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第20話

「元宮さん。週末お疲れ会です。少し飲みましょ?」 シャワーを浴びてリビングに戻ると、テーブルで待っていた蜷川にそう声をかけられた。 なんや、先に寝室へ行ってくれてたら、この心臓の高鳴りも少しは落ち着かせられたのに……。 「……おう、もちろん。付き合うわ」 平静を装って冷蔵庫を開け、ビール缶とおつまみを取り出す。 お酒を飲むとなると、さすがにさっきみたいに子供たちのベッドに潜り込むわけにはいかんな。酔った勢いで小さな二人を潰してしもたら洒落にならんしな。 「お疲れ様でした」 カチン、と軽い音を立ててビールで乾杯する。 それにしても、こないだ「新先生はいらないですよね?」なんて牽制するようなことを言っていた蜷川が、なぜ今日、新を家に呼ぶことを提案したのか、それがちょっと不思議やった。 「……新とは、仲良くなれたみたいやな?」 俺がそう振ると、蜷川はビール缶を持ったまま、少し口を尖らせた。 「……それ、ちょっと気に食わないです」 「へ?」 なんや、俺、こんな一言で蜷川を拗ねさせるようなこと言うたか? 「俺の方が先に元宮さんと知り合ってるのに。なんで、新先生が先に呼び捨てされてるんですか?」 「いや、それは……そういうきっかけがなかっただけやと思うねんけどな」 そもそも、プライベートでこんなに関わるようになるまでは、社内でたまにすれ違って軽く話をするだけの先輩と後輩やったわけやし。 「じゃあ、新先生とはどういうきっかけで呼び捨てになったんですか?」 身を乗り出して詰め寄ってくる。まぁ、新は俺のことを「元宮さん」と呼んでいるのに、俺だけが偉そうに「新」と呼び捨てにしているのが気になるのは分からんでもない。 「……早く仲良くなりたいから、タメ口で、呼び捨てにして欲しいって。新の方からお願いされてん」 そう答えた瞬間、蜷川があからさまに機嫌が悪くなっている。さっきまでリビングであんなに新と楽しそうに笑い合っていたのに、あれ、嘘やったん? 「……じゃあ、俺のことも空って呼んでください」 「いや、さすがに会社内でそれはまずいやろ」 突然の下の名前呼びの要求に、俺は慌ててビール缶を置いた。 「新先生だって、幼稚園でそれはまずいでしょ?」 「いや、幼稚園で呼ぶ時はちゃんと新先生って呼んでるで?」 「じゃあ、俺も会社では『蜷川』、それ以外は『空』って呼んでください」 鋭い視線で真っ直ぐに見つめられ、言葉に詰まる。 そんな怒ったように真剣なお願いをされても、俺はどうしていいか分からん。 新のときは、まだよかった。お互いに子供をきっかけに、戦友や友達のような感覚からスタートしたから、呼び捨てにもすんなり移行できた。 でも、蜷川はちゃうねん。 俺は蜷川を一人の人間として、ちょっと……いや、かなり意識してしまっている。そんな相手を、まるで恋人同士みたいに下の名前で呼ぶなんて、そんな簡単な事じゃない。

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