33 / 54
第33話
「元宮さん、あの時奥さんになんて言われてたんですか?」
子どもたち二人が激しい公園遊びの後、お昼寝に着いたところで、リビングの机で一休みしていた新が聞いてくる。
空はそれに気づいていなかったようで、俺の顔をじっと見つめている。
「……そんな大したことじゃないで?」
軽く笑って流そうとする俺に、新が「俺たち家族でしょ?」と真剣に促す。
「……優しいだけの、つまらない人って」
自嘲気味に呟きながら、苦い過去が頭をよぎる。
「……かわいそうな人ですね」
ぽつりと空が呟いた。そうやんな。俺自身もそう思ってる。どこまでも頼りなくて、情けなくなる。
「ほんと、そうです。元宮さんの偉大さに気づけなかった奥さんは可哀想な人です」
新と空が目を合わせて、ふふっと笑い合っている。
「……でも、俺、子どもたちにも奥さんにも選ばれへんかったしな?」
情けない言葉が口をついて出る。よく考えれば、この家には新と空さえいれば、俺なんかおらんでもええような気すらしてくる。
「子どもたちにとって父親なんてそんなもんですよ。だから『縁の下の力持ち』って言葉があるんでしょ?」
新は穏やかな声で、諭すように言葉を続けた。
「子どもたちからしたら、分かりやすく甘やかしてくれて、お世話してくれる人に懐くに決まってます。でも、家族を丸ごと包んでくれていた父親という存在の凄さには、大きくなった時にふと気づくもんなんです」
「……」
「それに、俺たちは元宮さんを選びました。それが、元宮さんはつまらない人なんかじゃない、愛がたくさん詰まっている人だって何よりの証拠です」
真っ直ぐに、一点の曇りもない目でそう言ってのける新に、胸の奥がじんわりと熱くなる。……ほんま、さすがやわ、新先生は。
その穏やかで心地いい言葉は妙に説得力があって、心にすっと響く。
そっと、机の下で空が俺の手を握った。
大きな、でも少し緊張で強張った温かい手。言葉以上に伝わるその体温に、空への返事をするかのように、俺もその手を優しく握り返した。
「……そんなこと言うたら、ダーリンに愛想尽かされるで?」
少し照れくささを誤魔化すように、さっきの朝の茶番を引っ張り出して意地悪く返してみる。
「あ、……じゃあ、今のは三人だけの秘密で」
新は、唇に人差し指を立てて悪戯っぽく笑った。
それを見た俺と空は、繋いだ手はそのままで、自然と顔を見合わせて同時に吹き出していた。
「ほんま、ありがとうな、新。これからも……家族をよろしく」
空いている右手を差し出すと、新もそっとその手を握り返してくれた。
「え!? なんで空が泣いてんの!?」
俺の手を握っていた空の手がふっと離れたかと思ったら、空は両手で顔を覆って、ボロボロと泣いていた。
「だって、新先生が泣かせてくるから……っ!我慢できひんかったんやもん!」
鼻を赤くして子供みたいに抗議する空の様子に、俺も新も思わず大笑いしてしまう。つられて空も涙を拭いながら吹き出した。
空と新がいいのなら、俺たちはそれでいい。この先も愛が続く限り、この家族を守っていこう。
ともだちにシェアしよう!

