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第17話 同棲って言い張るのやめろ
「で、あの煙はなんだったの?」
「あー、ね?」
「リヒト?」
「……」
大人になったクロノスはなんだか圧がすごい。察して引いてくれる感じが微塵もしない。
「そんなこと言われたって、俺だってわかんねぇよ」
「これ土と水の拘束魔術でしょ?二人捕まえて逃げられたってところ?」
「……分かってんじゃん」
一目で魔術の種類までわかるとは、やるなお前。
「俺が知りたいのはそこじゃないよ。相手が何者なのかってところだよ」
「俺もわかんないけど、恨みを買った覚えはないし、ネオチルドレン関係の人間じゃないのか?」
「うーん、それは一理あるかも。この前何人か捕まえたし」
「は?」
今こいつ、なんつった?
満面の笑みでクロノスは続けた。
「あ、キンドもシムもいなかったよ。本当に残り滓って感じ」
「お前、……すごい騎士様になったんだなぁ」
頭をわしわし撫でてやると、昔のように目を細めて気持ちよさそうにするクロノス。大型犬みたいで可愛いんだよなぁ。
「キンドとシムが関わってる組織だとしたら一筋縄ではいかないよね。捕まえた奴らは口を割らなかったけど」
「たしかにな、キンドは無駄に人望があるし、シムの頭脳も侮れない」
「うん、だからね」
おい、だからお前、笑顔の圧が強いぞ。
「同棲しよ」
「は?」
ーーーーーー
「リヒトご飯できたよ!」
「おう、さんきゅ」
クロノスと再会したあの日から、俺たちは一緒に住んでいる。
決してクロノスが言うような同棲ではない。アイツは頑なに言い直してくるが、これは「護衛のための一時的同居」だ。
「今日はスタミナ丼~~~、この前とってきたお肉をふんだんに使った丼ぶりです」
「おっまえなぁ、こんなん食えねぇよ。俺そんな若くないから」
「そんなことばっかり言ってお肉食べないからリヒトはカリカリなんだよ、ちゃんと野菜も入ってるから!」
「そうは言ってもなぁー」
敵の正体がわからない以上、いつまた刺客が襲ってくるかわからない。狙われる可能性が高いから護衛として近くで守るのだとクロノスは言った。
今日、クロノスは数日ぶりに騎士団に戻り、報告をしてきたはずだ。
「お前、ちゃんと許可とってきたんだろうなぁ。無断欠勤でクビになってましたとか、俺やだぞ」
「大丈夫だよ、信用ないなぁ。ちゃんと上司に報告して同僚に引き継ぎの仕事押し付けて、部下に課題渡して帰ってきたよ」
「お、おう、そうか」
俺が想像する以上に、コイツは騎士団での地位が高いのかもしれない。やってることがゴーイングマイウェイすぎる。
「それに騎士団の任務で重要人物の護衛ってのは、存在するから。俺がわがまま言ってるわけじゃないよ」
(重要人物って誰だよって突っ込みたいけど、多分めんどくさいことになるからやめとこ)
「なるほどね。でももうあれ以降なんもないけどな」
「リヒトは警戒心なさすぎ!ちゃんと村に行く時も俺に声かけてよね!」
「はいはい」
この前クロノスが狩りに出かけている間に、村に薬の配達をしに行ったらメチャクチャに怒られた。俺の弟は離れている間にブラコンを拗らせすぎて、過保護になってしまったのかもしれない。
「ご馳走様、美味かったわ。皿洗っとくから、先風呂入るか?」
「片付けありがとう!……ふふ、リヒト、お風呂一緒に入る?」
「あぁ、そうするか」
「はは、だよねー!………………え?」
背後で固まるクロノス。
水汲たすのもあっため直すのもめんどくせぇし、一緒に入っちゃえばいいか。
「リヒト」
「ん~?」
皿を洗いながら、答える。背後から聞こえるクロノスの声は、なんだか固い。
「本気で言ってる?」
「うん、一緒に入ったら楽ちんじゃん」
「俺に裸見られるんだよ?」
「そんなもん何回でも見たし、今更じゃん」
「………………それは、10才の時の話だろ」
「ん?なんか言った?」
「いや?なんも?」
「?」
「…………………………、やっぱちょっと寒いし先入ろっかな」
「おう、分かった」
「ちゃんとお湯貯め直しとくから」
「サンキュー」
クロノスが部屋から出ていく。
皿を洗い終わった俺は、クロノスの寝巻きの準備をする。
「あいつエンヤと大きさ変わんないんだよな~、でかくなりすぎだろ」
(あ、ってことはさすがに二人で風呂は無理だな。浴槽隙間なくなっちゃうじゃん)
今更な事実に気づいて、俺は一人で笑った。
「リヒト~!乾かして!」
「はいはい、待ってな」
「わーい!」
びしょ濡れの大型犬が俺を呼んでいる。
コイツはいつも俺に髪を乾かしてもらいたがる。それこそ8才で希望の家にきた時からずっと。
(ドライは風の初級魔術、今どき子供でも使えるんだけどな)
「リヒトにやってもらうのが、一番気持ちい!」
「はいはい、目瞑ってな」
「ん!」
短い短髪をさばいて乾かしていく。細くて柔らかい髪の毛は、子犬みたいだ。
短い髪はすぐに乾かし終わる。
ふわふわの髪の毛に顔を埋める、うん、いい匂い。
「リ、リヒトっ」
「ん?」
「あ、あの」
「どした?寝巻きそこにあるから」
「う、うん……」
「俺も風呂入ってくるわ」
立ち上がり風呂に向かう。
こんな風に誰かと会話しながら生活するのなんて、何年ぶりだろう。
寂しいなんて感情、もうずっと感じることなかったのに、一人だってなんともなかったのに。
「お前いなくなったら、寂しくなっちゃうだろ。バカ犬」
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