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第25話 悪の組織をぶっ潰せ!
日が暮れた夜の街、俺は一人で教会への帰路をたどっている。
その日はクロノスが外せない会議で騎士団に帰って、俺はエンヤとスイに用事があって訪ねた、……という設定だ。
夜の街、住宅街を抜けた人気のない通り、人攫いが出没すると騎士団がマークしている区画に入る。
もちろんわざとだ。
背後に跡をつける気配が3つ、
(よし、かかった)
手を掴まれる。振り返った瞬間、俺の背後に回ったもう一人の男が音もなく首筋にナイフを当てた。
「騒ぐな、声を出したら殺す」
こいつら慣れてる。研究所の奴らじゃこうはいかないだろう。隣国の犯罪組織と手を組んだってのはマジだったか?
ゆっくり両手を挙げると、後ろに控えていた魔術師が拘束魔術で四肢を縛り口を塞ぐ。ここまでは想定通り、あとは待機している兄弟たちと一緒にクロノスが俺の跡を追ってくれるはずだ。
担ぎ上げられ、夜の街に姿を隠す。しばらく進んだあと地下水路に入り、暗闇を照らしながら進んでいく。
(誘拐後の経路が確立されてる、これ組織としてすでに出来上がってねぇか)
想定よりずっと組織立った動きや無駄のない犯行に驚く。研究所の残党が立ち上げた組織っていうよりは、隣国の犯罪組織がうちの国で活動を始めたっていう認識の方が正しい気がする。
「本当にターゲットはこいつなのか?全然抵抗しなかったし弱かったぞ」
暇になったのか、俺を運搬する男が喋り出した。
「確かにな、あいつの話だと相当な魔術の使い手だって話だったもんな」
「ひょろひょろだし女みたいだ」
「魔術に性別は関係ないだろ、油断すんなよ」
「油断はしてねぇけど、一体何に使うんだろうな」
「この顔だぞ、そりゃ売り飛ばすんだろ。変態親父に高く売れるぞ」
(………………これは、大元が人身売買組織ってのは間違いないな。気になるのは俺の情報を持つ『あいつ』が誰なのか、だ)
「こいつは売りもんじゃない、餌だってよ」
(は?……待てよ、俺が餌だとしたら、一体誰を)
あいつらが最後まで欲しがっていたのは……、
(クロノスか……!?)
「うわ、暴れんな、こら!」
このままアジトに連れて行かれるのはまずい!俺を人質にクロノスを捕まえるつもりなんだとしたら……!
「うっ!」
床に落とされ、腹を蹴られる。頭は意識が飛ぶとまずい、頭を庇うように丸くなる。
「大人しくしろ!こいつ、なんだ急に!」
混乱する男たち、武器を取り出される前に。腕に魔力を込め炎の刃で拘束魔術を切り落とした、その瞬間。
「ダメですよ」
「!?」
腕に込めた魔力がかき消えた、これは魔術の使用を禁じる魔法陣の結界。
男たちに背後から取り押さえられる。
「…………久しぶりですね、リヒト?」
(……シム、)
実に7年ぶりの再会だった。
再び拘束されて連れてこられたのは、なんと希望の家の地下、研究所だった。街の地下水路と研究所がつながっているなんて、10年住んでたが全く知らなかった。
まぁ国主導で作ったまっくろ研究所だ、誘拐ありきで作ってたんだろうな。
口の拘束だけ外され実験室の椅子に座らされる。静かな実験室に嫌な記憶が蘇り、手のひらにじっとり汗をかく。
(なんとかみんなが来る前に、情報を引き出さないと)
魔術を封じる結界がまずい。魔封じの術なんて相当な触媒を用いないと成立しない。前の結界は国宝の鏡を使っていたが、あの鏡は完全に破壊したはず。
一体どうやって……?
なんとか時間を稼いで対策を考えないと、このままじゃ全員捕まっちまう。俺の周りで暗器をいじっているシムに話しかける。
「シム、7年ぶりか?希望の家はなくなったって聞いてたんだけど」
「えぇ、一度は解散しましたよ。でももっと大きくなって復活したんです、ここも懐かしいでしょ?」
作った笑顔が恐ろしい、昔はもっと感情的な男だったはずだが。まるでキンドのようだ、いやわざとそう振る舞っているのか。
「お隣は常に戦争をしていてね、強い魔術師が欲しいっていうから教えてあげたんだ。魔術師の場所とこの地下通路をね、ここは使い勝手が良くていいだろう?」
「あぁ、そうだな。10年住んでたのに、全然知らなかったよ」
シムは魔術師の情報と誘拐に便利な施設を差し出し、犯罪組織からは実働用の戦闘員をもらったってところか。互いに益があって手を組んだ。
(そこまでしてシムが欲しいもの、……そんなものは一つしかない)
「なぁシム、キンドはどこだ?見当たらないようだけど」
「……」
シムの顔色が変わる。
この部屋には俺を連れ去った男たちと、シムの4人だけ。キンドの姿は見えない。
シムはキンドの信奉者だった。最後に希望の家で会った様子からキンドが再び計画を主導するとは考えにくい。ならこれは、こいつの単独計画のはずだ。
「キンドがお前に指示したのか?いや違うよな、あいつはもうそれを望んでいないはずだ」
「違う、……違う、お前にキンド様の何がわかる」
(よし、乗った)
「わかるさ、俺はあいつの唯一の弟子だ。あいつが何を望んでいて、そして諦めたのか、全部知ってる」
「諦めてない!俺がいる限り、キンド様の希望は潰えない!」
かぶりを振って必死に否定するシム。自分に嘘を重ねて現実から目を逸らして、そうやってここまでやってきたんだろう。
「キンド様だって戻って来てくれるはずなんだ。だから証明しないと、俺は役立たずなんかじゃないって」
目が血走っている。
(その調子で、自分の世界に浸ってろ)
今のうちになんとか魔法陣の位置を特定しないと。しかし部屋中を見渡しても、それらしきものは見当たらない。
(この部屋にないんだとしたら、もう詰みじゃねぇか……!?)
焦る俺にシムの叫びが聞こえた。
「時空魔術があれば!クロノスさえ手に入れれば、……すべてが上手くいくはずなんだ!」
(……時空、魔術だと?)
「リヒト!」
地上入り口から下りて来た、6人の兄弟が駆け寄ってくる。
(くそ、間に合わなかった!)
クロノスが辿り着いてしまった。このままじゃ、まずい。
「建物内は結界で魔術が使えない!武器を離すな!」
俺の声にクロノスとチリが即座に反応する。さすが騎士、常に帯剣してて偉いぞ。
地下の冷えた室内に、緊張が走る。
「お互い魔術が使えないなら、お前たちだってジリ貧だろ。ここからどうするつもりだ。言っとくがチリとクロノスは騎士だ。その辺のチンピラには魔術がなくても負けないぞ」
そうだ、俺たちが魔法を使えないなら相手だって使えない。そう簡単に捕まりはしない。
俺の言葉をシムは鼻で笑って、返す。
「ふん、戦う必要なんてない」
シムは背後から、小さなスイッチを取り出した。
「お前らは、俺には勝てないよ」
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