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第7話
「元宮さん! 営業に来るんですか?!」
いつものように秀太にランチに誘われ、「吉牛やったら行くわ」と返事をした直後。勢いよくうちの部署に蜷川が駆け込んできた。
「え、情報早すぎやろ。異動願い出したん、今朝やで?」
「そやな」
秀太と顔を見合わせてポカンとしていると、蜷川は俺のデスクまで詰め寄ってきた。
「うち、人手不足なんです! 新人も育てなあかんし、今元宮さんが来てくれたら、めちゃくちゃ助かります!」
「……いや、まだ許可も下りてへんし。引き継ぎだって時間かかるし」
蜷川にぎゅっと握られた手に、嫌でも意識が向く。……うわぁ、蜷川ってめちゃくちゃええ匂いするな。
「ああ、やっとこれで元宮さんにお礼ができる。俺、一緒に働けるの、本気で楽しみにしてますから!」
満面の笑顔で片手を上げると、弾むような足取りで嵐のように去っていった。
「……爽やかな嵐やったな」
一体、何やったんや。一方的すぎて、いつもの蜷川じゃないみたいやった。
「俺、あの子にお礼されるようなこと、何かしたっけ?」
「新人の時は、俺の下についてたからな。あるとしたら俺に山程あるやろ」
秀太が少し悔しそうに笑うので、俺も「確かにそうやな」と相槌を打つ。
「蜷川の奴、俺のこと、全く見えてへんかったみたいやわ」
皮肉か冗談か分からないことを秀太がぼやきながら会社を出ると、「元宮さん! 中目さん! 一緒にランチいいですか?!」と、またしても蜷川が財布を片手にダッシュしてきた。
いや、だからどうしたんや、そのテンション。よっぽど嬉しいんやな、俺が行くのが。
「……結局、パニーニか」
蜷川のリクエストで、スーツ姿の大男三人がカフェテラスでランチを囲むことになった。くそ、この運命から逃れられへんのやったら、せめて『パニーニ定食』って頭の中で名付けたる。お前、今度生まれ変わる時はちっさくなって、おにぎりくらい食べやすくなって生まれて来いよ? そしたら毎日でも食べたるわ。
まあ、言うても可愛い後輩のわがままや。一回くらいは聞いてやらなあかん。……貯金のほとんどを奥さんに持って逃げられた俺の財布に、連日のカフェの割高さと摂取量の少なさは正直きついけどな。
「元宮さんの奥さん、世界一周旅行に行ってはるんでしょ? めちゃくちゃアクティブですよね!」
ぶふっ、と秀太が紅茶を吹き出した。当の俺は、少し遅れてフリーズする。
「……は?」
噂に尾ひれがつくと、えらいことになるもんや。奥さんが家を出たことは秀太と部長にしか言っていない。部長が適当に誤魔化したのが、変な形で広まったんやろう。まあ、本当のことを伏せてくれただけでも、ありがたいと思わなあかんか。
「お子さん、いらっしゃいましたよね? 男の子二人。奥さんと一緒……ってわけにはいかないですよね?」
遅かれ早かれ、蜷川にはバレるやろう。俺は信頼している彼に、今の事情をすべて話した。
「……マジっすか。大変ですね……」
さっきまでの浮かれた様子は消え、蜷川は思ったよりも深刻な顔で考え込んでしまった。
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