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第16話 森の神父さん
「リヒトちゃん、今日もありがとうね」
「どういたしまして、ユエバァちゃん。気ぃつけてね」
「感謝します、神父様」
ユエ婆とその息子が揃って頭を下げる。軽く手を振って、帰っていく二人を見送った。
兄弟の巣立ちから4年、俺はこの教会で神父の真似事をして暮らしている。
村に薬や毛皮を売りに行ったときに、具合が悪そうな老人の病気を魔術で治したのが始まりだった。
俺が住む森の周辺に小さな村はいくつかあるが、街が遠いために治療院がなかった。出張診療は高いから具合が悪い中街まで行かなければいけないとこぼしていた老人は、俺の治療にたいそう感激して家族でお礼を弾んでくれた。
それをみて、ここで暮らしていくならちょうどいいかもと教会で治療院の真似事を始めた。
そうこうしているうちに礼拝堂で祈っている姿を見た村人が神父さんと呼び始め、参拝に通う村人もポツポツと増え始めた。
結果俺は「森の神父さん兼お医者さん」として、この辺一帯でそこそこ有名になった。
エンヤとスイはちょうどいいねと笑っていたが、双子+チリは神父とか柄じゃなさすぎでしょっ!と大笑いしていた。余計なお世話だ。
そんなある日の昼下がり、村での往診を終えた教会への帰り道。
明らかに村人ではない鋭い視線を感じた。
(一人、二人か?訓練された人間の動きだ)
風魔法で周囲を索敵すると、怪しい人影が2つ、俺を追跡しているようだ。
村に迷惑がかからないように、そのまま教会に引っ張っていく。
(ネオチルドレン関係か?……同じ場所に留まりすぎたか?)
思案しながら教会に入った瞬間、
「よいしょ」
「!?」
土魔術と水魔術の混合魔術、不審者はどこまでも沈み込む沼に足を取られ沈んでいく。そして出来上がった生首二つ。
「さて、君たちは誰かな?」
「……ちっ」
ボン!
口から吐き出した煙玉が爆発し、あたり一面が煙で覆われる。
「口から出すとか、きったねぇな!」
風魔術で煙幕を吹き飛ばすが、煙が晴れた頃には生首2つは穴だけ残して綺麗に消えていた。
「なんだったんだ?」
首を傾げたそのとき、
「煙が見えたんですが、何かありましたか?」
若い男の声がした、……この声、どこかで聞いたことがあるような、
まだ少し煙の残る森の奥から駆け寄ってきた背の高い男、仕立てのいいローブに身を包み下には騎士服を着ている、魔術騎士団の制服だ。
黒い短髪に、一度見たら忘れない印象的な真紅の瞳、ちらりとのぞく八重歯が笑うと犬みたいで……
「って、え?」
「え?」
完全に煙が晴れた瞬間、俺たちは同時に叫んだ。
「「えーーーーーーーーー!!!!!!!」」
「ねえ、リヒト。元気だった?俺はね元気だったよ。リヒトのおかげでね」
「そうか、それはよかった」
「母さんたちもね、みんなにすっごい感謝してるから、見つけたら連れて来いってずっと言ってるよ。多分家宝とかくれるよ」
「いや、あの、それはどうかなー」
「リヒトはすっごく綺麗になったよね、前から美人でかっこよかったけど、今は美人のが勝ってるかな。白いカソックがとっても似合ってる。」
「あ、ありがと」
「ちょっと痩せた?なんか細くなった気がする、顔色も少し悪くない?ちゃんとご飯食べてる?」
「食べてる食べてる、食ってもふとんねぇんだよ」
「そうなの?俺この前おいしい甘味屋見つけたんだ、今度手土産で持ってくるね」
「うん、わかったわかったから、」
「とりあえず、おろしてくんね」
「??」
いや、何そのわかりませんって顔は。
わかるだろ、なんで24にもなって膝の上で抱っこされてんだ俺は、おかしいだろ。
7年ぶりのクロノスとの再会、なのになぜこんなこと?
「こら、はなせバカ犬。子供じゃないんだ、椅子に座らせろ」
「久しぶりにリヒトに会えたからくっついてたいんだ。……だめ?」
「うぐ」
180センチはあるガタイのいい成人男性がそんな顔したって可愛くねぇぞ!可愛くない!可愛くないったら、可愛く……
「………………今日だけだぞ」
「ありがとう!リヒト!」
(可愛いだろうが!!!!!!!)
眉毛を下げて上目遣いで、怒られた大型犬みたいなしょんぼりした顔でこっちをジーと見るクロノス。俺は昔からクロノスのこの顔に滅法弱い。
脳内でチリが「なにをかわい子ぶりっこしとんだクソガキーーーーーーー!!!!!」と叫んでいる。
わかっていても、抗えないんだ。許せ、チリ。
結局クロノスの膝に座ったまま、会話を続けることになった。なんだ、この状況。
「リヒトたちあの日からずっと行方が分からなかったから、俺ずっと探してたんだよ」
「あの時はキンドの追っ手がくると思ってたから、お前は家で守ってもらったほうがいいとそう思ったんだ、巻き込みたくなかった」
「……でも、それでもさ、ちょっとくらい会うことは出来たんじゃない?」
「…………」
それは俺だって思ったさ、希望の家の解体を聞いて追っ手が来ないまま数年がたって、会いにいってもいいんじゃないかって。
でも、
「……怖かったんだよ、お前は貴族の坊ちゃんで、俺は2年一緒に暮らしただけの他人だ。もう、俺のことなんて忘れてんじゃないかって」
腹に回ったクロノスの指をいじりながらボソボソと呟く、俺死ぬほどダサいこと言ってんな。
まぁ理由はそれだけじゃないんだけど。
「………………」
黙り込むクロノス、
(え?呆れた?そんな理由かって、怒った??)
「……っ!あ~~~~~~~~~!!!!!」
「びくっ」
急に絶叫するクロノス、に飛び上がる俺。
「ちょ、おま、うっさ」
「俺がリヒト忘れるわけないじゃん!どこをどう思い出したら、そんな思考になるわけ!大好きで大好きで仕方ないに決まってるじゃん!!!いつだって四六時中会いたいに決まってんじゃん!!!」
「うぉ」
「でもリヒトがそういう慎み深くて遠慮しいで、もっと直接的にいうと自分の価値を理解していない自己肯定感低男ってことは分かってたし、自分からは会いにきてくれないだろうなって思ってたから別にいいんだけどさ!」
すごい早口で、一気に喋りきったなコイツ
(ってかいま悪口混ざってなかった??)
「だから俺ずっと探してたんだよ。リヒトに最強の魔術師になれって言われたから、魔術騎士団に入って出世して。まぁまぁ権力濫用できるようになってきたから、リヒトの情報いっぱい集めてたの。だめだよ無属性の治療魔術なんて、あのくそ神父以外はリヒトしか使えないんだから」
「……お、お前」
「やぁっと見つけた、リヒト……」
「これからはずーーーーーと、一緒だよ」
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