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第3話
「やって、あらたせんせが、こうくんのパパかっこええねって言うてくれたんやもん!」
「でも、おとうは、おとうやんか!」
「そんなんで喧嘩せぇへんの。弦(げん)と洸(こう)が仲ようせな、おとう悲しいで」
閉園時間の6時を大幅に過ぎた頃、息を切らして駆け込んだ幼稚園の玄関。
わかば組の新(あらた)先生が、「すみません、僕のせいで兄弟喧嘩になっちゃって……」と、オロオロしながら職員室から出てきた。
6時を過ぎた教室はもう閉まっていて、帰る用意を済ませた二人と、新先生、それに副園長先生が一緒にお話しをしながら待ってくれていたみたいや。
「僕が元宮さんのことを『パパ』って呼んだのが、どうも気に入らなかったみたいで。洸君が『パパ』って言うたびに、弦君が『おとうや!』って怒るんです……」
「……そんなことで喧嘩ですか?」
今まで奥さんに任せっきりやったから、普段どんな些細なことで喧嘩してるんかなんて、気に留めたこともなかった。大体はおもちゃの取り合いとかやったしな。
兄貴の弦はお母さんっ子やし、一つ下の弟の洸は俺が疲れて寝ていてもぴったりくっついて遊んでるお父さんっ子や。
「……洸君、さっきのは内緒って言うたやろ?」
新先生は少し耳を赤くして、洸を抱き上げた。……ん?洸はさっきなんて言うてたっけ?
「……だって……パパって、呼びたかったんやもん……」
洸はしゃくりあげながら、溢れてくる涙を小さな手で必死に擦っている。その姿を見て、胸がキュンと締め付けられた。
「そうやんな。洸、あらた先生のこと好きやもんな。あらた先生と一緒がええんやもんな」
頭を撫でてやると、洸はうんうんと頷いて「おとうの次に好き……」と、新先生の肩に顔を埋めてしもた。
「……弦。今、洸が『おとう』って呼んだで。やったな!」
副園長先生の陰に隠れている弦にコソコソと耳打ちして、手のひらを見せる。弦は真っ赤な目のまま、おててを「パチン」と返してくれた。こっちのやんちゃ坊主にも、おとうは胸キュンやで。
「……元宮さん。これから、どうされますか?」
たっぷり含みを持たせて言われた副園長先生の言葉に、俺は改めて遅れたことを謝り、保育園への転園も含めて役所に相談しに行くつもりだと、今後のことを伝えた。
「私共も、元宮さんには協力したいのは山々なんです。ですけれど……職員の勤務時間のこともありますし。今日は野中先生が残ってくださったので対応できましたけど……」
副園長先生の言いたいことは、痛いほどわかる。
今まで当たり前やと思ってた。俺が会社で安心して働けるのも、自由に飲みに行けるのも、全部奥さんがおったからなんやと今更ながら思い知らされた。
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