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第18話 俺の神様(クロノス視点)

 俺の神様、それは7つ年上でこの国一の魔術師で、誰よりも慈悲深く優しくて、……それでいてたいへん困った人だった。    俺の家は歴史ある魔術師の家で、そういう家は何百年も前 に今より人間が多くの魔力を持って生まれてきた頃に使っていたとされる、「旧魔術」を伝承することが定められている。  旧魔術は、必要魔力量が桁違いだから現代魔術師が使えるのはほんの一欠片、ほとんど実用性はない伝説みたいなもんだ。途絶えさせないように、伝えていく事自体が目的だった。  俺の家は時空魔術を伝承する家だった。過去には時間を止めたり未来を見たり、過去に戻ることも可能だったとか。そんな神業人間にできるとは思えないし、起きたら大混乱だろうから作り話だろうと思っているが。  祖父から父へ、父から俺へ、一子相伝で受け継がれ、決して漏らさず悪用しないようにと、受け継いだものは誓いの魔術で契約を結ばされる。その契約を10才の誕生日に行うのが慣例だった。    俺は誘拐され家に居なかったのだから、そんな伝承の儀式行えるわけがないのだが、叔父は父から勘当され疎遠になっていたからそんな事知るわけもなく。  10才の誕生日を迎えたその朝に、俺の両親を殺して俺を誘拐しようとした。伝承される旧魔術を独占し金に変えるために。    燃える屋敷で、血を流して倒れる父と母。俺は頭が真っ白になって、ただ両親の名前を呼ぶことしかできなかった。瀕死でほとんど息がなかった2人を、リヒトは救ってくれた。  治療が終わった後のリヒトの顔色は最悪で、手足も冷えて震えていたし、全身の痛みで起き上がれないようだった。一度意識が飛んで倒れかけた時には、必死で手を引いて抱き寄せた。あまりに冷たい体にほんとうに死んでしまうかと思った。  リヒトの体を抱きしめて、俺は思った。  (この人は神様なのかもしれない)  と。    普通の人間は自分の命をかけて他人を救うなんて、そんなことできやしない。誰だって自分が一番大切で、そんな当たり前のことをリヒトは分からない。    この人は俺たちとは違う感覚で生きてるんじゃないかって、目を離したらすぐに消えてしまうんじゃないかって、そう思った。    両親は一命を取り留め、叔父は捕まった。だが、俺はリヒトを、兄を失った。  彼らは初めから俺と別れるつもりだったんだ。あの作戦会議はお別れ会で、もらったものは最後の贈り物だったのだとその時初めて気がついた。    去り際リヒトは「幸せになれよ」と笑ってそう言った。  初めて掛けられた言葉のはずなのに、何故が聞いたことがあるような不思議な感覚があって、優しい祈りの言葉のはずなのに、涙が溢れて止まらなくなったのを覚えている。      その日俺は、神様をなくした。  大好きで憧れて崇拝していた、神様のいない生活は虚しかった。砂を噛むような、色のない世界を歩くような、そんな日々。  でも俺は、諦めるつもりはさらさらなかった。  リヒトが言ったんだよ、幸せになれって。あなたがいないと俺は幸せになんてなれないんだ。  俺に捕まる準備をしておいてね。      12で騎士団に入り、16で成人になるのと同時に最年少で部隊長になった。「灰の塔」から勧誘もあったが、興味はなかった。俺は、リヒトを探し始めた。  俺が騎士団に入団し少しした頃、なんとチリが入団してきた。暇だから騎士やるわ~となんともやる気のない様子だったが、当たり前に才能の塊なのでやる気のなさとは裏腹に普通に活躍していた。俺の出世と同時に俺の部隊に引き抜いてやった。  チリは一切リヒトの情報を漏らさなかった。元気だよーとは教えられていたけど、「リヒトが会う気がないなら教えなーい」と頑なに拒まれた。追跡も完全に撒かれるので、チリを辿ってリヒトを探すのは早々に諦めた。    そうして部下(兄)におちょくられながら情報を集めて、やっと見つけた手がかり、野獣に襲われ怪我をした行商人が、立ち寄った村で治療を受けたという報告。  「温かい光が染み込むようにして傷が治った」と、  そんな治療魔術はキンドかリヒトしか使えない。  俺はチリに仕事を押し付けて無理やり休暇を取り、情報があった村へ向かった。村人に聞いたらすぐにわかった、透けるような白髪と空のように鮮やかな青い目、神様のような治療をする美しい神父の男。    胸がはやり、心臓がドキドキと鳴る。    だが村人に教えられた教会に向かう途中、木々の間から突然煙幕が流れてきた。教会は目と鼻の先、まさか火事かと慌てて近寄ったそこには、    リヒトが立っていた。    (あぁ、何にも変わってない)  少し痩せたか、でも美しい姿も俺を見る瞳も、呼ぶ声も何にも変わってない。  (やっと会えた)  俺は数年ぶりの邂逅を、普段信じてもいない天の神に感謝したのだった。    ――――――――――    そして数日が経ち、俺はリヒトと同棲生活を送っている。  リヒトには「護衛のための一時的同居な!」と言われるが、俺の中では同棲。大好きな人との共同生活、しかも2人きり、最高すぎる。  騎士団に報告に戻った時、こっちに来ないようにこれでもかとチリに仕事を押し付けてきた。「おまえ、ついにやったか……!?」と掴みかかられたが、なんとかかわして逃げた。  (そのうちリヒトにも言わないと、チリに有る事無い事吹き込まれるのは困る)  突然始まった共同生活であったが、概ね順調に暮らしていた。  ただ、一点を除いては。 「リヒト、お風呂一緒に入る?」 「あぁ、そうするか」    (そうするか!?!?!?)    あまりに警戒心がない、というか少しも男として見られていない。完全に子供、弟、もしくは犬。    (こんなでかい子供がいるか!?)    子供だと思ってくれているから、甘えさせてくれるのは分かってる。それを利用して甘えまくってる自覚はある。 ……あるんだけど。   「ほら、ねるぞ。電気切るな」 「…………」 「眠れないのか?手つなぐ?」 「………………うん」    (手つなぐ!?!?!?)  温かい手の感触、    俺の神様は、俺の理性を試しているのでしょうか。      

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