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第33話

「元宮さん、あの時奥さんになんて言われてたんですか?」 子どもたち二人が激しい公園遊びの後、お昼寝に着いたところで、リビングの机で一休みしていた新が聞いてくる。 空はそれに気づいていなかったようで、俺の顔をじっと見つめている。 「……そんな大したことじゃないで?」 軽く笑って流そうとする俺に、新が「俺たち家族でしょ?」と真剣に促す。 「……優しいだけの、つまらない人って」 自嘲気味に呟きながら、苦い過去が頭をよぎる。 「……かわいそうな人ですね」 ぽつりと空が呟いた。そうやんな。俺自身もそう思ってる。どこまでも頼りなくて、情けなくなる。 「ほんと、そうです。元宮さんの偉大さに気づけなかった奥さんは可哀想な人です」 新と空が目を合わせて、ふふっと笑い合っている。 「……でも、俺、子どもたちにも奥さんにも選ばれへんかったしな?」 情けない言葉が口をついて出る。よく考えれば、この家には新と空さえいれば、俺なんかおらんでもええような気すらしてくる。 「子どもたちにとって父親なんてそんなもんですよ。だから『縁の下の力持ち』って言葉があるんでしょ?」 新は穏やかな声で、諭すように言葉を続けた。 「子どもたちからしたら、分かりやすく甘やかしてくれて、お世話してくれる人に懐くに決まってます。でも、家族を丸ごと包んでくれていた父親という存在の凄さには、大きくなった時にふと気づくもんなんです」 「……」 「それに、俺たちは元宮さんを選びました。それが、元宮さんはつまらない人なんかじゃない、愛がたくさん詰まっている人だって何よりの証拠です」 真っ直ぐに、一点の曇りもない目でそう言ってのける新に、胸の奥がじんわりと熱くなる。……ほんま、さすがやわ、新先生は。 その穏やかで心地いい言葉は妙に説得力があって、心にすっと響く。 そっと、机の下で空が俺の手を握った。 大きな、でも少し緊張で強張った温かい手。言葉以上に伝わるその体温に、空への返事をするかのように、俺もその手を優しく握り返した。 「……そんなこと言うたら、ダーリンに愛想尽かされるで?」 少し照れくささを誤魔化すように、さっきの朝の茶番を引っ張り出して意地悪く返してみる。 「あ、……じゃあ、今のは三人だけの秘密で」 新は、唇に人差し指を立てて悪戯っぽく笑った。 それを見た俺と空は、繋いだ手はそのままで、自然と顔を見合わせて同時に吹き出していた。 「ほんま、ありがとうな、新。これからも……家族をよろしく」 空いている右手を差し出すと、新もそっとその手を握り返してくれた。 「え!? なんで空が泣いてんの!?」 俺の手を握っていた空の手がふっと離れたかと思ったら、空は両手で顔を覆って、ボロボロと泣いていた。 「だって、新先生が泣かせてくるから……っ!我慢できひんかったんやもん!」 鼻を赤くして子供みたいに抗議する空の様子に、俺も新も思わず大笑いしてしまう。つられて空も涙を拭いながら吹き出した。 空と新がいいのなら、俺たちはそれでいい。この先も愛が続く限り、この家族を守っていこう。

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