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第29話
「さあ!じゃあ、みんな好きなもの全部頼んでええで!」
カフェのテラスから店内に移動し、俺は声を張り上げた。
何事かと周りで見守っていてくれた店員さんに、「騒がしくしてすみません、お詫びにいっぱい注文させてもらいますんで」と頭を下げて回ると、店員さんはクスッと笑って快く広い席へ案内してくれた。
「元宮さんはやっぱりパニーニですよね?」
席につくなり、空が嬉しそうに俺の前にメニューを広げる。
「……パニーニってなんですか?」
不思議そうに首を傾げる新に、「なんか食いにくいオシャレなパンや」と説明すると、新はジッと俺を見つめてきた。
「……元宮さんっておじさんなんやなって、今気づきました」
そう言って、100年の恋も冷めたような顔をしてる。
まぁええ、まぁええ。若者は若者同士で恋したらええねん。こんなおっさんに好意を寄せても仕方が無いで?
「俺、パニーニとホットコーヒーにするわ」
「僕も、元宮さんと同じもので」
「じゃあ俺もパニーニで! あと、クリームソーダ3つ!2人はショートケーキも追加で!」
嬉しそうに、子供たちとお揃いのクリームソーダを注文する空を見ていて、相変わらずやなと顔がニヤけて仕方がなかった。
運ばれてきた鮮やかな緑色のグラスを前に、子供たちと一緒になってバニラアイスを突ついている空。その姿を眺めながら、俺はあることに気付いた。
今日、久々に奥さんと会った。
あいつは弦のことを力いっぱい抱きしめた後、その愛おしそうな手のひらで、弦の頬を優しく撫でていた。
その仕草が、「良くできました」と弦の頬を撫でた空にそっくりやった。
何事にも一生懸命で、仕事の覚えが早くて、どんなことでも器用にこなせて、そして……どこまでも美しい。
あの春の日、新入社員として入ってきた空に感じた、憧れとも恋とも取れる特別な気持ちは、かつて俺が、あの眩しいくらいに輝いていた彼女に惹かれたあの時と、まったく同じ気持ちやったんやなと思った。
そして、そんな空に、弦もまた実の母親に甘えるようにベタ惚れしている。
「元宮さん?パニーニ来ましたよ? とりあえず今は美味しいものお腹いっぱい食べましょ?」
「……そうやな?」
優しく微笑む空を見つめ返す。
俺と弦は、かつての彼女に似ている、空の眩しさと温もりに、どうしようもなく惹かれていったんやなと思った。
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