脱出しクロノスを家に送り届けた後、俺たちは研究所から遠く離れた森の中で暮らし始めた。今は使われていない朽ちた教会を修繕し、そこに住んだ。
基本は自給自足だったが、小川が近くにあり野生動物も多く生息していたため食事で困ることはなかった。どうしても必要になる生活用品は、近くの村に下りて狩った野生動物や薬草を買い取ってもらい購入した。
最初はよそ者として警戒されていたが、愛嬌たっぷりの双子とお年寄りキラーのスイによってすぐに仲良くなり、薬草を売るついでに怪我や持病の治療をするようになると一気に信頼されてぐっと暮らしやすくなった。
この森での生活は平穏そのもので、研究所からの追っ手は一人も来なかった。風の噂で希望の家が解体されたと聞いたから、同時に研究所も無くなったのだろう。計画は完全に終了したのだ。
そうして時がたち、はじめにエンヤとスイが家を出た。
スイの16才の誕生日、みんなで祝っていたその席でエンヤがスイに告白した。エンヤの片思いにはみんな気づいてたけどスイの気持ちはわからなかったから、結果が読めず兄弟全員が固唾を飲んで見守った。
緊張の瞬間だったが、どうやら二人は両思いだったらしい。全員で歓喜し、エンヤにいたっては本気で男泣きしていた。スイはエンヤが俺のことを好きだと勘違いしていて、ずっと気持ちを隠していたらしい。静かに喜びの涙を流すスイはあまりに美しくて、俺は娘を嫁に出す父親の気持ちがわかった。なんとなくムカついたのでエンヤは2発くらい殴っておいた。
そうしてめでたく結ばれた二人は、しばらくして森を出て近くの街で二人暮らしを始めた。彼らは今でも頻繁に教会に顔を出してくれる。
次にフウラとライラが家を出た。
「結構俺たち強くなったし、腕試ししてみたいんだよね」
「いろんな魔術見てみたいし~、僕たちだってまだまだ育ち盛りだからね~」
いろんな国を周って、そこの魔術を見てみたいとそう言っていた。
成人を待って家を出ると二人で決めていたのに、実際家を出る時は「みんなに会えなくなるのやだよー」「やっぱやめるー」とぐずっていた。
みんなで背中を押すと、双子は名残惜しそうに旅立っていった。
そうして最後、最年少のチリが先日成人を迎えた。
チリは「僕やりたいこととかないし、ここの家の子になろっかなー」とニートのようにだらけていたので、お尻を叩いて追い出した。
きっとチリは俺を一人残して出ていくのを躊躇っていたんだと思う。兄思いの優しい弟だ、気遣いはありがたいがここからはお前の人生、好きに生きてほしい。
家を追い出されたチリは、とりあえず騎士団にでも入ろっかなぁと笑っていた。騎士団は門戸が広く、孤児でも能力があれば働けるし出世もできる。チリならまず問題ないだろう。
兄弟全員が成人を迎え、魔力の器も安定した。彼らはもう健康な大人で、自分の人生を自由に生きていくことができる。
「はーーーー、やっとここまで来れた」
脱力して、ゆっくり椅子にもたれかかる。
クロノスに捕まって処刑された最後の日、あそこから全てが始まった。
死に戻って、キンドに魔術を習って治療して、研究所を脱出してクロノスを両親に届けて、森の中で暮らして
そして、みんな巣立っていった。
死に戻ったあの日に誓った未来に、やっと辿り着くことができた。
「さぁ、ここから何しよっかな」
一心不乱に走ってきた日々がようやく終わった。
あとは終わりに向けて、ゆっくり準備をしていくだけだ。
立ちあがろうとして、膝が抜ける。
「おっと」
礼拝堂のベンチに再びお尻をつくと、目の前の女神像と目が合った。
古い教会を修繕したこの家には、小さな礼拝堂があり美しい女神像が飾られている。家を借りている礼として毎日参拝をしていたその女神像は、今日も優しい笑顔でこちらをみていた。
その目を見つめながら、心の中で問いかける。
(なぁ神様、これはあなたの力なのか?)
なぜ俺だけ死に戻って人生をやり直すことができたのか、今もその理由はわからない。
幸運を噛み締めながらも、理解できない事象に漠然とした不安に駆られることがある。
俺がみている都合のいい夢だったらどうしようと、眠れなくなることもある。
それでも、毎日は続いていく。
(これがもし神様の慈悲なんだとしたら、ここで感謝を伝えながら暮らしていくのも悪くないか)
どうかこのまま幸福なエンディングを迎えられますようにと、
俺は女神像に祈った。
ともだちにシェアしよう!

